05

 営業所に全員が揃うのは夕方だった。朝の6時過ぎには出社して、15分もしないうちに各自がトラックを出す。だから朝礼ではなく夕礼がある。

「お疲れさまです」事務所のドアを開ける。

 新人のおれは普段から皆より帰社が遅れ気味だ。たいていほとんどのメンバーがすでに戻っている。

 そっけない会議テーブルのいつもの位置に座る。隣では松本さんが面倒くさそうな顔をして運行日報を書いていた。ついこの間までおれのトラックに同乗して仕事を教えてくれていたのが彼だった。

「松本さんさ、陸送っていくらぐらいかかるもんか知ってる?」

 彼は営業所で一番若い。皆はまっちゃんと呼ぶが、おれは苗字にさん付けだ。

「おれはわかんないなあ」

 松本さんが首をひねっていると、向かいでスポーツ新聞を読んでいた浦野さんが話に入ってきた。浦野さんはおれたちよりも歳上で運送業界が長い。

「どこまで?」

「青森らしいんですよね。このへんから」

「長距離だと10万とかじゃないかな。おれもはっきりとはわかんないけど」

「わりとかかるんですね。でもそんなもんか」

「知り合いがやってたんだけど、まあ相手が個人と業者じゃ値段も違うだろうしな」

 浦野さんは壁にかかった時計を見ながら新聞を畳んだ。日報を書き終えた松本さんが言った。

「ネットで見積とれるんじゃないすか?」

「そうな」浦野さんがうなずく。

「そいつに聞いてみてもいいけど、ネットの方が早いよ」

 夕礼が始まった。皆で声を揃えて指差し呼称をする。何度やってもいまだに違和感がある。所長からいくつか伝達事項があって、また一日が終わった。


 営業所の駐車場で自分の車にエンジンをかける。エアコンを全開にしてから、また外に出た。こもった熱気が出ていくまでの間に、鮎川さんに連絡をしておくことにした。

 彼女はすぐに電話に出た。

「男の人なのにあんな甘いものって、あの後ちょっと思ってしまいました」

 口調によそよそしい感じがなく安心した。おれは思いのほか緊張していたらしい。

「いや、すごくおいしかったです。今、いいですか?」

「車のことですね」

「なんか会社の人に訊いたら、はっきりはわからなかったんですけど10万円ぐらいみたいですね」

「そうですか。お手数をおかけして」

「詳しい見積はネットでも取れるんじゃないかって。それで――」

 おれは加賀の葬式があった晩か考えていたことを、思い切って切り出してみることにした。

「それで、ええと。もし信用してもらえるならっていう話なんですけど、おれに行かせてもらえませんか?」

 断られても、どのみちおれはどこかに出かけることになるだろう。あいつが笑っていたような“ヘンな旅行”に。

「でも――」

 戸惑っている。スマートフォンの向こうからそんな気配が伝わってくる。

「まあ、いきなり信用しろって方がどうかしてるとは思うんですけど」

 喉元にせり上がってくるような後悔に耐えながら返事を待つ。

「やっぱりおかしいですよね、そんなの」

 こらえきれなくなってそう口に出したところで彼女の声が聞こえた。

「お願いします」

 おれは逆にどう答えていいかわからなくなり「はい」とだけ言った。

 彼女は続けた。

「運転していただけるなら、私も一緒に乗っていきたいんです。いいですか?」

 明日は休みだった。午後にスケジュールを打ち合わせる約束をした。

 同じマンションではあるが、お互いの部屋を行き来するわけにもいかない。駐車場で待ち合わせて、近所のファミリーレストランに行くことになった。

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