第5話 L2ステーション ‐ 2

 「アキツ、ヴァルナに秘匿通信を入れたい。できるか?」

 アキツはネットをサーチして答える。

 「現在、ヴァルナはL2ステーションの居住エリア内にいる。デーヴァローカよりは防壁が低いので、短時間なら大丈夫だ。60秒以内に会話を終わるように」

 「わかった、繋いでくれ」

 ほどなくして、ヴァルナとの秘匿回線が確立する。ヴァルナはビージャ建造工廠の主任科学者で管理者でもある。少佐と同じく火星出身であるが科学技術上の業績が認められホモ・デウスとして木星に迎え入れられている。火星での名前は天野ウワハルであった。

 「ヴァルナ、頼みがある」

 「いきなりの暗号通信、誰かと思えばわが姫ではないか。タチバナは気の毒であったな。どうした、慰めてほしいのか?」

 「それはいらぬお世話だ。単刀直入に言おう。ビージャへのアクセス権が欲しい」

 「いつか、そんな事を言い出すのではないかと思っていたよ、わが姫。だが、私が与える事ができるのはビージャのドックおよび船内への侵入権限までだ。飛ばすためにはアマテラスの承認が必要だぞ」

 「それでいい、中に入ってしまえば、なんとかなる」

 「そんなことで大丈夫なのか?四姉妹、いや、今では三姉妹か、彼女たちも連れて行くのか?」

 「当然、そのつもりだ」

 「わかった、アクセス権を与えよう。ただし条件がある。私も連れて行くんだ」

 「そうか、お前はもう、すっかりデーヴァたちの世界になじんでいるのかと思っていたよ。いいだろう、でも急いで来いよ」

 「わが姫よ、冷たいことを言わないでくれたまえ。元は同じヤマト神族として常しえの愛を誓った仲ではないか。アクセスコードを送ろう。では、また後程」

 通信が終了する。

 「アキツ、枝はついてないだろうな」

 「大丈夫だ。アクセス権は入手できたのか?」

 「ああ、手に入れた。インドラたちが騒ぎ出す前に、急いでビージャに行こう。みんな、与圧区域用戦闘時装着セットを着けるんだ。サクヤ、作戦ルームの監視モニタに、何か偽装情報を流してくれ、我々がまだここにいるように見せるんだ。アキツ、ビージャのドックまでの経路にあるモニタをチェックして我々が写らないように映像をループさせてくれ。さあ、準備をして、5分後に出発だ」


 少佐たちは、艦隊作戦ルームを出て、L2ステーションスペースポートエリアのハブに向かった。L2居住ステーションの上空5kmには、それより小型の直径1km、厚さ200mほどの円盤型ハブステーションがある。ここが軌道エレベーターの終点だ。 

 こちらは回転しておらず無重力区画となっている。このハブステーションから10本のスポークが出ており、その先に無重力工廠や宇宙船係留区画が繋がっているのだ。

 ハブステーション内や工廠などはホモ・デウスの来訪もあるため与圧されている。内部での移動には通常、あちらこちらに配備されている小型ドローンを使う。ドローンに行先を指示してつかまっていれば自動的に目的地に運んでくれるのだ。手を離すとドローンは自動的に充電設備を兼ねたラックに戻る。必要な時はネットを介して呼べば近場のラックから呼んだものの近くに飛んでくるのである。だが、少佐たちの戦闘時装着セットには自前の高出力ドローンも付属しているので、移動用ドローンを呼び出す必要はない。


 少佐たちはハブ内を移動して、一つのゲートの前にたどりついた。差し渡し10mくらいもある大きな扉には円の周りに集中線の描かれた図章が刻印してある。特に行先表示は掲げられていない。ゲートの両脇にはヴァジュラ(金剛杵)を持ったセーフガードが立哨している。ヴァジュラとはテーザーガン(遠隔攻撃用スタンガン)の一種である。導線付の2つの射出体が標的に付着して間に高圧電流を流すことで標的義体の神経系や電気系統を麻痺、破壊して標的の動きを止める。ステーションの与圧区域では与圧隔壁の損傷を防止するため弾体兵器は持ち込み禁止となっており、このヴァジュラとカッカラ(錫杖)やカンダ(刀剣)といった近接戦用の武器が警備者の主要装備となっている。武器名がサンスクリット語なのはデーヴァたちの趣味である。


 「誰か?」セーフガードが誰何する。彼らは個別の意識を持たない警備用ロボットである。遠目には人間と似た形態であるが、全身が白い特殊素材で覆われており、頭部には光学センサ以外の造作はない。限定的な自律性はあるが、この社会では機械と見なされている。

 「天野サグメ少佐と随行員である。ヴァルナ工廠管理者の要請により、ビージャ号警備に当たる」

 少佐は認証コードを送る。

 「了解した。ゲートを開けよう」

 ゲートを通るとそこはビージャ係留区画に繋がる通路である。ビージャ号は超大型宇宙船であり部材建設用の付属ドックも大きいため、ハブからかなり離れた位置に係留されている。そのため通路長も1kmほどの長さである。少佐たちはドローンで空中に浮きながら長い通路を移動していく。


 「順調だわね。この分だと楽勝なんじゃないかしら」

 「ミヤビ、油断するなよ」

 「わかってるわ。でもセーフガードなんかには負けないわよ。義体のスペックが違うもの」

 「ああ、でも戦闘はできれば回避したいものだな。さあ、いよいよビージャドックに到着だ。ここを無事に通過できれば、もうビージャを手に入れたも同然だ」

 少佐が認証コードを送ると。ドックへのゲートが静かに開く。ドックと呼ばれているが、その中でビージャ号を建造している訳ではない。ビージャ号はモジュール設計されており、個別のモジュールをこのドックで製造したのちに係留区画で組み立ててゆくのである。ドックはほぼ直方体をしており、その大きさも差し渡し500m奥行と高さが100mという巨大なものである。船自体はほとんど完成しているのだが、ドックではカリストにいる100名近いホモ・デウス達全員の有機義体を搭乗させるための船室モジュールが追加製造されつつあるところだ。


 少佐たちがゲートを通過すると背後でゲートが閉じる。ゲートはドックの長辺底面の中央にあるため、頭上と左右に大きな空間が広がっている。壁や床や天井には巨大な部材製造用装置や支持アームが並んでいる。正面の壁には部材の支持架はない代わりに、大きな窓が並んでおり、外に係留されているビージャ号の船体の一部が見えている。ドックを横切ったところには船内への侵入ゲートがある。

 「よし、行こう」

 少佐がドローンを起動して飛び立とうとした瞬間に、ドック内に大きな警報音が響き渡り、あちらこちらのアラームランプが赤色の点滅を始めた。同時にどこから湧いて出たのか10数体のセーフガードがわらわらと現れて少佐たち一行を取り囲む。皆、ヴァジュラの銃口をこちらに向けている。

 「お前たちの侵入許可は取り消された。身柄は管理局が拘束する。武器を捨てて投降せよ」セーフガードが宣告する。

 どうやら少佐達の行動がデーヴァ側に露見したようだ。少佐は半歩後ろにいる三人をちらりと見る。

 「戦闘開始だ。散開せよ!」


 少佐、サクヤ、アキツ、ミヤビはそれぞれ別の方向に飛び上がり広がる。意識を戦闘モードに切り替えて最大限にクロックアップする。ドローン出力も最大にして飛行速度を上げている。セーフガードたちが一斉にヴァジュラを撃って来た。ヴァジュラの射出体は後ろに導線を引いており、速度が遅いので、クロックアップした感覚のもとでは、その軌道を見る事も可能である。少佐は飛来してくる射出体をカッカラ(錫杖)で払い落とすと、そのままセーフガードに接近し、カッカラをその頭に突き立てる。その瞬間、カッカラの先端から電撃が放たれ、セーフガードの運動制御中枢を破壊する。電撃の出力が高いため、運動制御中枢のみならず頭部全体が爆散した。


 サクヤの得物はカンダ(剣)である。2方向から飛来するヴァジュラの射出体を体を躱して避けると、導線をカンダで切断する。返す刀で一体のセーフガードの胴体に切り付けるとセーフガードの胴体が上下に寸断された。サクヤの使うカンダは超振動剣であり高周波振動によって物体を切削することができるのだ。もう一体がカッカラを打ち込んでくるが、余裕で躱して相手の腕ごとカッカラを薙ぎ払った。腕と共にカッカラが宙に舞う。サクヤは後退した相手の頭部にある運動制御中枢にカンダを突き立てる。カンダを抜くと相手はその場で機能停止する。


 アキツもカッカラでヴァジュラの弾をはじき飛ばすと、戦闘ハーネスから直径10cmほどの小型ドローンを6機分離する。ドローンは2機1組で3体のセーフガードに向かって飛んで行く。それぞれがセーフガードの頭の両側を高速で通過する。と、セーフガードの頭が胴体から切断されて空中に浮かんだ。2機のドローンの間にはナノワイヤが張ってあるのだ。サクヤのカンダと同様、このナノワイヤにも高周波振動が与えられており、金属も切断できる仕様である。アキツはグループ内でも最も高度な航法技能を持っており、複数の飛翔体を同時に操ることができるのだ。


 ミヤビの武装は改造ヴァジュラである。ヴァジュラの射出体加速部分を改造してレールガンにしているのだ。つまりステーション内では禁制の弾体兵器になっている。持っているだけで逮捕レベルの武器だが、外観はヴァジュラと一緒なので上手く誤魔化せている。レールガン船としては、やはりこれが手になじむ。ミヤビは正確な射撃で次々とセーフガードの運動制御中枢である頭部を撃ち抜いていく。


 僅か数分の戦闘で、4人は3倍近くいたセーフガードを全滅させた。あたりには破壊されたセーフガードから飛び散った破片、切り離された頭部や身体各部のパーツなどが散乱し回転しながら浮かんでいる。

 「バカねえ。あんたたちがわたしたちを止められるわけないじゃない。思考の速さが5倍ほど違うのよ。おとといきやがれ、って感じかしら」

 「ミヤビ、そんな事は当局も百も承知だ。こいつらは単なる時間稼ぎだろう。マズイぞ。みんな急げ」

 少佐は一行を促して、ビージャ号への侵入ゲートに向かって飛び立つ。しかし、ゲートの前に到着した少佐が認証コードを送っても、それは閉じたまま開かない。


 「天野少佐、いったいどこに行こうというのかね」

 背後から掛かった声に、少佐は振り向く、ドック入口のゲートから出てきたのは3体の大きな戦闘用義体であった。インドラ大将とその配下の戦闘女神、カーリーとドゥルガーである。身長は3m近くあり、何より異形なのは腕がそれぞれ4本ずつあることだ、各々の腕には各種の武器が携えられている。

 「間に合わなかったか」少佐の顔に厳しい表情が浮かんだ。戦闘用義体は少佐たちのパイロット用義体とは、それこそスペックが違う。思考クロックアップ速度や敏捷性では同レベルであるが、義体の物理的パワーと防御力は桁違いだ。


 「天野サグメ、お前たちの行動など予測がついておるわ。ヴァルナも怪しいとにらんでおったのだ。既に逮捕命令を出した、今頃は捕縛されておろう。やはり元ヤマト神族のものどもは信頼できんな」

 「インドラ、行かせてくれないか?人間の生存領域を拡大することは、お前たちホモ・デウスに取っても大切なことではないのか」

 「違うな、我々にとってはもう人間などどうでもよい事だ。重要なのは超人であり神々である我らデーヴァ神族のみである。人間の尊厳やそれにまつわる人権などといった前世紀の価値観は最早終焉したのだ。群体人間の発生がそれを如実に物語っておる。さて少佐、お前も軍人なのだから戦闘用義体と戦って勝ち目の無いことはわかっておろう。その船は我々のものだ。さあ、武器を捨てて投降するんだ」

 少佐は秘匿回線でサクヤたちに通信を送る。〈こいつらの実体はどこにいる?レイテンシー(遅延時間)を計測できるか?〉アキツより返信。〈ダメだ。奴らはL2の居住区から操作している。レイテンシーは極めて低い。運動制御はローカルだしな〉〈そんなこと、やってみないとわからないわ〉〈ミヤビ、止めろ!〉少佐が止める間もなく、ミヤビがいきなり改造ヴァジュラをインドラに向けて撃った。弾がインドラの光学センサに向かって飛翔する。しかし、インドラの方が反応が早い。ミヤビの撃つ数舜前にインドラもレールガンを撃っている。ミヤビが発砲した直後に、その右肩にインドラが撃ったレールガンの弾体が当たり、爆発する。炸薬入りの弾丸である。ミヤビの右腕が肩ごともぎ取られ、背負っていた移動用のドローンも破壊された。一方、ミヤビの弾はインドラが上げた第二腕のアーマーに弾かれて、相手には何のダメージも与えられていない。


 「馬鹿者め、お前たちの体の微小な動きで次の行動は予測が付くのだ。使い道があれば、今後も使役してやろうと思っていたが、もう廃棄するしか方法が無いようだな」

 少佐たちも一斉に攻撃態勢に入った。〈もう、こうなったらしかたがない。オーバードライブモードだ。距離を取られると不利だから、接近戦でいくぞ〉オーバードライブモードはクロックアップ状態の思考演算装置のクロック数を更に数倍上げるモードである。演算装置に大きな負荷がかかるので短時間しか使えない。また、思考速度に対して義体の反応速度が追い付かないので、体の動きはかえって重くなったように感じられる。


 サクヤは超振動カンダを抜くとカーリーに、アキツもドローンを展開しカッカラを構えてドゥルガーにそれぞれ飛び掛かった。少佐もインドラに迫るとカッカラで突きを入れる。ミヤビも左手で撃ち離された右腕が持っていた改造ヴァジュラを拾って構える。しかし、やはりインドラの方が早い。インドラの弾が改造ヴァジュラを捉え、今度はミヤビの左手首ことヴァジュラが吹き飛ばされる。


 カーリーも超振動カンダでサクヤに応戦する。戦闘義体は少佐たちの義体のほぼ倍の大きさとパワーを持つが、その分、慣性質量も大きいので、動作はこちらの方がやや軽快である。それを生かしてサクヤは手数多くカンダに打ち込むが、相手は二本のカンダをもち、サクヤの攻撃をことごとく跳ね返している。超振動カンダ同士が打ち合うと、甲高い音が響き、盛大に火花が散る。サクヤの方がスピードはあるのだが、いかんせん打ち込みが軽いし、機動用ドローンの出力も負けている。相手の重い剣の打ち込みに、しだいに間を詰められていく。カーリーの左右2本ずつある腕に握られた2本のカンダが次第にサクヤの体に迫り、ついにサクヤの胴を捉えた。胴体が切り離されるところまではいかなかったが、深く入った刃がメイン電源を破壊し、サクヤの動きが止まる。


 アキツの三組のドローンがドゥルガーに迫るが、クロックアップされた世界ではスピード感に欠けた動きである。ドゥルガーが超振動カンダで一組のドローンの間を切り付ける、ドローンに使われているナノワイヤと超振動カンダの切削のメカニズムは同じものなのでお互いに相手を切断する事はできない。激しい火花をまき散らしながらナノワイヤで結ばれた2機のドローンがカンダに巻き付いた。ドゥルガーがそのままカンダを薙ぎ払うと、ドローンは床に叩きつけられて破壊される。残りの二組が左右からドゥルガーに迫り、ドゥルガーはそれぞれの腕で、それに対応する。その隙をついてアキツはカッカラで敵の胴に突きを入れる。しかし、体に届く前に、ドゥルガーは一本の腕をカンダから離し、飛び込んでくるカッカラを握って受け止める。アキツは全力でカッカラを押し込むが、止まったカッカラはびくとも動かない。ドゥルガーは残った腕で残りの二組のドローンも始末すると、アキツのカッカラを4本の腕全てで掴みなおしてアキツごと振り回しドローン同様アキツを床に叩きつける。衝撃で一瞬、アキツの動きが止まった。ドゥルガーがすかさずアキツの上に舞い降り、カンダをアキツの胸に突き立てる。


 少佐もインドラに迫る。インドラが撃ったレールガンの弾をかろうじて躱すとインドラの振り回すカンダの刃の下をくぐってカッカラをインドラの腹部に叩きこんだ。しかし、振動ナノ素材で先鋭化してあるカッカラの穂先が通らない。特殊アーマーを貫けるだけの運動エネルギーを少佐の義体では生み出せない。出力が足りないのだ。

 「ほう、私の体に錫杖を当てるとは、運動性能はたいしたものだな。しかし、お前たちの体ではパワーが足りんのだよ。どれ、引導を渡してやろう」

 インドラが打ち込んでくるカンダを少佐はカッカラで受け止める。だが、カッカラは超振動剣の切削力に耐え切れず破断されてしまった。まわりを見ると、両手とドローンを破壊されて戦闘力を失ったミヤビ、胴を半分断ち切られて運動機能が停止したサクヤ、胸にカンダを突き立てられて同じく運動停止したアキツ。もうどうしようもない状況である。

 「無念だが。ここまでか」観念した少佐にインドラが迫って来る。

 「お前たちは貴重な戦闘用資源であったが、制御できないとあってはいたしかたない。性能が落ちるとは言え、やはり意識と自由意志の付与は、われらデーヴァだけの特権にとどめておくべきであったな。今後のサイボーグ運営戦略に貴重な教訓を残してくれたことに感謝するぞ。さらばだ、天野サグメ」


 インドラがカンダを高く掲げて、少佐の頭に振り下ろそうとしたその時、不意にインドラの動きが、止まった。見ると、カーリーとドゥルガーもピタリと動作を止めている。

 〈どうしたんだ。みんな大丈夫か〉少佐はサクヤたちにネット経由で呼びかけてみて、ネット回線が落ちている事に気が付く。ローカル無線に切り替えて呼びかけてみる。〈少佐、サクヤです。情けない事態となり申し訳ありません。メイン電源が破壊されて四肢が動かせませんが思考演算装置は予備電源で稼働中です〉〈アキツだ。同様だ。どうやらこのドック全体がネットから遮断されたようだ〉〈ミヤビよ、私はまだ歩けるわ〉〈そうか、みんな人格部分が無事で良かった。義体は破壊されても修理可能だからな〉


 その時ビージャ号への侵入ゲートが開いて、宇宙服を着けた人物が現れた。

 「わが姫、待たせたな。どうやら間に合ったようだ」

 「ヴァルナか、インドラに捕縛されたかと思っていたぞ」

 「やつらが来ることなどわかっていたさ。わが姫と話したあとすぐに、逃げ出したのさ。軌道エレベーターが封鎖されたから、MMU(有人飛行ユニット)を使って、ステーションの外を移動してきたんだ。だから遅くなってすまなかった。私は工廠管理者として、幾つかの裏コマンドを使えるのだ。このドックを完全オフラインにする事もできる。いまごろインドラ本体はL2居住区画で悔しがっているだろうな。でも急がないと。次はローカルで動く戦闘用義体を送り込んでくるぞ」

 「ああ、わかっている。とりあえず礼をいっておくよ」〈さあ、みんないくぞ〉

 少佐はサクヤとアキツの動けない義体を抱え上げると、ゲートに向かって曳行してゆく。ミヤビは移動用ドローンが使えないので、磁気シューズを使って歩いてついてくる。右腕と左手首が欠損した痛々しい姿だ。


 「みんな満身創痍だな。でもビージャには義体メンテナンスポッドがあるから船内に入ってしまえば大丈夫。さあ、船内に案内しよう」 

 ヴァルナは先に立って、ビージャ号の侵入ゲートに入っていく。短い廊下を過ぎるといよいよビージャ号本体のメインエアロックである。メインエアロックは10人以上の人間が一度に入れるくらいの大きな部屋である。現在ヴァルナがすでに内側から開けたので外扉は開いた状態となっていた。皆が通過すると外扉が音もなく閉じた。メインエアロックの内側の扉には、やはり円の周りに集中線の描かれた図章が刻印されている。その扉がゆっくりと上がり開いてゆく。

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