第128話 鬼畜メガネがスチャる

「ひとまず、宝物庫を確認しましょう」


クヴィラ侍女長が促す。

私たちはロベルタ狂王女殿下を先頭に、宝物庫へ向かう。


「して、『快傑ケット・シー』とは何者じゃ?」


道中、ロベルタ狂王女殿下が尋ねる。


「主に金持ちを狙う泥棒です。アーガインで活動するのはおそらく初めてですね」

「おや? 随分と一方的な意見ですね」


私の説明に、クヴィラ侍女長が反論する。


「非道な方法で財を築く貴族や商人だけを狙い、貧しい民に分け与えている義賊……いえ怪盗トリックスタアと聞きますよ」

道義を重んずる者ハイウェイマンだと?」

「少なくとも、ただの泥棒ではないでしょう」

「泥棒には違いありませんよ」

「お~、珍しいね~。スペクトくんが冒険者のこと、そんなふ~にゆ~の……」


魔王様が口を挟んでくる。


「いつもだったら、『快傑ケット・シー……ヤツはサイコーの怪盗だ(スチャッ!)いや冒険者は敵だからね、ぜんぜんリスペクトとかしてないんだから(スチャスチャッ!)』ってゆ~のに!!」

「言いません」


そして、なんですか? 

そのスチャッは?

私のメガネを直す仕草の真似ですか?

そんなに頻繁にやってないですよ。

スチャッ。


「それで? なぜ斯様かような賊が、なぜアーガインの宝物庫を……邪神像を狙うのだ?」

「ねらうのだ~?」

「狂女王陛下の宝物庫に邪神像という組み合わせが、何か良からぬ陰謀を企んでいるのではないか、と思われているのでしょうね」

「失礼な! 我の属性アライメント秩序にして善ロウフルグッドなのだぞ!!」


これはまあ仕方ない。

本人がそうであっても、他人からの印象は違う。

そもそもアーガイン王城……いや迷宮都市自体が、世間一般的に外聞の良い存在ではないのだ。


いにしえの誰が造り出したともわからぬ迷宮に乗り出し、そこに巣食う魔物モンスターたちを命懸けで打ち倒して、財宝を持ちかえってくる。

そして、いつか迷宮の主を倒す栄誉を授からんと、日々全滅と精進レベルアップを繰り返す。


そんな生と死と、名声と欲望にまみれた街。

それが市井の人々から見た迷宮都市の姿である。


まして昨今では、『魔王と狂王女はつながっている』などという陰謀論がささやかれている。

いや、実際に王宮側と迷宮側はつながっているのだが、そこは陰謀論となるように情報操作している。


……なぜか『魔王の背後に裏ボス系男子がいる』とか『魔王と狂王女は裏ボス系男子を取り合う恋のライバルだ』とか、ウワサが妙な形に変異してしまっているが。


ともかく、そんな街の領主が、邪神像などという物を秘匿していると知れば、心穏やかにいられぬ者も出るだろう。

あるいはそれを建前に、迷宮都市の繁栄を妬む輩が差し向けてきた手先か。

現段階では判断がつかない。


「おおっと、こちらを行きましょう。近道になります」


私はロベルタ狂王女殿下一行を別の道に誘導した。


「ほお? そんな物があるとは知らなかったな」

「ええ、そんな物はありませんから」


案内した先は袋小路だった。


敵の思惑……それは快傑ケット・シーを捕まえて聞き出すのが近道だろう。


私はメガネを直す。

スチャッ!


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