第127話 第4層改装企画提案-上級職-

「まあ。バランスに関しては、引き続きスペクトくんが見てくれるのであれば、良しとしましょう。ですが……」


これだけで追及は終わらない。

クヴィラ侍女長が目を細める。

来るぞ。


「前回のような事態への対策は、どうなっていますでしょうか?」


予期されていた質問だった。

第3層改装アップデート時に大きな不具合を出してしまった以上、その懸念は払しょくしなければならない。


「召喚可能な全モンスターの出自を洗い出し、相互に干渉が起こらないことを、実地にて全モンスター全組み合わせを試行して確認済みとなっております」

「今回モンスターがい~っぱいだったから、大変だったんだよお~」


誰のせいですか?

いえ、私からの期待オーダー通りではありますので、半分は私が責任を持ちますが……。


「また建造物内部の全オブジェクトに関しましても、モンスターやトラップに影響する挙動がないことを、こちらも全組み合わせを試行して確認しております」


どれだけ備えても予想外の不具合は出てしまう。

だが……いや、だからこそ決して準備は怠らない。

不安要素は事前に全て潰す。

同じ不具合は2度と出さない。


「フム、いいでしょう。前回の不具合への対処は十分と判断します」


内心で、ホッと安堵する。

正直、クヴィラ侍女長からの追求がこの程度で終わるのは予想外だった。


しかし、以後の改装アップデートでも、この確認手順は継続して行わなければならないのだ。

これだけでもかなりの工数の増加となるが、もしクヴィラ侍女長からこれ以上の確認作業を要求されれば、迷宮運営スケジュールは破綻しかねない。


「それで……今回もあるのじゃろ? 迷宮以外の改装アップデートが?」


ロベルタ狂王女殿下が不具合の話題を打ち切る。


「はい。今回の改装アップデートで上級職を実装しようと企画しております」

「ほう! 上級職!!」


これからのダーナ・ウェルの迷宮は、より攻略が難しく、シビアになってくる。

だが、それは冒険者に迷宮をクリアさせないことが目的ではない。


冒険者のみなさんには、手応えのある難易度(魔王ダーナ・ウェル基準)に挑み、ギリギリの迷宮探索で、クリアしてもらいたいのだ。


だからこそ、第4層のために冒険者のみなさんにワンランク強くなってもらう。


強くなりたい。

それは、私もまた感じている想いだった。


第3層での闘いの後からだろうか、その想いが増していくのを感じる。

九ツ首蛇竜ハイドラ戦で、何もできなかったからなのか。

それとも別の何かが、心に引っ掛かっているからか。


「して、導入する上級職は何がラインナップされておる?」

「まずは盗賊の上級職である……」

「会議中、失礼します。侍女長……」


説明の途中で、王宮隠密『白菊隊』のメイドが、音もなくクヴィラ侍女長の傍に参上して、手紙のようなものを手渡す。


「ロベルタ狂王女殿下、ダーナ・ウェル陛下、会議の一時中断をお願いします」

そう言って、クヴィラ侍女長は手紙のような物を差し出す。


「こちらを……」

手紙のような物は、『予告状』だった。


今宵こよい、アーガイン王宮に保管されている邪神像ディープ・フィアーをいただきに参上します。 快傑ケット・シー』


よりにもよって、導入を予定していた上級職『怪盗トリックスター』からの。


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