第32話 クヴィラの追求

「そして私はしばらくの間、別の街で迷宮運営について学び、最近ダーナ・ウェルの迷宮運営プランナーとして、この街に戻ってきました」

語り終えたスペクトを見て、クヴィラはため息をついた。


どうして私はスペクトの惚気話を聞かされているのでしょう?

スペクトの胸の内を聞くべく画策したのは確かだ。

だがこのカタブツの弟のことだから、もう少し色気のない話だと思っていた。


昔、あれだけ冒険者に憧れていたスペクトの想いを翻させたのだ。

それなりの出来事エピソードであることは覚悟していた。

ですが、これは想定以上だった。


スペクトが心の奥底で求め続けていた役割と居場所を、ダーナ・ウェルは、ダーナ・ウェルの迷宮は完璧に揃えていた。

ダーナ・ウェルもまた、これまでの態度から察するに、仕事仲間以上の感情を持っているような雰囲気を発している。


魔王ダーナ・ウェルとスペクトは相思相愛だ。

この偏屈ツンデレの弟は決して認めないだろう。

ダーナ・ウェルもポヤポヤした感じだから、自覚はないだろう。

だからこそ、この歪な関係は厄介。

互いに恋愛感情がないと思っているからこそ、自然体で関係を続けることができる。


もともと、スペクトは仕事以外の人付き合いが苦手なタイプだ。

王宮にいた頃も、『姫殿下の遊び相手』という役割があったからこそ、繋ぎ止められていた所がある。

だからこそ、ロベルタに『王宮側の窓口』を担当させて対抗したのだ。


……ですが、このままではいけませんわね。

ダーナ・ウェル側にも、スペクト側にも、仕事仲間以上の気持ちがなければ、この策で充分にロベルタの元にスペクトを帰す見込みはあったのだ。

しかし、スペクトとダーナ・ウェルの結びつきは想像以上だった。


計画の修正が必要ですわね。

ロベルタ《あの子》には、もう少し積極的に、かつ効果的にアプローチさせなければ……。


「わかりました……これ以上隠し事はありませんね?」

「……」

あるんだな。

不思議と昔から、スペクトが何か隠していると、わかってしまう。

「話しなさい」

「はい、本当はすぐにでもダーナ・ウェルの迷宮運営プランナーをやって欲しいと打診されていました」

ダーナ・ウェル側の執着も大概だ。

「もちろん、断りました。知見ノウハウが無い状態で従事しても足を引っ張るだけでしたので、然るべきところで時間をかけて履修することを優先しました!」

「正直に!!」

まだ隠しているな。

「早く迷宮運営プランナーになりたくて、前倒しで履修を済ませて戻ってきました!」


このスペクトは、基本的に私の言うことには逆らわない。

昔、一国の姫ロベルタにふさわしい男に仕立てるべく、厳しくしすぎたせいだろうか?

いっそ、ロベルタ《あの子》と結婚を前提に付き合いなさいと命令した方が早いだろうか?


『クヴィラ~。スペクトに嫌われてたら、どうしよう?』

脳裏に不安そうな顔を浮かべる姫の顔が浮かぶ。

いや、そんな安易な方法でダメなのだ。

足りないのだ。

ふたりには、もっとずっと幸せな結末を、幸せな道を歩いて欲しい。

それがふたりの姉である私の役割なのだから。


「あと……」

まだ何か隠しているのか。

これ以上、ダーナ・ウェルへの思慕を感じさせることを言ったら、ハッ倒してやろうかしら。

「諦めたわけではありません……あの『やくそく』」

「!」

『やくそく』……ロベルタ《あの子》から聞いた、ロベルタ《あの子》が満面の笑顔で語る『やくそく』。

ロベルタ《あの子》を、狂王、狂王女になる運命から解き放つ『やくそく』。


「『やくそく』した方法とは違うかもしれませんが、必ず果たすつもりです」

「その言葉……信じさせてみなさい、私たちに……」


そう言って、私はベッドから立ち上がり、客室をあとにした。

ふたりの幸せな道……それがまだ途切れていないと信じたい。

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