第28話 テストプレイをしよう~狂王女殿下と~

事前確認テストプレイを行う」

アーガイン王城の中庭、ロベルタ狂王女殿下はスペクトに向けて言い放った。


事前確認テストプレイでしたら、すでに当方で行っておりますが……」

「足りぬ。ゴブリン砦の迷宮導入施策チュートリアルは、我らが初めての共同作業だ。手抜かりは許さぬ」

テーブルを挟んで向かい側に座る狂王女殿下は断固たる態度だった。

確かに、本案件『迷宮導入施策チュートリアル』に対するアーガイン王城側の熱量は尋常ではなかった。

施策が無事開始されるまで一瞬たりとも気を抜けないという気持ちはわかる。

「なので、我自ら事前確認テストプレイに赴く。無論スペクト殿、貴殿も一緒だ」

いや、わからない。


え?

思わずクヴィラ侍女長を見やる。

こくりと頷くクヴィラ侍女長。

どうやら侍女長了承済みらしい。


「どこを見ておる?」

グリッ!

テーブルの向こう側からロベルタ狂王女殿下の両のかいなが伸びてきて、私の頭を掴み、ねじり、そして無理やり狂王女殿下の方を向かせる。

「ひっ!!」

私の脳裏に、いつぞやの恐怖が蘇る。

前回不評だった鉄仮面アーメットはやめて、今回は鉢金を装備してきたが、やはり頭部全体をガードできる防具でないと心許ない。

なにせ相手は筋力18しゅぞくさいこうちだ。


いや、私のそんなことはどうでもいい。

今は迷宮導入施策チュートリアルの方が大事だ。

狂王女殿下のお気に召さないようであれば、施策延期か、最悪中止もあり得る。

狂王女殿下が私の頭から手を放してくれないので、やむなくそのまま会話を続行する。

事前確認テストプレイに参加すると言われましても、狂王女殿下は……その……」

ギリッ!

狂王女殿下と呼んだ瞬間に、私の頭を掴むストレングスが上がった気がする。

返答を誤れば、私はこのまま首をもがれ、狂王女殿下の部屋を飾る勲章トロフィーとされてしまう。

そんな気がする。


仕切り直しだ。

堂々とした態度を取るんだ。

発注元クライアントを不安にさせるな。

私は自分に言い聞かせる。


眼鏡の位置を直し、自信あり気な態度を装う。

迷宮導入施策チュートリアルは、新人冒険者向けのものとなります。レベルの高い殿下がそのまま参加されても事前確認テストプレイにはなりません……」

狂王女殿下を真っ直ぐ見据える。

狂王女殿下の腕に私の頭ががっちりロックされたままなので、そうするしかないが。

恐れるな、怖くない、狂王女殿下は怖くない……。


「……ですので、交戦規程レギュレーションを考える必要があります。新人冒険者を想定した迷宮探索プレイとなるようにしましょう」

……しばしの沈黙。

「フム……一理あるな」

よし、乗り切れた!

「それでは、この件は一度持ち帰って検討をさせていただきます」

急ぎ、迷宮運営管理部に戻り、企画プランを練らねば……。


「では、その交戦規程レギュレーションとやらを取り決めようではないか。これから! 今! ここで!! じっくりと!!!」

しかし、ロベルタ狂王女殿下は逃さなかった。

……スペクトの頭を掴んだ《ホールドした》まま。


あれ?

すぐに持ち帰って検討させていただくつもりだったのに……。

「長くなりそうだな。クヴィラ、新しい茶をもて……」

どうやら、すぐには帰れそうもない。

「いや待て、スペクト殿の晩餐と寝所の用意もしておけ!!」

帰す気すらないようだ……。

「かしこまりました。湯浴みと着替えの手配も整えておきます」

クヴィラ侍女長が席を外す。

この状況頭をホールドされたままで、ふたりにしないで欲しい。

そしていい加減、私の頭からその筋力18を放してほしい。

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