第25話 幼馴染にして、ふたりの姉クヴィラ
ロベルタの教育係兼乳母を務めていた女性の実の娘ということもあり、血のつながらない姉という存在が近い。
(まったく……、しようのないふたりだこと……)
ゆえにスペクトにとっての幼馴染でもあり、姉役でもあった。
アーガインは都市ひとつと街ひとつ、あとは周辺のいくつかの村からなる狭い小さな国である。
さらに言えば迷宮を擁し、『狂王』と表立って呼ばれる王家である。
他国からの求婚などは、まずありえない。
故にロベルタ王女の婚姻相手は、ある程度の家格があれば、あとは王女自身の気持ち次第で選ぶこともできた。
その相手はスペクトがなるのだと、クヴィラはふたりを見守ってきた姉としてずっと思っていた。
宰相スペンセル・プラウスが病没、宮廷魔術師エレクトラが引退するまでは……。
(だからって、貴方まで去ることはないでしょうに……)
スペクトが王城に顔を出さなくなるまでは……。
その後のスペクトの去就は知っている。
部下に調べさせていたから。
あの約束を果たすため冒険者を志したこと。
迷宮に挑み続け、そして失敗を重ねたこと。
ある日を境に、冒険者を辞め、さる人物に師事し、迷宮都市運営プランナーとなったこと。
だけど、どんな想いでそうなったかは知らない。
(どんな想いで……どうして?)
「どうして魔王の側になんかついたの!?」
手のかかるロベルタ王女が自分と同じ感想を述べる。
「しかも魔王とあんなに近く! 親しく!! うらやましいですわ!!!」
(同じ感想というのは訂正しましょう)
「スペクトに……スペクトに、あんな近しい女性がいたなんて……」
「近しい女性……というのは、物理的に近いということではないとかと」
(とは言え、あんな風に一緒に仕事していれば、カタブツのスペクト君でもいつか情にほだされるかもしれませんね)
物理的に距離が近い魔王とスペクトの姿を思い出し、それがいつか心の距離になる可能性を危惧する。
「わたくしには、最後まで顔も見せてくれませんでしたのに……」
「最後まで
「このまま、あの魔王のところに行ってしまうの……また、わたくしの前からいなくなってしまうの……」
(やれやれ、世話のかかるお姫様だこと……)
「では、こうしましょう」
「クヴィラ?」
「狂王の名代を続けるのです。迷宮と関わり続け、彼の仕事相手としての関係を続けるのです」
「迷宮と?」
ロベルタ王女が最も嫌いな迷宮、最も忌避していた狂王の立場。
それはわかっている。
だけれども……。
(彼と……スペクト君との関係を、失った時間を取り戻すには、それしかありません)
「今の彼と、彼の仕事と関わり続けるのです……ロベルタ狂王女殿下」
(そして、カタブツの彼の目を惹きつける手段も、これしかないでしょう)
「狂王女として、魔王ダーナ・ウェルの魅力に打ち勝つのです。スペクト君をこちらに引き戻すために」
ふたりの世話を焼くのは、私の役目……。
これまでも、これからも。
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