第23話 もといロベルタ・リル・ナイム・アーガイン狂王女殿下

メキメキメキメキメキメキメキメキ……。

ロベルタ・リル・ナイム・アーガイン狂王女殿下の脳天締めアイアンクロウを受けて、スペクトのかぶっている鉄仮面アーメットがあり得ない音を立てる。


嗚呼……人間族ヒューマンの種族最高値って、こんなこともできるのか……いや、それとも迷宮都市界隈で噂になっている未確認能力『潜在能力ギフト』のうちのひとつ、『怪力マイト』でも持っているのではないか?

脳天締めアイアンクロウをきめたまま宙吊りにされて、私は現実逃避する。


「冒険者になるって言ったわよね? 魔王を倒してくれるって約束したわよね? なのにどうしてそちら側にいるのかしら!?」

ガックンガックンガックンガックン。

宙吊りのまま揺さぶられて、我に返る。

早く釈明しなければ、命にかかわる!


「これは……その……適性のある職場と希望の職種を追求した結果で……」

「望んでそちら側に就いた、と?」

ギリギリギリギリギリ……。

脳天締めアイアンクロウのパワーがさらに上がる。

あれでも最大パワーじゃなかったのか!?


「わわっ! どうしたの狂王女ちゃん? スペクト君を離してあげて!!」

魔王様が私の下半身にしがみつく。

「そして、なぜ魔王ダーナ・ウェルとそんなにも親しげにしているのかしら!?」

言いがかりである。


「魔王様とは、仕事上の付き合いしかなく。適切な距離を心がけておりまして……」

「スペクト君、は~な~し~て~」

「そ~! れ~! が~! 適切な距離かぁぁぁ!!?」

私の身体が上下に引っ張られる。

狂王女殿下の脳天締めアイアンクロウプラス、変則片手首絞め宙吊りネックハンギングツリー

さらに下半身にしがみついた魔王様による二重攻撃ツープラトン・アタックにより、私の意識が遠のいていく。


「殿下、殺してしまっては元も子もありませんよ」

間一髪、クヴィラ侍女長から制止の言葉がかかり、私は処刑を免れた。

「ム……それもそうか」

殺すよりひどい目に合わせる気なのだろうか。


「失礼した。少々議論に熱が入ってしまったようだ」

議論だっただろうか……?

どちらかといえば、絞首刑ギロチンに近かったような気がする。

試合……もとい会合を仕切り直し、再び魔王様と狂王女殿下がテーブルにつく。


私も正体がばれた以上、顔を隠す必要はなくなったので、鉄仮面アーメットを脱ごうとしたが、狂王女殿下の脳天締めアイアンクロウによる破損がひどく、脱げなくなってしまっていた。

仕方なく、そのままの格好で魔王様の傍らに立つ。


「ゴブリン砦とそれにまつわる王家の勅命ミッションだったな……」

狂王女殿下が吊り上がった目で、じっと見つめる。

魔王様を……ではなく私を。

そんなにも恨まれてしまったのだろうか?


「いいだろう、受けて立つ!……ただし……」

狂王女殿下が笑みを浮かべる。

「やるからには全力で行かせてもらおう! 覚えておけ!!」

悪魔すら戦慄させる凄惨な笑みだった。

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