第8話 ボッタクル商店

「この! ボッタクリ!!」

「へへ、毎度あり」

店の軒先から冒険者が捨て台詞を吐いて、去っていく。

ここは迷宮出土品ドロップアイテムの『鑑定』と売買を公に認められているボッタクル商店のアーガイン支店。

正式名称は別にあるのだが、誰もがボッタクル商店と呼ぶ。

その名の通りのボッタクリ価格で、鑑定料と買取価格は同額、買値と売値の差は10倍。

迷宮都市の2大強欲組織の一翼を担う(もう片方に関しては後ほど)。


「まあ、それも仕方ありやせんぜ。旦那」

支店長を勤めているのは、東方の島国『明日来あすらい』出身狸人族ポンタスの娘、ムジナ。

「商店なんぞ名乗っちゃいますが、やってることはほぼ換金所。それも迷宮都市の銭の流れが壊れないよう立ち回れってんじゃ、こうもなりますぜ」

「まあ……そうなんですけどね」

「まあ! そうなの!?」

相変わらずよくわかっていなさそうな魔王様に説明をする。


「ボッタ……あ、いえ迷宮都市商店の役割は、冒険者の装備の充実化と金銭の獲得となります」

迷宮では、金銭そのものがドロップすることは少ない。

そのため、迷宮出土品ドロップアイテムを換金して、冒険者の生活を保障する施設が必要になる。

「とはいえ、迷宮出土品ドロップアイテムの装備の中には、好事家が天文学的な金額をつけるものもあります」

「そんなのが出回りすぎて、迷宮都市の経済がめちゃくちゃにならないようにするのがあたしらのお役目の一つ。あと呪われた品カースドアイテム』なんかも出回っちゃ困るんで買取価格を高く設定させてもらってますぜ」

「でも、でも……それじゃ冒険者さんが勝手によそに売っちゃったりしない?」

「そのための『鑑定』なんですわ」

「そもそも『鑑定』というのは、古き良き最初の迷宮都市の言い方に倣ったもので、実際には『ユーザー登録』に近いものになります」

他の迷宮都市では、『リムーブカース』や『コード解析』なんて呼び方をしているところもある。

「ゆーざーとうろく?」

「未鑑定品てのは、要は所有権が迷宮都市にある状態。『鑑定』はその所有権を冒険者一党パーティや冒険者個人に設定する技術なんですわ」

こうしておけば、そのアイテムは所有権を持つ冒険者一党パーティや冒険者個人にしか使用できず、価値が激減する。


「でも、冒険者にも『鑑定』できる人がいるよ。その人が悪いお金持ちにしょゆーけんを設定できるんじゃない?」

『鑑定』ができるのは商店だけではない、交易神の司教もほぼ同様の『鑑定』ができる。

また、古の呪文に『鑑定』と同様の効果を持つものがあったらしいが、今は失われている。


「そこがウチの商店の『鑑定』がそこらの『鑑定』と違うところ、交易神とこのぼんくら司教どもは『自分の一党パーティ』にしか、『鑑定』できないんですわ」

もちろん、好事家自らが冒険者登録をするという抜け穴もあるが、長期に迷宮探索実績のない冒険者は資格をはく奪される上、王級が『悪質な行為』とみなした場合は処罰の対象となる。

「所有権を付与できるのはウチの専売特許! ちょいとばっかり技術料が高くても、当然ってわけですわ」


「けどな~魔王の姐さん、それにしたってウチの迷宮は渋すぎだ。もうちょいと『迷宮内通貨』の設定をゆるめちゃくれませんかね?」

先にも述べた通り、迷宮内で金銭のドロップはほぼない。

『迷宮内通貨』とは、1日に迷宮内でドロップするアイテムの総売却額の数値を指す隠語である。

基本的には該当フロアの『迷宮内通貨』の総額を決めて、アイテムのドロップ率を計算し、決定している。

とはいえ……。

「あ~、あれ設定がむずかし~の~」

しおしおとなる魔王。

「そうなんで?」

「そうなんです」

珍しく、それには同意である。


冒険者たちが思っているほど、迷宮運営がなんでも自由に迷宮内を設定できるわけではない。

なぜなら迷宮のシステムは、古の失われた技術で開発されたものを利用しているに過ぎないからだ。

アイテムドロップの場合だと、『迷宮内通貨の想定額に近しくなるように宝箱の等級の出現率を設定する』ということしかできない。

宝箱の等級は、低い順から木・鉄・銅・銀・金・白金・桐・漆塗・金剛石の9種類。

等級が高いものほど、良いアイテムが出やすいが『何が出るかを設定できない』のだ!


「なんでこんなややこしい設定方法にしたんですかね?」

「まったくです!」

「まったくだね~」

とにかく古代技術で開発されたものは、こういった謎設定が多いのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る