第9話 アンクト寺院
「ささやき - いのり - えいしょう - ねんじ……あ」
「あ」
アンクト寺院にて、
「お気の毒ですが、
「ふざけるなよ! ちくしょー!」
仲間と思しき冒険者が捨て台詞を残して去っていく。
「いいんですか、アレで?」
「いいんですよ、アレで」
朗らかな笑みで答えたのは、先ほど
「遺灰を保管しておけば、ほっといても蘇生費用稼いで、また戻ってきますから」
流石は、迷宮都市の2大強欲組織のもう片翼、アンクト寺院である。
冒険者の遺灰は、そばに控えていた侍祭がほうきとちりとりで片づけていった。
「どうやら、ここは景気がいいようですね」
「あら? それは聞き捨てなりませんわね。寺院の財政はいつだってカツカツでしてよ。先日もわたくし自ら辻蘇生に出向いたほどですの」
「つじそせいって?」
いつものように魔王様がきょとんとした顔で尋ねる。
「迷宮を探索して、冒険者の死体を寺院に持ち帰る。あるいはその場で蘇生する行為です」
「もちろん、出張費用は別途いただきますわ」
ゴモリー司祭はコロコロと楽しそうに笑う。
「ただ最近は迷宮内で全滅して、放置されている冒険者が多すぎて、回収が追いつきませんの」
頬杖をついて、ちょっと困っているようにのたまう。
「勿体ないですわ~、
まるで、日用品が壊れてしまったかのような物言いだ。
とはいえ……全滅した冒険者たちを放置すれば、そのまま
そうなれば、直接的な冒険者の減少となる。
それだけではない。
「見栄えも悪いですしね」
言い方……。
だが、一理ある。
「迷宮内の冒険者の死体の放置が常態化すれば、衛生的にも治安的にも悪影響が出るでしょうね」
死体に群がるモンスターも問題になる上、冒険者自体のモチベーションも下がる。
「あっ、そういえば!」
パンっと両手を合わせて、話を変える。
「いつぞや迷宮に入ってたったの3歩目で死体を拾ったことがございましたの。生き返らせてみたら、転生者だったらしくて……」
転生者……別の世界から成人の肉体を持ってやってくる稀人、しかしレベル1、全能力が
当然、他の冒険者からは敬遠される。
そこで諦めてくれれば良いが、無謀にも単独で迷宮に入り、そのまま死亡するケースが多い。
(どうして冒険者になることを諦めてくれないのか? いや、それを私が言う資格はない……)
ズキリと胸が痛む。
「それでこの世界のことを色々教えてあげましたの……もちろん授業料は蘇生費用に上乗せさせていただきましたけど……」
「あの、あまり悪どいことは控えていただけますと……」
「フフフ……おかしなことをおっしゃいますわね。わたくし共
『迷宮の財宝をエサに、冒険者の生と死を弄ぶ』。
その行為を一般の人々は邪悪と蔑み、
しかし……。
「すべては迷宮内で流れる冒険者たちの
実際、ゴモリーさんの
辻蘇生も、冒険者への金銭の要求も、ただ純粋に迷宮運営のために行っている。
「そうだね~、ケイティちゃんもシェリグおじさんもミナフィさんもムジナちゃんもゴモリーさんも、み~んながんばってくれてるもんね」
魔王様の無邪気な声が響く。
「あっ、もちろんスペクトくんもだよ~!」
お前も同じだ、
「はい、わかっておりますよ。ゴモリーさん、先ほどはつまらないことを言いました」
「いえいえ、気にしてはおりませんよ、ただ……」
ゴモリー司祭がスッと近寄り、耳打ちする。
「あまり冒険者の側に肩入れされませぬように、魔王様にやきもちを焼かれたくはないでしょう?」
「なんのことです? 滅相もない」
迷宮は、冒険者が命を懸けて挑む遊戯だ。
失敗すれば死を、成功すれば莫大な報酬や栄誉を与える。
なかには迷宮に挑むこと、それ自体に価値を見出す冒険者もいる。
そして
だから、私が冒険者の側に立つことはない。
決して、ない。
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