遡る過去3
よくはわからないが、柊稀は二人になら話してもいい気がした。だから事情を話そうとしたが、止められてしまう。
「言っただろ。飛狛が来るんだ。二度手間になるから、来てから事情は聞く」
「あ、はい」
魔法槍士、そんなすごい人物に会うと考えれば、酷く緊張した。それも過去の魔法槍士だ。
火竜族にも名前が知られているほどの強者。どれだけたくましい人物なのか、などと想像も膨らむ。
「あ、名前聞いてねぇし、名乗ってねぇや。俺は
「僕は
「補佐官!? だから……」
知っているような気がしたのは、家にある魔法槍士についての本が原因。中に補佐官という表記があり、人物の特徴もそこに書かれていたのだ。
おそらくその中に、二人のことも書かれていたのだろう。うろ覚えであったが、目が特徴的だったことから、なんとなくだが覚えていたのだ。
「僕は柊稀。この子は柏羅です」
少し考え込んでしまったが、ハッとしたように名乗り、腕の中で眠る少女を見た。
眠っている少女へ視線を向ける夜秋。
「その子は部屋で寝かせておこうか」
「はい」
夜秋や秋星にはどれほど離れた時代からきたかわからないが、幼い少女だ。身体に負担がかかっているのだろうと推測することはできる。
しばらくは目を覚まさないかもしれないと思えば、こんなところではなく、ちゃんとした部屋で寝かせておくのがいいだろう。
「秋星、頼みましたよ」
「はぁ? 俺かよ」
「当然でしょ」
視線だけで語り掛ければ、意味を理解した秋星が肩を竦める。
「しょうがねぇな」
少し待ってろと言葉を残し、塔の上へ姿を消す秋星。普段あまり使わないため、掃除をしないと部屋を使えなかった。
そのため、まずは清掃してくると向かったのだが、その傍らでのんびりしている夜秋に二人の関係性が伺えた瞬間でもある。
もっと本を読んでおけばよかったと、くつろぐ二人を見ながら思う。
誰だって、自分が過去に行くなど予測できないことではあるが、読んでいれば二人のことがわかったかもしれない。
「飛狛、いつ頃来るか言ってたか?」
「聞いてないです。いつも通りなら夜でしょうね」
それも遅い時間になるだろうと夜秋は言う。
「なら、ちょっと付き合え柊稀。火竜なら、戦えるよな」
運動がしたいと、不敵な笑みを浮かべる秋星。
「僕、弱いですよ」
どう見ても目の前の人物は強そうだ。自分なんかでは相手にならないかもしれない。
大会で本選すら通過したことがないと言えば、二人は笑った。
「そんなこと気にしねぇよ」
「なんなら、秋星が稽古でもしてあげたらどうですか?」
「おっ、やるか!?」
稽古という言葉に柊稀は反応した。なぜ過去に来たかはわからないが、強くなるためにはいいチャンスかもしれない。
幸いにも、目の前にいるのは魔法槍士の補佐官だ。
「お願いします!」
彼らから盗めるものを盗みたい。柊稀は剣を握り締めた。
塔を出てすぐの広場。二人は中庭だと教えたが、そこで稽古をつけてもらうことにした。
剣を抜いた瞬間、二人は酷く驚いた表情を見せる。剣に見覚えがあったからだ。
「柊稀、あなたどこの出ですか?」
「ピナスですが」
それがどうしたのかと見れば、夜秋は納得したように頷く。
「同郷でしたか」
「なるほどなぁ。だからその剣か」
今度は柊稀が驚く番。同郷ということも驚いたが、自分が持つ剣のことを知っているのにも驚いた。
「この剣、知ってるんですか?」
「まぁな。俺から一本でもとれたら、教えてやってもいいぜ!」
(速い!)
踏み込んだと思えば、一瞬にして目の前まで間合いが詰まる。
なんとか受け止めたが、重みを感じないと思ったときには、すでに二発目が迫っていた。
これが魔法槍士の補佐官なのか。実力の違いに驚いたほどだ。
何回か繰り返すと、秋星の唐突に動きは止まる。そのまま考える素振りを見せるので、柊稀は不思議そうに見た。
「どう思う?」
「剣術に関してはなんとも。僕は槍ですから」
「そうじゃねぇよ」
よくわからない違和感。彼の中に膜を感じるような、そんな感覚を秋星は感じていた。
「魔力の方なら、あとで飛狛に聞いた方が早いですよ」
「あー、だよな。あいつの目ならわかるか」
魔力の会話に、柊稀はさらにわからなくなる。魔法はほとんど使えないため、自分には魔力がないと思っているからだ。
もちろん、誰かに聞いたことがあるわけではない。人によっては、街に行ったときに素質があるかないか聞くが、無関心だったためだ。
「わかんねぇこと考えても仕方ねぇ。こっからは指導にしてやるから、こいよ」
今までは柊稀の実力を測るためのもの。打ち込んでこいという秋星に、柊稀は剣を構え直す。
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