フェンデの巫女3
フェンデの巫女殿――目的の地へ着いたのは、オルドを出発して三日目の昼頃であった。
一瞬で行けたのだが、あえて馬獣での日程を選んだのは巫女の都合だと説明された。
巫女殿に客が来ているのだと言う。護衛なだけあり、琅悸は巫女殿について詳しいようだ。
「いつそんな情報を知ったの?」
「家だ。妹に連絡が来ていた」
普段は道があるのだと、彼は普通に言ってみせた。
「なんで?」
なぜ彼の家にはこのような道があるのか。魔法に詳しくはないが、それでも簡単に作れるものではないことぐらいわかる。
琅悸が作ったのだとしても、かなりの苦労だったはずだ。
「家を見たからわかるだろ。剣術を教えてんだよ、こいつ」
確かに、彼の家には道場のようなものがあったと、柊稀は思いだす。
中を見たわけではなかった為ハッキリ言い切れなかったのだが、あれは間違いなく道場だったようだ。
その道場で彼は剣術を教えている。だからあれだけ強いのだろうか、とも思う。
「鍛えてもらえば?」
「えっ?」
「柊稀弱いからねー」
(なにも言えない)
がっくりと肩を落とす姿を見て朱華は笑った。
「ふっ。まぁ、教えてくれと言うなら、いつでも教えてやるよ」
笑いながら琅悸は馬獣から降りる。
巫女殿はフェンデという小さな村にあった。この村の巫女であるからフェンデの巫女と呼ばれているだけであり、本来は精霊の巫女という。精霊の儀式を行う巫女であるから。
村へ入れば、白いローブを着た村人ばかり。おそらく巫女殿に関係があるのだろう。
村そのものが巫女のためにあると言っても過言ではない。そんな雰囲気であった。
巫女殿には一部の者しか入れない上に、寝泊まりが許されているのはさらに一握りとされている。
そのため、巫女殿で働く者は村で生活していた。それがフェンデの村なのだ。
「じゃあ、琅悸さんはここに寝泊まりしているんですか?」
「琅悸でいいし、敬語もいらない。出会ったときのように話せ」
「あ、うん」
いいのだろうかと思いつつ、柊稀は言葉を戻す。
「俺は普段、巫女殿にいる。傍にいなきゃ、護衛にならないだろ」
「あっ……」
「バカ…」
そうだったというように固まる柊稀に、ため息をつく朱華。
しかし、こんなところがまた異性にモテてたりするから、朱華は腹が立つ。
森に囲まれたフェンデの村。奥には石造りの神殿。巫女殿と呼ばれるそこは、静かで穏やかな時間が流れていた。
敷地に入ってすぐ、女性が一人駆け寄ってくる。白いローブに身を包んだ女性が軽く会釈する。
「琅悸様、馬獣はこちらで預かります」
「あぁ、頼む。客人は帰ったか?」
「はい。巫女様は中でお待ちです」
巫女護衛という肩書きを持つ青年。それだけで、この村では地位が高いのだと柊稀は気付かされた。
青年を見ながら、なにかすごいことに巻き込まれたような、そんな気持ちにさせられる。
石造りの巫女殿は見たこともない素材。もしかすると、古い文明のものなのかもしれない。
「柏羅?」
ふと少女を見れば、少しばかり落ち着きがない。
「これ……見たことがあるような、気がします」
始祖竜だからだろうか。これは明らかに過去の遺物。柊稀でもわかることだ。
それを知っているなら、この少女は本当に始まりの竜なのかもしれない。
考えながら歩いていると、水の流れる音が聞こえる。石造りの神殿内。このどこかに水があるのだ。
「これは……」
向かった先には噴水のような物があった。水が吹き出し、どこかへ流れているようだ。
しかし、それがどこに流れているのかがわからない。不思議なことに、足元に水の流れはないのだ。
「巫女様、只今戻りました」
「琅悸! お帰りなさい!」
呼び掛けられた女性は嬉しそうに言う。それに対し、琅悸は膝を折り、恭しく言う。
真似した方がいいのか戸惑っていると、紫色の瞳と目があった。
「あ、初めまして。柊稀です」
「ピナス村から来ました。朱華です」
「初めまして。私はフェンデの巫女、
白いローブは村人と同じ。けど、朱華は見逃さない。
「あれも霜月だよ」
こっそりと耳打ちする。琅悸が傍にいるのだから、彼から手に入れているのだろう。
巫女としての服装は変えていないが、それ以外は自由なのかもしれない。もしくは、村の服も彼の妹が協力しているのか。
笑みを浮かべる巫女は、腰まである銀色の髪にキラキラと輝く紫の瞳。輝いている理由は、琅悸に会えたから。なんて理由、柊稀にはわからないこと。
「その少女が?」
「おそらく」
琅悸の返事を聞くと、巫女は人払いをした。その場にいた巫女に仕える女性達をすべて追い出したのだ。
「彼女達には聞かせられませんから」
苦笑いしつつ、公にはできないのだと言う。閉鎖的な村ではあるが、いつ、誰が、どこで聞いているともわからない。
買い出しに出た際、つい漏らしてしまうなんて可能性もある。用心に越したことはないのだ。
「聞きたいこともあるでしょうが、まずはこちらの確認をさせていただきます」
有無を言わせない言葉。柊稀も頷くしかなかった。なにはともあれ、これで知りたいことを知ることができるのだ。
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