旅立ちと出会い3

 一人対五人の乱戦。剣と剣が重なり合う音が響き、朱華が放つ炎が荒れ狂う。


 魔法を駆使するも、戦況はあまりに不利過ぎる。朱華は冷や汗が流れ落ちるのを感じた。


「朱華!」


 背後から斬りかかる二人を見て、柊稀が炎を放つ。


 しかし、剣が生み出す炎では一人を抑えるので限界。それぐらいの強さしか放てない。


 悔しくて悔しくて、柊稀は剣を強く握り締める。


「炎の使い手……」


 柏羅が柊稀の剣に触れた。輝く金色の瞳と白い光。身体に流れ込む力。


(柏羅がやってるのか)


 今ならやれる。よくはわからないが、それだけは確信できた。


 剣から溢れ出す炎。力一杯振り下ろせば、今までで見たこともないほどの強い炎が溢れ出す。


(すごい……柏羅の力なのか)


 一瞬にして二人を丸焼きにした炎。これを自分がやったのかと、信じられなかった。


 身体に寄りかかる重みを感じ、柊稀は慌てたように抱える。柏羅が急に倒れたのだ。


 瞳が輝いたのとなにか関係があるのかもしれない。無意識に力を使っていたが、力を使うと瞳が輝くのか。


「柊稀! 逃げて!」


「逃がさぬ! その少女をよこせ!」


 笛のような音が鳴り響く。合図だったのだろう。さらに五人のローブを着た者が増える。


 それも柊稀の背後にだ。逃さないために、はじめから待機していたのだろう。


 最初に現れたのと合わせて八人に囲まれ、さすがに二人も焦る。


「さぁ、その少女を渡せ」


「断る」


 渡してはいけないと、直感で感じていた。目の前にいる集団からは危険な雰囲気を感じる。


 柏羅の不思議な力を感じたあとだからわかること。彼らは間違いなく、この力が目当てなのだろう。


 どんなことに使うかはわからないが、いいことでないのは確かだ。


 ジリジリと迫ってくる敵。力が高まったのはあの一瞬だけだったらしい。


 今は、剣からあれほどの力が放たれるようには感じられなかった。


「柊稀ー!」


 朱華がこちらへ来ようとしている。けれど、敵はそれを許さない。


 そう、敵なのだ。彼は今、目の前にいる集団を敵として見ていた。魔獣なんかより厄介な存在と。


 この少女を狙う者達。この少女を利用しようとする者達。護らなきゃと思うが、柊稀は完全に追い込まれていた。


「伏せろ!」


「えっ」


 新たにした低い声。敵か味方かわからないが、咄嗟に彼は動いていた。馬獣が声に従うよう動いたからだ。


 馬獣は賢い生き物と言われている。主人にとっての敵や味方も判断できるほどに。


 伏せると同時に頭上を通り抜ける風。否、風に見える矢だ。視線を矢が来た方を見れば風になびく長い髪だけが見えた。


 結わえられた長い髪は茶色。キリッとした目は深緑。立っていたのは地竜族の青年であった。


 手にしていた弓が光へ変わると、光は一本の剣へ姿を変える。一直線に走り抜けた青年が一撃で一人を斬った。


「強い……」


 まるで舞うように軽やかにもう一撃。剣は狙いを外すことなく斬りつけていく。


 動きは一秒たりとも止まることなく、すぐさま次を狙う。その姿を見て、柊稀と朱華は驚いた。


 自分達とは強さの次元が違いすぎ、言葉を失い見ていることしかできなかったのだ。


「やれやれ」


 すべてを一瞬にして片付けた青年は、何事もなかったかのように剣を光へ戻し、本来の場所へ戻す。


 彼にとってはたいしたことではなかったのだろう。


「あ、ありがとう」


「いや、お礼をされるようなことはしていない。あいつらにその子を連れていかれては、俺も困るからな」


「えっ……」


 助けてもらった相手。敵意はまったく感じなかったが、彼も敵なのか。柊稀は警戒するように青年を見た。


 敵には見えないのだが、悪い者でなくても少女の力は欲しいのかもしれない。


(柏羅の力って……)


 一体なんなのだろうか。そんな疑問が浮かんでくる。






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