8章 崩壊へ進む歯車


「どうだ?」


 私とダリオさん、バーンハード王子は王室排斥を目論む組織のリーダーがいるヴァンリーブ王国警察署・取調室の横の部屋に来ていた。


 もしかすると私を狙った相手かもしれないということで、マジックミラー越しにその姿を見たのだが……。


「違います」


 背の高さからして、あの時に見た人物とは全く違う。私が見た人影はもっとスッとしていて……長身だった。


「serinfuhbbineokgah...」


 ぞわり、と肌が粟立った。

 頭が割れるように痛む。


『マドカさん、大丈夫?』

『ダリオ、もういいんじゃないのか? 部屋に帰してあげた方が……。俺たちでも禍々しく感じるくらいだ。一般人ならなおさらキツい』


 クリストファーさんとルイスさんの声にダリオさんは『……そうだな』と頷いた。


『はあ、収穫なし、か』

『嫌味言うなら、とっとと王城に帰れ。国王たちが待ってるぞ』

『言われなくても帰るさ。ダリオ、取り調べをよろしく』


 バーンハード王子は踵を返して後ろ手を振った。


『ダリオはこれから尋問に参加するんだよな?』

『ああ』

『わかった。じゃあ、マドカさんは俺とクリスで送り届けておく』

『……頼む』


 ダリオさんは言葉少なに取調室へと入って行った。


『マドカさん、大丈夫? 部屋まで送るね』




 ━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-




『送って下さって、ありがとうございます』


 私が寝泊まりしている部屋まで付き添ってくれたクリストファーさんとルイスさんにお礼の言葉を述べると、クリストファーさんは屈託のない笑顔を見せた。


『敬語は要らないってば! 僕たちきっと同じ年くらいだろうし……ねえ、ルイス?』

『うんうん。マドカさんは何歳?』

『二十五です』

『やっぱりね~。タメだと思ったんだ』

『そう言えば……保護対象リストの書類に書いてあった』

『え~ルイスよく覚えてるね。僕、忘れてた』


 呑気にクリストファーさんはメガネを外し、それを服の裾で拭った。


『それにしても、マドカさんってダリオと仲良しだよね。珍しい』

『そう……ですか? というか、喧嘩ばかりしてる気がするんですが……』


 クリストファーさんから見ると、どう見えるのだろうか。


『それが尚更珍しい。あいつはああ見えて、他人にはものすごく冷淡だから』

『特に女性に対してね』


 ルイスさんとクリストファーさんは意味深に頷き合う。

 冷淡なんて言葉、ダリオさんとは無縁だと思うのだが――……。

 そんなことを思っていると、ルイスさんが私に目を向けた。


『ダリオさ、かなり良い奴だから』

『は…………あ…………』


 なんでいきなりそんなことを言われるのか訳がわからず、私は首を傾げてしまう。

 すると、クリストファーさんがフッと笑った。


『女性に冷淡って話したので思い出した。ダリオの女嫌いに拍車がかかったの、あの事件だよね、絶対』

『ああ、間違いない。クリスが止めなかったらやばかったよな』

『あの事件?』


 問えば、クリストファーさんが口火を切った。


『――僕ら、小さい頃から仲良いんだけどさ。小学生に上がるちょっと前くらいだったかな……歩きタバコしてた女性のタバコが……僕の目に直撃したんだ』

『え……』

『目を押さえてうずくまってるクリスを前にして俺もダリオも、何が起こったか分からなくて。……最初に我に返ったのがダリオだった』

『歩きタバコをしていた女性は何も言わずにサッサと立ち去ろうとしてたんだけど、ダリオが勢い良く止めてさ。クリスに謝れって』


 その光景を思い出しているのだろう、クリストファーさんは噴き出した。


『女性は“はあ?”とか言ってるし、騒ぎになって警察は来るしで大変だったよ』

『ダリオとあの女、ものすごい言い合いしてたな』

『うん。当事者の僕がどん引きするくらいにね。……結局、僕の右目の視力はかなり落ちちゃって、こうしてメガネになったワケ。あ、任務の時は鬱陶しいからコンタクトはめることもあるけどね』

『ダリオの女嫌いはあれから顕著に酷くなった』

『そうそう! あの女性ひとは……警察署に着いた途端、俺たちに向かって“クソガキ”とか“器の小さいガキ”とか散々こき下ろしてたのが嘘みたいにしおらしくなって泣き出して……』

『結局、故意はなかったということで軽い賠償で済んだ』


 え、と思わず声が洩れてしまう。


『びっくりだよ。こっちは一生視力回復しないってのに。女の人って怖~いと思ったね。……多分、僕が元・少数民族だってことも関係してるんだろうけど』

『少数民族?』


 うん、とクリストファーさんとルイスさんは頷き合った。


『俺とクリスは、今はもうすたれた少数民族の末裔』

『公式に名乗る名も言葉もヴァンリーブ人と何ら変わりないけれど、いまだ戸籍には特記事項として、“少数民族の末裔”ってことが記されてる』

『司法関係の人たちは、それで差別することもあるから……』

『そんな俺たちが警官になれたのは奇跡だね、クリス』

『ハハッ、間違いない!』


 二人とも軽い口調で言っているが、彼らが言ったことは非常に重い真実だ。

 クリストファーさんとルイスさんは私に気を遣わせまいと、わざと軽い口調で言ってくれたに違いない。


『そう言えば……もう一つ思い出した。ダリオが“オレは政治家になって、歩きタバコ禁止法令を出す!”とかダリオが言い出して、政治家を目指し始めたのが……あの事件が原因だったってこと』

『自分の頭じゃ無理だって早々にリタイアしてたよね。でも……嬉しかったなあ』

『結局、歩きタバコ禁止法令はバーンハード王子が議会に働きかけて法令化してくれたんだっけ……』

『そう、なんですか……?』

『うん。バーンハード王子が街に公務へ来たとき、ダリオが目の前に飛び出して直訴したんだ。“オマエなら議会で発言できるだろ! 歩きタバコは禁止にしろ!”ってさ。無茶苦茶だよねえ』

『全くだよ。あいつは本当にアホだ』


 アホと言い放ちつつ、ルイスさんの表情は柔らかい。クリストファーさんの表情もとても優しい。

 二人とも、ダリオさんのことが大好きなんだということが伝わってくる。

 ルイスさんは私に向き直った。


『ダリオは、少数民族である俺やクリスを差別することなく“仲間だ”“友達だ”と言ってくれるようなお人好しだ。君は――――ダリオに似てる』

『私がダリオさんに?』


 ああ、とルイスさんは頷いた。


『……ダリオが言ってた。倉間は昼も夜も家族と夢のために働いてる。誰にも弱音を吐かないようにしてるところとか、オレそっくりで放っておけないって』

『……まあ、素直じゃないから、だいぶねじ曲がった言い回しだったけど……意訳するとそんな感じのことを言ってた』


“ねじ曲がった言い回し”というのがものすごく気になるところだが、聞いたら文句を言ってしまいそうなので敢えて聞かないことにする。


 クリストファー

『あ、もちろん、ダリオみたいに彼女は口悪くないよって突っ込んどいたから安心してね~。……でもさ、本当にダリオは良い奴だから。これからもダリオのことよろしくね』

『私、は……』


 私は――特殊犯罪組織のメンバーが口にした言葉を、顔を思い出せば……母の容態が安定すれば……カムジェッタへ帰る身だ。

 ずっと、ダリオさんのそばにいることはできない。

 ……居られない。

 そばにいる、理由がないから。


 友達から、こんなにも慕われているダリオさん。

 私を危険から守ってくれているダリオさん。

 どの面から見つめてみても、彼は素敵で。


(素敵すぎて、困る)




 ━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-




 ――――2週間後。



 私とダリオさんは、私の母が入院している国立病院を訪れていた。


「本当に良かった。安心しました」

「ええ、自分でもびっくりするくらい体調も良くなって……ドゥーガルドさんのおかげです。ありがとうございます」

「いえ、全部マドカさんのおかげです。彼女の働きぶりが素晴らしかったから、アナタはヴァンリーブへ来ることができたんですよ」


 ……なんだろう。この違和感。

 いつもだったら「ああ? 当たり前だろ。もっとオレに感謝しろ!」くらい不遜に言ってもおかしくない……にも関わらず。

 このキラキラスマイル。


(警察官スマイルってやつ?)


『ダリオ様、倉間アンリ様の容態はかなり安定していますこれならいつ退院しても大丈夫でしょう。病気の原因・治療方法の解明に一歩どころかかなり前進できました。いやはや、ありがたいことです』


 医師は上機嫌でダリオさんへと頭を下げた。


『そうか。まだ二ヶ月ほどしか経っていないにも関わらず、よく治療した』

『はい。私自身も驚いています。アンリ様と新薬の相性が良かったようで――』


「マドカ、マドカ! 実はね……」


 母は私に囁くと、ぐっとベッドから立ち上がった。

 私は驚きで目を丸くする。

 病気のせいで、立てなかったのではなかったはずじゃ――と口にしようとするも、言葉が出てこない。


「母さんね、もう歩けるのよ」

「……え、そうなの……? …………良かった、本当に……良かった……」


 涙ぐみそうになるが、私はそれをグッと堪えた。母が笑っているのを見るのはいつぶりだろう。


 ――温かい笑み。それが私の心を軽くしてくれた。




 ━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-




 母との面会が終わり、私とダリオさんは病院から出た。


「良かったな」

「はい。連れてきてくれてありがとうございます」

「ああ……医者が勢い込んで『アンリが自力歩行できました!』って連絡してきたから」

「だからいきなり病院に行くなんて言い出したんですね」

「驚いたろ」

「前もって教えてくれても良かったのに……」

「それだと驚きが半減するだろうが」

「そういう問題ですか?」

「ああ、そういう問題――――」

『…………ダリオ?』


 黒いセダンが私たちの前に停車し、後部座席の窓が開く。


『…………王妃』


 ダリオさんは心底驚いたように立ちすくんだ。


「え!? お、お、王妃様!?」


 私は慌てて横に捌けて頭を下げる……が、ダリオさんは突っ立ったまま。私は大慌てで彼の服を引っ張った。


「ダリオさん、何してるんですか! 王妃様なんでしょ!?」


 王妃様に聞こえないようにダリオさんを叱責すると、ダリオさんはハッとしたのか「あ、ああ……」と言って横にけた。

 王妃様は嬉しそうな顔をして車を降りてくる。そして……その後ろには――――。


『………………国王まで』

『ダリオ……』


 ヴァンリーブ国王はダリオさんの名前を呼び、少し嬉しそうに目を細めた。


『まあまあ、偶然ですこと。元気にしていた?』

『はい。王妃様もお元気そうで』


 ずらりとSPが国王と王妃を取り囲んでいる様は圧巻だ。思わず後ずさる。


『ここで何をしておったのだ? 仕事か?』

『カムジェッタ国からお預かりしている保護対象者の母君が、こちらの病院に入院しておりまして…………その付き添いです』

『ほう……?』


 国王様の視線が私に向く。

 私は飛び上がりそうになりつつも頭を下げる。名前を名乗るのもおこがましい。私はぎゅっと口を噤んでいた。


『この者の母は――最近、新薬が開発されたばかりの――例の難病を患っており……病の原因や治療方法を究明するのにご協力を頂いております』

『まあ、そうなの? カムジェッタからわざわざ……。ちょうど病院の視察をするところだったの。わたくしたちからも彼女のお母様に一言お礼を述べたいわ』

『かしこまりました。病院スタッフにお伝え致します』


 ダリオさんはそう言ってすぐに電話をかけて指示し始める。


『――ありがとう。あなたのお母様のご協力に感謝します』


 王妃様に話しかけられた私は、焦りながらもこうべを垂れた。


『もったいなきお言葉、ありがとうございます』

『……あら? あなた、カムジェッタ人なのよね?』

『は、はい』

『それにしては……ブルダムなまりがあるわね……』

『え……?』


 どうことかと訊きたかったが、ダリオさんの『王妃、手筈が整いました』という声を前に質問しようとしていた言葉が霧散する。


『それではご案内致します。……国王はどうされますか?』

『ダリオ、もちろん王妃が行くのであれば私も一緒に行くに決まっているだろう』

『かしこまりました』


 オマエも行くぞ、とダリオさんから引きずられつつ……王妃から言われた“ブルダム訛りがある”という言葉が頭から離れなかった。




 ━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-




 母がいる病室をノックする。


「はい、どうぞ」


 母の返事を受け、私はドアを開けた。


「お母さん……」

「あら、マドカ。何か忘れ物でもしたの? ちょっとこれ嗅いでみてくれる? 久しぶりに調香してみたんだけれど、かなりうまくいった…………の」


 母は、私を通り越した先に視線を向けていた。……国王様と、王妃様の方に。

 国王様と王妃様が来てくれたことに驚いているんだろうと思って、改めて事の経緯を話そうとしたところ……。


「アンリ…………っ!」


 王妃様は信じられないものを見たような顔をして母の名前を呼んだ。

 ――どうして、王妃様が私の母の名を――?


「スバル様……」と、蚊の鳴くような声で母は呟いた。


「ああ、夢ではないのよね? 本当に、アンリなのよね……?」


 王妃様は母のすぐ傍まで寄っていくと、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。

 母は何とも気まずそうな顔をしている。


「王妃、あの……お知り合いですか……?」


 ダリオさんの質問に王妃様は力強く頷いた。


「アンリはブルダム王室お抱えの調香師だったのよ。わたくしがブルダム王室にいた頃、わたくしの部屋付きの使用人でもあったの――」

「ブルダム王室の調香師!?」


 私とダリオさんの声が重なった。

 ヴァンリーブ王妃

『あなたはマドカちゃんだったのね。わからなかったわ。……最後に会ったのは、あなたがまだ六歳になったばかりの頃だったから……』


 王妃は涙が光る目尻を指先で拭い、ぎゅっと母を抱きしめた。


「良かったわ……。本当に、生きていてくれて良かった……」

「王妃さま……私のことは」

「ええ、絶対に他言しませんとも。ねえ……これからはわたくしの専属調香師となってくれないかしら。表舞台には顔を出さなくて良いから」

「ですが、私はカムジェッタに帰らなくてはならなくて――」

「帰るまでで良いわ! わたくし、ここに通い詰めます。これまでのこと、たくさん話して頂戴。国王様、よろしいでしょうか? お忍びで訪れるようにしますから」

「ああ、もちろんだとも」


 国王様はそう言って、優しい眼差しで王妃様と私の母を見つめている。

 現在の状況がどういうことなのかさっぱりわからなかったが、国王様と王妃様を母のところまで案内するという役目を終えた私とダリオさんは、とりあえず退室することにした。





 再び病院の外へ出る。

 暮れなずむ空の色がとても美しい。

 私とダリオさんの間には、沈黙が降りていた。

「……あ……」と、お互いの声が重なる。


「……なんですか」

「オマエこそなんだよ」

「ダリオさんからどうぞ」

「オマエから言え」


 こうやって言い合っていてもらちが明かない。

 そう思った私は、気になったことをダリオさんに聞いてみることにした。


「王妃様ってブルダム王国のご出身なんですね」

「ああ、ブルダム王室の人間だった……らしいぜ」

「そう、ですか」


 ということは、私の母がブルダム王室お抱えの調香師だったことは間違いなさそうである。


「……なあ」

「はい?」

「オレはてっきり、オマエはカムジェッタに移住し定着した一族の末裔だと思ってた。カムジェッタ語、完璧だったしな。……いや、オレがそう思ってただけか。ブルダム訛り、あったみたいだし」

「それは――」

「王妃の言い方から察するに、もともとオマエたち家族はブルダム王国に身を置いていたってことか? それも――ブルダム王室の関係者だってことだよな?」


 ダリオさんの視線が痛い。

 私はキュッと唇を引き結び、肩にある帯状疱疹たいじょうほうしんの痕を押さえた。

 帯状疱疹のことと同じく――――

 今まで1度たりとも、自発的に十二歳以前の話をしたことは……………………ない。

 できれば避けて通りたい。のらりくらりと、取り繕いたい。

 でもきっと、真実を話さなければダリオさんは納得してくれないだろうから。

 適当にごまかせば絶対に見抜かれるだろうから。

 ……彼の瞳はどこまでも真っ直ぐで。その真っ直ぐさが、私が頑なに閉ざしていた記憶の扉を叩いた。


「わからないんです」

「わからないだと? オマエ、いくら何でもそんなはぐらかし方は――」

「本当です」


 きっぱりと言い切って強い視線を向けると、彼は口を噤んだ。


「私――十二歳以前の記憶が飛び飛びなんです。……十三年前、私の父は亡くなりました」

「十三年、前…………?」

「はい。帯状疱疹になったことは前にお話ししましたよね?」

「……あ、ああ……」

「あれ、父が亡くなったショックのせいだと思うんです。その際に高熱が出て……目覚めたときには、父の死以前の記憶がほとんど飛んでました。自分がどこに住んでいたのか、どんな人と知り合いだったのかも定かじゃありません」


 私は記憶の糸を辿りながら、唇を湿らせて言葉を紡いでいく。


「母は――父の死に関連することを思い出すと発作を起こしてしまうので……過去のことに関してはあえて触れないようにしてきました」


 別に生きていくにあたって過去の記憶なんて必要ありませんし、と付け加える。


「だから、わからないんです」

「そうか……」


 ダリオさんはそれ以上、質問も言葉も投げてこなかった。

 同情の言葉もなく、ただ了解してくれる潔さが嬉しい。


「ただ――セロシアの花畑だけは覚えています」

「……セロシアの、花畑?」


 はい、と私は頷く。


「美しい丘に咲き乱れるセロシア・キャンドルの花畑。そこで母に調香師になるって夢を語ってる私。その景色と想いだけが、私の幼少時代の想い出です」

「セロシアの花畑…………。その花畑ってもしかして、アマネの――」

「? アマネ様……?」


 ダリオさんは私が聞き返すと、ハッとしたように首を横に振った。


「いや、何でもない。忘れろ」




 ━-━-━-━-━-━-━-━-━-━-



 無機質な部屋に、コール音が響く。


《どうした、ダリオ。時差も考えてくれ。こっちはまだ早朝――》

「アマネ、オマエ……倉間のこと前から知ってたのか?」

《……。いきなりどうしたんだ。そん――……》

「倉間の母親と王妃が会った」

《!》


「倉間の母上はブルダム王室お抱えの調香師だったと、王妃は言っていた」

《…………》

「しかも、倉間は“あの花畑”のこと…………記憶にあるみたいだったぞ」

《…………そうか》

「答えろアマネ! どうしてがセロシアの花畑を見たことがあるんだ! あそこは――」

《……マドカと、彼女の母親のことは――――――ブルダム王室へ絶対に知られるな》


 電話が途切れる。

 ダリオは舌打ちし、スマホをベッドに放り投げる。


「……『ブルダム王室の悲劇』が起こった13年前に亡くなった父親と、調香師の母親……。……っ。くっそ、何なんだってんだ。…………嫌な予想しかできねえよ」


 ポツリと呟いた声は、閑散とした室内に染み込んだ。

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