第48話 究極VSシコう

 窒息。膣息。チツイキ――。


 腕の力は魔力で底上げされているおかげで拮抗しているが、拮抗する程度にしか強化されていないので息ができない分、余裕のない状況に陥っていた。

 子供相手にここまでする大人に恐怖を感じるが、前世の一般常識で考えてはいけない。子供に容赦のない暴力を振るえるのは、俺がハミコ様の伝承に出てくる魔術師と目され巨大な熊を狩れる一個の人族として扱われているからなわけで、ある意味では偏見のなく値踏みされ人としての価値を評価されているとも言えなくもない。

 だが俺は子供として甘やかされたい。エルナトがしてくれたように子供扱いされたい。泣いていたら「しかたないなぁー」とおっぱいを吸わせてもらいたい。だからといってシンシンさんに授乳を求めているわけではない。子供のように泣く俺を見てその気になってしまったシンシンさんが授乳の準備をはじめる。当然雄っぱいからミルクなど出るはずもない。本格派なシンシンさんは自身がミルクを出せないことに憤りを覚える。しかし泣いている子供を見過ごすことができず何を思ったのかズボンを脱いで「こちらを吸うがいい! 特濃ミルクが出るぞ!」などと意味不明な文句で誘い、強引に飲ませようとしてくる。泣く子も黙るとはこのことで俺は泣きやんだうえで真顔でふざけた要求を拒絶。

 その後もミルクがでないおっぱいは吸いたくないと駄々をこねてネネネを要求する。ネネネからも乳は出ないから父を吸えと執拗に自分のモノを吸わせようとするシンシンさんに、その言葉を待っていたとばかりにネネネの胸からミルクが出るようにすると豪語する俺。「一年後にまたここに来てください。本物の母乳をお見せしますよ」とネネネを夜這い抱きしてスズ村へと連れ帰り――なんやかんやあってレイとネネネの産んだ子に囲まれてハッピーエンドっと。


「――――ッ!」


 意識が半分飛んでいたが、水の中でもわかる外の騒がしさと、肘にあたる不快な柔らかさで意識を取り戻す。完全に伸びかかった腕が、関節が逆方向に曲がるという日常生活ではまず味わえない痛みのシグナルを送っている。同時に股間の柔らかなクッションから感じる不快感も。

 ここにいたってもまだ手加減をしようとしていた。折れても治してもらえばいいなどとサイコパスに片足を突っ込んだ発想はとうに消えていたが本気を出す勇気はなかった。


(チェリー、魔術を使うよ。威力は最小限でいい。だから全力で俺の魔力を吸ってくれ)


 心の声がチェリーに届いたのか、チェリーが水面に現れた気配を感じる。そして即座に溺れて消えていく。なにをしに出てきたんだ。

 魔力を練り上げて想像するのは岩の拳。最小限の威力でかまわない。最大の効力を発揮させるから。魔術は放った部位で威力の調整ができる。指ならば小さく、手のひらならば大きい。指からだせるならば体の他の部位からも出せない道理はない。岩の魔術を放つのは肘周辺だ。不愉快な感触で俺の肘を包んでいるネネネの生まれ故郷たる睾丸をピンポイントに狙う。

 ジワリと肘が熱くなる。何かを感じ取ったのか腕をつかむ力が若干緩んだ気がしたがもう遅い。


「――アァァアアアアアアッ!!」

「ぶはっ!」


 水面から顔をだして何度も浅い呼吸を繰り返す。久しぶりの新鮮な空気を肺が悦んで受け入れている。肺にも愛棒が生えていたらギンギンに怒張していただろう。空気ってこんなに美味しかったんだ。焦らされた分だけ感度が上がるって本当だったんだ。この知識はいつかアリーシャの処女を頂戴する際にも実践させてもらおう。


「アァァアあぁぁあぁぁぁ……」


 大きな悲鳴から情けのない同情を誘う「あ」へと変化していくシンシンさんの声。燃えよドラゴンでブルース・リーが表現した顔にそっくりである。


 追撃のチャンスではあるがまた環境キルを狙われても面白くないので小川から這い出て体勢を整える。


「よくもやってくれたなぁ……。くそ、あと一歩いっぽだったんだが」


 あとチンポだった……? なにがあとチンポだ。やるなら一人でやってろ。

 仕切り直しには持ち込めたが体力の消耗はこちらの方が大きく、肉体的苦痛はあちらが大きめだろう。精神的な優位は以前相手側にある。寝技に持ち込まれたら体格差からして不利だ。けれども野放しにしていてはスピードでも勝てない。何とかして捕まえなければならないのに、捕まえたところでまた寝技に持ち込まれて再び睾丸による圧迫を……今は余計な事を考えるな、戦いに集中しろ。


 離れていては間合いは狂わせられるのだ、こうなったら近接での打ち合いしか思いつかない。それに相手だって睾丸に魔術を打ち込まれているので警戒を強めて寝技には持ち込みづらい精神状況にあるはず。


 膝と股関節を曲げて肩幅より大きく開き、足先はまっすぐに正面を向ける。腰は空気椅子をする感覚まで深く落とし、浮いて尻を突き出さぬようしっかりと腰を引いたまま、いわゆる騎馬立になり拳を溜める。騎乗位ではなく騎馬立だ。


「ほう?」


 ほう? じゃねーよ。真面目に言う奴を初めて見たわ。いや、加藤君が地元の地区センターで見知らぬ小学生に将棋を挑み、五分で王手された時以来か。加藤君は将棋に限らず実力が足りていない者でも強者然とした態度をとる癖があったな。


「正面切った打ち合いか! 良いだろう、乗った!」


 騎馬立ちを騎乗位と間違えて乗るつもりではなかろうな。


「まず一つ!!」

「ぐっ!」


 顔面に拳を食らってしまったが覚悟をしておけばそれだけで違う。魔力を流してなかったら首ごと持って行かれてたであろう強烈な一撃でもくるとわかっていれば気を失わずに受けきれる。殴られた腕を左手で横にずらすように捌き、騎馬立ちを解き右足を後ろへ下げる。捌かれた勢いで体勢を崩し踏みとどまろうと足に力を入れている。流石はネコ科で流石はロリコン、この程度ではコロリンしない。バランス感覚に優れているのは素直に尊敬する。でもこれだけの隙が頂戴できるならば十分だった。目には魔力を流してあるので、この距離ならばどう動こうとも惑わされはしないだろう。 

 体勢の崩れたシンシンさんのわき腹に、渾身の上段突き打ち上げてねじ込むように叩き込む。振り切ったとは言えない微妙な位置であててしまいダメージは分厚い筋肉と骨に遮られて内臓までは届いていない。それでも苦悶に歪む顔が俺の視線まで降りてきていたので、機を見つけたりと一発二発、溜めて三発と顔面に拳を叩きこむ。四発目は顎を割るつもりの上段直突き。

 鼻血を撒きながらたたらを踏んで後退をするシンシンさん。これだけ内婚d芽生たたらを踏む程度で済ませられるのは素直に恐ろしい。追撃に鳩尾へ正拳を突きこみ、体がくの字に曲がったことで下がってきた頭を掴み、跳躍しての膝蹴りを入れる。


 手加減などとは言っていられない。いっそ魔術も使ってやろうかと数瞬悩み魔力を拳にためるが、殺し合いをしているわけではないのだからと思いとどまり、再び鳩尾に正拳を放つ。


「――とっ!」


 鳩尾を打ち込むはずだった拳は放たれる前に腰部分で止めていた。魔力を込めていた目のおかげでシンシンさんの様子がおかしいと気づいたからだ。


 慌てて後ろへと飛び下がると、シンシンさんは口角を限界まで上げて笑っていた。

 どうやらこいつは殴られて喜ぶ癖があるようだ。心底に気持ちの悪い奴だ。優秀なケツドラムを保有していたアロワナだったら最高にアガったのに男だとこうも気色悪いものか。まったくロックな気持ちがわいてこない。


「これを躱すかぁ……。気付いてしまうかぁ! お主最良だなぁ!!」


 俺がさきほどまで居た場所には俺の背丈よりも長い刀――大太刀が二本めり込んでいた。その場にいれば確実に死んでいただろう。よくみればシンシンさんの目つき変わっている。

 獣の目だ。こいつ完全にイッてるぞ。


「もう我慢ならん。殺してでもお前の体を貰うぞ!」


 両刀使いのサイコパスホモだ。

 そんなでかい物を二本もどこに隠してたんだよ。

 俺の股間にも業物(あいぼう)がある。それでお前の娘にも同じことしてやるからな。急に振り下ろして面打ちして一本とってやる。


「愉快だ、今日はなんて晴れやかで愉快な日なのだ! めでたい! ありがたい!」


 何がそんなに楽しいのだろう。刃物を二本握って愉快愉快って、俺の持つ常識でははかれず、感性に大きな隔たりを感じる。

 目を真っ赤にしてイっているから正常に物事を判断する力などとうに失われていると見た方がよさそうである。心なしか坊主頭の毛も逆立っているように見えて不気味だ。


 よし頃合いだな――




 ――交代だベル。





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