第46話 男の猫人も舐める癖があるのか否か
偉い人なのかな。偉くないのに偉そうにする自信家もたまにいるけどそういう類いの人かな。ちなみに俺はエロそうにみえないのにエロい人だったね。前世では性欲がなさそうだとよく言われたものだ。馬鹿言うなと。性欲しかねぇよと。俺の場合は三大欲求ではなく性欲の一大巨頭のワンマン欲求なんだわ。唯一抜きん出て並ぶ者なしと、どんな欲望よりも性欲が突出していた。寝る間も惜しんでエロい妄想をして三度の飯より一発の自慰だった。そんな俺をつかまえて性欲がなさそうとはどういう了見か。
「送り届けたら狩りのつづきをする――という選択肢はなくなってしまったようですね」
「そのようだね」
里に入れてもらうのはいいが、一緒についてくる黒い集団を何とかしてほしい。
突き刺すような視線をビシバシと感じる。あまりにもこの視線が続くようならば愛棒でもってネネネをビシバシと突き挿すぞ――そう脅してやろうか。
スタッ――
「んッ――」
これで何度目のドッキリだろう。またしても上から降ってきて俺を驚かしにかかる。思わず色っぽい声が漏れてしまったが今のは誰かに聞かれていないだろうな。
「……」
「……」
ネネネにみられてたわ。さっきから見つめたり舐めたり忙しそうだったものね。そりゃ見ているにきまっている。気まずいから優しい目で見ないで。
「救ったのは貴様か」
また上から目線の人が増えた。
さっきベルが大声で叫んでいただろ。耳元でもう一度叫ばせてやろうか。
「はい。込みに込み入った事情もあるにはあるのですが、怪我をしたこの
「ハァハァハァ……ユノ様ぁ……」
「大儀である」
何が大儀だよ。いい加減にしろよこいつら。人を脅かしておいて謝りもせず、しまいには上から目線でその居丈高な態度とは完全に舐め腐っている。いいんだぞ、お前らがそのつもりなら俺だって舐めればいいんだからなぁ。ネネネが頬を舐めてくるタイミングにあわせて舌を舐めかえしてやろうか。お前らはうちのベルが舐めてやるから尻だして一列に並んで順番が来るのをドキドキしながら待ってろ。
次にまた驚かそうとしてくるなら、こちらもそれなりの対応をさせてもらうことにする。いつまでも被害者側におさまっている温厚で大人しい子供だと思うな。ネネネからの性被害ならばいくらでも歓迎するが貴様らからの心臓に対する加害はもううんざりだ。生半可なドッキリを仕掛けてきたら驚いたふりをして中指を立てた岩の拳で元世界(あっち)の富士山までぶっ飛ばしてやる。最低でも五合目まではぶっ飛ばしてやるから覚悟しろ。観光を楽しんだら股間の金剛杖に「五合目」とでも焼きを入れてもらってこい。
「いつまでそうしているつもりだ。寄越せ」
「あっ、はい」
たった今降りてきたドッキリの仕掛人が濡れ猫となったネネネを奪い肩に担ぐようにして連れていく。相変わらず横柄な態度である。尻でも蹴っ飛ばしてやろうか。
労をねぎらうつもりがあるなら正面から来い。上から来るな。次やったらぶっ飛ばすぞ。比喩ではなく本気で飛ばすからな。もう本当に上からはやめろな。とにかくやめろ。降りてくるのは子宮だけでいいんだよ。
☆
沢蟹でもいそうな小川のせせらぎ。小川をまたぐ湾曲した小さな橋。前世での田舎の風景を想起させるゆったりとした時の流れる落ち着いた里。上から人が降ってこなければ長閑で暮らしやすそうないい里である。
家々の見てくれはスズ族の村にある物と大した差はないように思えた。族長の家に招き入れられ、室内を見渡すと明らかな違いが見て取れる。スズ村の家の床は板張りである。だが猫人の家は板張りではなく畳だったのだ。暖簾であったり畳であったり世界が違うのに日本の様な文化が育つものなのか。実は日本の未来だったりは――しないな。美少女が人の顔を舐めてくれる素敵な文化など日本にはなかった。もし日本なら相応の対価、サービス料金をとられているはずだ。
「しばし待たれよ」
族長の家にあげられたはいいが肝心の族長が不在だった。
「これはあれだな、不在と見せかけて天井裏に隠れていて上から降ってくるやつだな」
木っ端共がやるのだから族長がやらない訳がない。
「警戒はしておいても損はありませんね。慣れてはきましたがそれにしても鬱陶しいです」
ベルも上から降ってくる猫人たちに腹を立てている様子。それもそのはず。ここまで案内された道中にも何度二人して跳ねさせられたかわからない。音もなく樹の影からスッ――と出てきたり。いつからいたのか背後についてきていたり。覗き込んだ川の中に見知らぬ人の顔がうつっていたり。家と家の間に挟まっていたり。曲がり角に用もなく直立していていたり。ことある毎に不意打ちを仕掛けてくる。YouTubeに流すための素人ドッキリ映像でも撮影しているのかと疑いカメラをさがすほどだった。
もし俺たちに許可もなくネタにして笑いを取り、小銭を稼ごうとしているなら許せるものではない。仕返しにネネネとのハメ撮りをしてやる。一回二回ではなく十年以上にわたる成長記録としてのハメ撮りを行い、ストーリー形式に編集してまとめて親に送り付けてやるのだ。徐々に伸びていく髪や、ぎこちなかった騎乗位がスムーズになっていく様をみて悔し涙を流すしながら勃起しろ。ラストにはボテ腹のネネネに親への感謝の言葉を述べさせる定番のしめでビデオメッセージは終了する。
「個人的に一番驚いたのは案内役が爆音で放屁した瞬間ですね。警戒しすぎていたせいもあって体が浮きました。正直驚くよりもアレで笑うのが悔しかったです」
「あれずるいよね。こっちは緊張もして気を張っているのに、気の抜き方がずるいわ。笑うのはなんか負けた気がするしなんとか耐えようとしたんだけど、曲がり角に隠れていたであろうやつが屁に反応して早めに出てきちゃったのが視界に入って限界だった。あの瞬間は感情がおかしくなりそうだった」
顔を片手でおさえて死柄木弔みたいなかっこで笑ったわ。
「あれは俺もやられました。ユノ様が指ささなけれ気づかなかったのにつられましたよ。屁に驚いた自分の情けなさも相まって悲しいやら面白いやらで泣きそうでした」
「あいつら人を驚かすことに命をかけているのかな」
「驚かすためなら矜持も捨ててましたしね。驚かすことに矜持を感じているのかもしれません」
「一度の失態ともいえない失態で死のうとしていたネネネって思った以上に高潔なのかもしれない」
「確かにそうですね。一番まともな猫人を決めるとしたら暫定的に彼女でいいでしょう」
「しかし遅いですね」
「絶対上で準備してるだろ。俺らが警戒をとく一瞬の隙を待っているんだ」
「間を使う手練れですからね。息つく暇もなくて息が詰まりそうです」
族長も上からくるのはわかっている。流石に俺たちも学習した。
村人総出で俺の心臓を止めようと言うならばこちらにも考えがある。
警戒しながら天井を見上げる。会ってもいない相手にここまで腹が立ったのは初めてかもしれない。タイミングを見計らって今も上でニヤニヤしているのだろう……クソめが。
来ると分かっているのだから来たら岩の拳で対空迎撃してやる。族長が降りてきたらそれが合図だ。猫人族滅亡の合図である。他の奴らも岩の拳のげんこつで地面に埋めて二度と木に登れず落下もできない体にしてくれる。
だが安心しろ、愛棒は鬼の金棒だが俺自身は鬼じゃない。猫人族の血を絶やさぬため、存亡をかけてネネネに子種をかけてやる。うまく子孫が残せるといいな愚かな猫人族どもよ。
「……」
「……」
しばらく見ているが降りてこない。
おかしい。静かすぎる。足音もしない。まだ家にいないのだろうか。
「……」
「……今また屁をこかれたら今度こそ大笑いしていたかもしれません」
「気が緩むからやめて。笑いへの耐性が低くなっていつでも笑える状態になっちゃうから」
「すみません。ですがあれほど間の使いかたに長けた猫人が、この隙を見逃すでしょうか」
「確かに」
油断せず上に意識を向けながら畳をちら見する。
畳から、い草のいい匂いがする。畳など簡単に作れるものではなく職人の技術が必要なはずだ。これほどのものをどこで作っているんだろう。
怒りに飲まれかけていた心が懐かしい香りのおかげで落ち着いていく。
畳を見ていると中学時代に体育で柔道を習っていた時のことを思い出す。柔道漫画はとにかく読んだ。小説だってタイトルや売り文句に柔道と書いてあるのを見かければ何だって手を伸ばした。
柔道と言えば前世で仲のよかった加藤君が乳首で――
バーンッ――
「んッ」
「んッ」
前世の記憶にふけろうと視線を畳からずらした瞬間に畳から人が出てきやがった。天井を見ればいいのか畳を見ればいいのかわからなくなって首の筋をつった。経験のない痛みを堪えながら畳を跳ねあげて現れた男を睨む。
「待たせたな」
金と黒のラインが交互に入った派手な坊主頭のおっさんである。非常にいかつい。彼が族長だろうか。
「娘の容態を見させてもらっていた」
待たせて驚かせて首の筋までつらせたのだから最初に出る言葉は「ごめんなさい」じゃないかね。ベルを見てみろ。さっきの俺みたいに顔をおさえて死柄木笑いをしている。驚いた自分が情けなくて笑うしかなくなっているんだ。
待たせた事も驚かせた事も謝らず自己紹介の挨拶もなしか。そうかいそうかい、いいだろう。その喧嘩言い値で買うから言ってみろ。二度と女じゃ楽しめない体にしてやるよ。うちのベルがな。
「わしの娘が随分と世話になったそうだな。心より礼を言う。本当に、あ、あり、ありり、ありぃ――」
アリーヴェデルチ(さよならだ)ならこちらのセリフだぜとっつあん。
「あり……ありがとう……。うぅ……はぁああ……心からの礼を申し上げたい」
感謝の言葉を述べようとすると顔を手で隠す死柄木ポーズで涙を流し始めた。
泣くほど礼を言いたくない。意地でも感謝したくない。そういうことだろうか。無礼極まる猫人族の事なのであり得ない話ではない。
こっちは一つ一つが味わった事のないハイレベルでハイクオリティーなドッキリに何度も心臓の寿命を削られながらここまでたどり着いたのだ。詫びのかわりにニンジンを尻にぶち込んで全裸土下座をさせてもまだ許せない程度には怒っている。これ以上俺を刺激しないでくれ。これ以上は怒りに我を忘れてニンジンではなくダイコンを尻に放り込んで二度と収穫できないほど奥まで押し込んでしまうぞ。ベルがな。
バンッ――
「あなた!」
「――ッ!」
「――ッ!」
また一人畳から出てきたよ。しかも今度は大声まであげて音で脅かすタイプのドッキリも混ぜてきやがった。心臓がつるかと思ったわ。心臓少年ジャンプだ。ベルなんて首の筋がつったままひどい顔のイケメンになっている。
こいつらはあれか? 俺たちの心臓がどこまで飛ばせるか競ってるのか? だいたい玄関を使えよ、そこにあるんだから。今のところ玄関使って入ったの俺らだけじゃねーかよ。あれは何、出る穴なの? 入る穴じゃないの? アナルなの? 使わないなら玄関も尻穴も岩で塞いでやろうか? あ? それとも入れる穴にしてやるか? ベルがな。
「ぐぅっ、ぐふ……」
泣いている族長を見ているとより心が荒れてくる。バイアスがかかっているだけかもしれないので、人の涙を見てイライラする思考を断ち切りたい。怒りは敵だと思え。堪忍は無事長久の基。情けは味方、仇は敵だ。
ここは一つレイの蕩け顔を思い出して深呼吸だ…………いかん、普通に勃ってきた。いかついおっさんを前にして俺の子供な部分が大人になってしまっている。これではおっさんが泣いているのを見て勃起しているみたいじゃないか。ベルにバレたら猫人たち以上に驚かせてしまうぞ。
「す、すまんぅぅう。ネネネネネネが死ななくて本当によ、よかよ、よかったぁ……」
号泣だ。声が震えてしまっているからかネが多く二人分呼ばれている。二人いるなら一人くれ。
いい歳のおっさんの号泣は見ていて精神的にくるものがあり、それを見ながら半勃ちしている自分を今すぐにでも殺したい気分だ。来世はベルの子供として生まれたい。イケメンになって村娘から村熟女まで全員孕ませるの。いや、俺の父親だって十分にイケメンで母だって美女だったし弟は美少女だった。あの二人の遺伝子を引き継いでこれなのだから容姿に関してはもうあきらめた方がいいのかもしれない。
「あなた……」
奥さんが甲斐甲斐しく夫の涙を拭いてる。
しかしこの男でかいな。奥さんの倍はあるぞ。これでは夜の営みは子供を大人が組み敷いているような絵面になるのではなかろうか。更に夜這いの風習があるとなれば……この男、重度のロリコンで人拐いだな? ハイエースが似合いそうな面も相まって幼児性愛者にしか見えなくなってきたな。
犬のお巡りさん呼ばなければ。行けベル。生死は問わない、おっさんを殺れ。
「ぐひっ……ひっく」
しばらく泣き続ける虎柄坊主の族長(ハイエース)。
ようやく落ち着いてきたらしく口を開き喋ろうとしている。
「すまん、娘が死にかけ、死に、死に――死にぃぃ! うわぁああ! 死なないでくれぇええ!」
「あなた落ち着いてネネネは無事だったのよ!」
死という単語が心を刺激したのかまた泣き出してしまった。
声が大きくてうるさいがちょっと面白いかもしれない。少なくとも驚かされ続けるよりはましだ。
「落ち着くまで待ちますよ」
「うぉぉおん!!」
なんだよその泣きかた。泣きすぎだろ。
実を言うと俺もお前が飛び出てきたときに息子が少し泣いてたんだ。ちょっぴりお漏(アリーシャ)らししてたんだ。だから泣き虫同士でお相子だな。
しばらく待つ。泣き止むのを待つ。派手なジャージの似合いそうなおっさんが泣いているのを無言で眺め続ける。この時間、人生で最も無駄な時間だといっても過言ではない。絶対に仲間にならないポイントではぐれメタルを狩り続けて出産前のビアンカのレベルがベギラゴンとメラゾーマを覚えるまで上がってしまったとき以来の無駄な時間である。
「す、す、すまんこ、んどこそ、落ちついた……」
すまんこ……素マンコだぁ?
散々人をまたしておいて下ネタ織り交ぜての謝罪かよ。なかなか洒落たことしてくれんじゃん。
「ごめんなさいね。うちの人、娘が自分の命より大切だから。それが死にかけただなんて言われて平静じゃいられなかったのよ。ね?」
「あ、ああ、す、すまんこ、とをした。なさ、けない、ところをみせ、て」
素マンコ、毛無い、見せて、ときたか。なんだその父親のPCの検索履歴にあったらイヤそうなワードは。初対面でここまで酷い下ネタをかまされたのは四百年間の記憶の中であなたが初めてだ。あと千年生きてもあなたみたいな人は現れないだろう。
最初はドッキリの連発をくらい怒りに震えていたが今は尊敬の念すら抱いている。俺もこんな大っぴらに生きてみたい。堂々と下ネタをかましても奥さんがフォローしてくれる、そんな人生を歩みたい。
もしも俺とあなたが死んだとして。二人が同時に生まれ変わる事があって、また出会う事が叶うならば。そのときは俺をあなたのハイエースの助手席に乗っけてくれないか。加藤君がオススメしていた彼の行きつけの良い幼稚園があるんだ。
「親の気持ちというのはわかりませんが……大切な人を喪う気持ちはわかるつもりです。僕が言うのも恩着せがましくておかしいのですが、そうならずに良かったですね」
「そう言ってくれるか……」
ネネネが危なかったのは俺らが罠を仕掛けたせいですから。
でも死を思いとどまらせたのは褒められてもいいと思う。
「はい、ですのでお気になさらず」
神妙な顔つきで俺を見つめている。見つめると言うよりは見定めようとしているのか。まさかバレているのか、俺たちが罠を仕掛けたことが原因でネネネが怪我をしたのだと。
「わしの名はシンシン。里の長を務めている。族長でも里長でもシンシンでも好きに呼ぶと言い」
「僕はユノと申します」
「ベルです」
「うむ、二人の話は聞いているぞ」
ならば話は早い。帰らせてください。お腹もすいてきたのだ。なんで空いたかわかるか。お前ら里の者総出で驚かすせいで無駄にカロリーを消費したんだよ。
「では……ということで、わしと手合わせ願おうか」
では――とは?
ということで――とは?
どこにつながって手合わせをする流れになるのだろう。
「折角の申し出ですが……」
「怖いか? 逃げるのか?」
「怖い……?」
「小柄な人の身ではわしを相手するのがこわくて仕方なかろ。無理をしなくてもいいぞ」
「はぁ……怖いか怖くないかで言ったら怖いですね」
娘を助けて連れてきたら里の者たちに散々煽られ。娘の親が鳴く姿を長時間特等席で見せつけられたかと思えばしまいにはコケにされているのだ、怒りに任せてうっかり殴り殺してしまいそうで怖い。
「そうだろそうだろ。さきほども畳から出てきただけで転げるほど驚いていた。体だけではなく肝もさぞ小さいと見える」
明らかな挑発ではあるが笑って流すほどの余裕はなくなっている。最初はまだ笑って許せたが塵も積もればなんとやら。イライラの限界だ。猫人の責任者をぶっ飛ばしってスッキリする機会をくれるなら願ってもない話だ。
「いいでしょう。その喧嘩、高値で買いますよ」
即座にベルに転売してやる。
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