第29話 いかつい男はだいたいウケ

「いつまで寝ているのだ。いい加減起きぬか」


 周囲に黒く濃い靄が撒かれる。いくらも待たずに靄は収束し、すらりとした男がそこに姿を現す。


 サイズの大きいサングラスをしているので目は確認できない。黒いボウリングシャツの袖から伸びる腕は筋肉が引き締まっている。竜の姿をあしらったベルトのバックルに黒革のパンツスタイル。

 これが細マッチョというやつか。前世だったら絶対お近付きになりたくないタイプの人であり、今現在も近づきたくはない。そばにいてほしくない人ランキングのトップはゴードンさんで続いてこの人が並んだ。

 しかしお色気ドラゴンに蹴り上げられたのかと思うと少々不憫だと思う反面、俺もケツを蹴られてみたいという痴的好奇心がムクムクと湧いてくる。


 今回妄想するシチュエーションはこうだ――――黴臭く暗い地下牢に両手を縄で縛られて転がされているエルナト。目隠しをされて口には猿轡がされており、下半身だけを脱がされた状態で股を開かれてエルフの森が丸見えだった。

 その上から覆うように、悔し涙を流しながら全裸で四つん這いにされている俺。エルナトに触れぬよう細心の注意を払うが、一時間も同じ体勢でいるため腕が振るえ、今にも倒れ込んでしまいそうになっている。何もそんな辛い思いをせずとも、少しの間エルナトをベッド代わりに休めばいいものをと思われるかもしれない。だが倒れられない理由が俺にはあった。なぜか愛棒がギンギンになってしまっているのである。肌のどの部分でもいい、少しでもエルナトの柔肌に生で触れあってしまえば性に狂った猿が如く、痙攣なのか腰振りなのかわからない滅茶苦茶な動きでエルナトを激しく犯してしまうだろうというのは火を見るよりも明らかであった。

 エルナトと同じように俺も猿轡をされているのでお互い意思の疎通は取れない。俺が倒れこめば見知らぬ誰かに襲われたのだと勘違いして、エルナトの処女膜からだだけではなく心まで傷つけてしまう。天井から吊るされた精霊おっぱいが振り子時計のように揺れていた。もはや「にゅう」とも「すん」ともいわずに目を回して気絶してしまっている。

 あとどれくらいこうしていればいいのか……。パッシブスキル鋼鉄どうていの自制心のおかげでなんとかエルナトを傷つけずにいられたが、切っ掛け一つ崩壊してしまう危うい状況である。

 顎から垂れる汗と猿轡から漏れるよだれがエルナトの体を汚す。その様が愛棒を刺激し、足場を探す芋虫のように体を伸ばしてエルナトの体を探している。

 不意に地下牢に響く足音。

 カツンカツン――とヒールを履いたアイツの足音だ。

「ほう、まだ犯していなかったか。我を前にして啖呵を切り威勢を張っただけはある。その忍耐力といかれた陰茎の大きさだけはほめてやろう。何か言いたいことはあるか?」

 俺たちを自らの巣に誘い、薬を盛って地下牢に閉じ込めた張本人、アロワナの登場である。

「フゴゴゴッ――(彼女だけは解放してやってくれ。僕はどうなってもいい……爪を剥がされても、歯を抜かれても、皮を剥がされても文句は言わない。だから彼女は、エルナトだけは――)」

 妄想の中では最高にかっこいい俺は自己犠牲の精神を三千倍にしてエルナトを守ろうとする。実際の俺ならば多分とっくに犯している。

「何を言っているかわからんな……」

 そう思うなら猿轡を外せ。普通外してから話しかけるもんだろ。

「まだ我に逆らう意志は萎えも萎みしていないようだな。我に従わずまだその女を守ろうとするとは見上げた度胸……実に惜しい、実に欲しいオスよ」

 ほしいならこんなまどろっこしいことをしないでベッドにつれってくれ。

「そのオス度の高い気概に免じて一度だけ助かる機会を与えてやろう。婿殿が我の蹴りを一度だけ耐えられたならその女も婿殿も助けてやる。だが耐えられなかったら、お前らは我の物(オモチャ)になってもらう――どうだ?」

 その提案に乗るしかなかった。俺には他の選択肢を選ぶ権利がないのだから。

「フゴゴフゴ……(わかった、耐えてやる。ただし約束は絶対に守ってくれ)」

「フフッ、ホント何言ってるかわからぬ」

 だから外せよ。

 心の中でツッコミを入れるとアロワナは含みのある笑みを浮かべた――俺はその時にアロワナの魂胆に気づくべきだった。そうすれば最悪の自体には至らなかったはずなのだ。

「フゴゴゴ……(大丈夫だよエルナト、僕はこう見えて尻の堅さには自信があるんだ。野球はやったことはないけどケツバットは何度もある)」

 背後でアロワナが脚を振り上げている気配を感じる。

 呼吸を止めて尻に力を入れる。

「ではいくぞ……耐えてみせよ!」

「……ッ」

 俺がどうなろうともエルナトだけは守るのだという固い決意をケツに回し堅く締める。

「そぉら!」

 勢いよく振りぬかれる美脚。だが思ったよりも威力はない。

 そしてその威力のなさがいけなかった。ほどよい刺激は快感となって俺を襲う。限界だった腕はあっさり力が抜けてエルナトに倒れこんでしまう。蹴られた尻がサッカーボールのように弾み腰は前へ前へと進んでいき、蹴られた拍子に愛棒から放たれるネオタイガーショット。フリーで打たれた先端がボールのような竿は、キーパー不在のエルナトの処女膜(ゴール)へ向かいそのまま得点が追加される――――


 命の恩人であるエルナトを題材にしてなんてひどい妄想をしているのだ。被害にあうのは俺だけでいいじゃないか。

 素足でお願いしますと懇願し「薄汚い性欲にとらわれた豚の分際で我にお願いをするなど、豚としての自覚が足りておらんようだな。そも言葉をあやつる豚などおらん。それ、豚語で弁明してみせよ」と、悪い微笑みをたたえながら罵られ焦らされる――とかそういおうのでよかった。


「カハっ……」


 妄想(そうこう)している間に黒い竜だったいかつめの男が目を覚ます。


「なっ……あ、あ、姉御!?」

「フンッ、随分と遅い起床だな」

「起床? お、俺は一体どうしてこんなところで……そうだ、空を飛んでいたら人型の姉御が突然急降下してきて、そのまま踵を背中に落とされて俺は気を失い……そうか、それでここで寝ていたのか!」


 ちょっと状況が飲み込めないし想像できませんね。なんで納得できてるんだろうこいつ。


「我を待たせるとは偉くなったものだな。中々にいい度胸をしているではないか」

「え? そっすか? あざす!! 度胸だけはガチでピカイチあるんすよ!」

「褒めてはおらん……」


 今のやり取りだけでこいつが空気の読めない馬鹿なのは理解できた。

 チラチラと俺を見てくるアロワナ。竜人族の恥部ばかをみられるのが気恥ずかしいのだろう。気にせずもっといろんなところを見せてくれてもいいんだよ。脱いでくれてもいいんだよ。


「ありがとうございます姉御。姉御の可愛がりのお陰で、本当の意味で目が覚めやした」


 こいつ今、蹴られた側の被害者なのに「ありがとう」と言わなかったか? 

 本当の意味で目覚めるというのもマゾ性感にでも目覚めでもしたか。蹴られて目覚めた拍子に性的嗜好も覚醒してしまったに違いない。似たような妄想をしたばかりなので気持ちはわからなくもないし応援してあげたい気持ちもある。しかしアロワナは恐らく生粋のマゾだ。あの容姿で真正のマゾだとは誰も思うまいが、俺には手ごたえがある。真実を知った時、彼はきっと落胆するだろうな。


「不肖このバンジャール以後は悔い改め心改め新たに改め姉御の舎弟として、世のため人のため姉御のため恥じぬ仁義を貫かせていただきやす」


 跪き一気に言い切る。

 凄まじい忠誠心である。豚としての自覚を感じる。

 やっぱりそうなんだ。アロワナの蹴りはイイものなんだ。蹴られる前からその蹴りのすばらしさに気づいていた俺の慧眼を誰かに褒めてほしい。


 それにしても何をやらかして可愛がりを受けたのだろう。エルナトはこの辺りで最近暴れている悪しき竜がいるとかなんとか言っていたような気がしたが、それと繋がりがあるのだろうか。だとしたらエルナトはこいつを俺に倒させて、なおかつ食べさせるつもりだったのか? サイコ過ぎない? いや、エルナトはこいつが竜人族だとは知らなかったのか。


「してそちらの人族の子とエルフは何者でしょうか。まさか姉御に盾突く不逞の輩ですかい? へっ、でしたら姉御が動くまでもねぇ、あっしが片づけてやりますぜ。おい」


 バンジャールがサングラス越しにこちらを睨んでいるのがわかる。人化すると髪色はドラゴンだったときの鱗の色になるようだ。艶やかな黒髪を後ろの高い位置でまとめ、サイドはツーブロックにしている。

 男のくせに色っぽい。高校にいたら絶対にモテるタイプだ。だいたいのクラスメイトとはそつなく話せるコミュニケーション能力を有し、なぜか別の中学校だった生徒とも顔見知りで他クラスにも顔がきく。先生ともフレンドリーに話して垣根をなくしていく話術を持ち。女子にも比較的受けがいいのに何故か彼女はできず、そのせいで腐った女子たちに無限の夢を与える系男子。さしずめオラオラ誘いウ系といったところか。こういうタイプが主人公に気持ちを気取られそうになって慌てふためくと腐女子の胸と股間は熱くなる。


「なぁにガン飛ばしてんだぁ!? アァッ!?」


 なんだやるのか。食料の分際で俺に喧嘩を売るとはいい度胸をしている。俺の方が先に豚になったのだからお前は二番手の弟弟子だ。豚同士にも格はあるのだ立場をわきまえろ。

 どうしても俺が気に食わないというならいいだろう。猫型ロボットに泣きつく眼鏡っ子がごとくアロワナに甘えてやっつけてもらってやる。その際にアロワナの四次元ポケットをまさぐるのも忘れない。


 おやおや、ここはシズカちゃんではないようだねー。そんなに吸い付いて、子供デキすぎくんになりたいのかな――


「痴れ者がッ!」


 アロワナの一喝にバンジャールが縮み上がり、同時に妄想をしていた俺も無理やり現実に引き戻されたのでちょっと跳ねてしまった。

 いきなり大きな声を出すのはやめてほしい。出すときは「出すぞ!」と言うのが礼儀だろう。まったく、次やったら中に出すからな。


「貴様、竜人としての矜持を忘れただけではなく我が婿にまで――」


 またあの蹴りが黒いドラゴンに放たれそうな雰囲気なのでここいらでとめておいてあげよう。人が暴力を振るわれるのを見るのは気持ちのいいものではない。だから蹴るなら俺にしてくれ。尻を蹴り上げてくれ。


「アロワナさん、ちょっと」


 肩に手を伸ばそうとしたが、身長差がありすぎるので少し無理があった。仕方ないので腰をポンポンと軽く叩いてアロワナの気をひくことに。

 腰の肉付きも実にいい感じだった。弛みと脂身はないのに確かな肉みを感じる俺好みのいいサーロインをしている。安産型の腰回りからして出産もすんなりすまして丈夫な子を産んでくれるだろう。うむ、是非とも手合せ願いたい。


「あっ! ふわぁッ……!」


 アロワナは色っぽい声を出し、へにゃりと軟体動物の様に崩れ落ちた。アロワナの目線は丁度俺の腰近くまで下がってきている。股間の軟体動物とアロワナの目があっているようだが、動物界では目があえば勝負開始である。お前の胸の軟体と俺の股間の軟体、どちらが先に固くなれるか勝負するか。


「むぅ、婿殿何をするのだ……。急に行為を求めてくるものだから腰が抜けてしまったではないか。全く、困った小覇王様だ。場所を選ばず我を快楽の虜にするのだから。わかっている、今からしようと言うのだろ。構わぬよ。うん、その、我は構わんのだが、でもできれば初めては二人っきりがいいな……なんて」


 潤んだ目で見上げる敏感ドラゴン。

 腰を叩いただけでそれって、そんな敏感でよく千年生きてこれたな。台風の日に外で雨に打たれただけでも快感で気絶してそう。滝で荒行なんてしたらイキ狂って死ぬんじゃないのか。


「大丈夫?」


 見かねたエルナトが肩をかして立ち上がらせる。エルナトが触れる分には問題ないらしく。「助かる……腰が抜けてしまった」と、触られただけで倒れるという平然とできない現象を起こしておいて平然としている。

 しかし俺にしか反応しない体だとでもいうのだろうか。だとしたら独占欲が自然と満たされていくな。演技をしている素振りも無いのが大変好ましい。


「すまんがしばらく肩をかしていてくれ……まったく婿殿のやんちゃにも困ったものだ。面前に他者の目があろうとおかまいなしに行為を迫るとはな。その大胆さにますます惚れてしまったじゃないか」


 なんでも好意的に取ってくれるのはありがたいが、正直マゾ過ぎて絡みにくい。体は百点だから肉体的には絡みたいと思う。

 アリーシャの真っ直ぐな愛情は性欲に根差したものではなかったので受け入れられたが、どうもアロワナからは強く色を感じる。童貞は押しに弱い。押されるとチキンハートのスキルが発動してヘタレの腰抜けになってしまうものなのだ。情けなさすぎてそうと言えるはずもないのでどうか察してくれ。


「む、婿殿!? ではこの方はアロワナ様の……。し、失礼しやした! あっしはチンケな浮浪人。生まれは魔族領は竜人域、命名の儀はバンジャール。通り名を放浪のバンジャールと発します」


 大層な自己紹介をしてもらったが、要約すると無職で浮浪癖のある男だ。本人が言う通り本当にチンケである。


「男バンジャール、無礼をはたらいたケジメはつける覚悟はできていやす! さぁさぁ遠慮なくぶっ刺して下せぇ!」


 刺すって何をだよ。手持ちに何もないのは見ればわかっているだろ。愛棒でもさせって言うのか。


「いえいえこちらこそ自己紹介が遅れってしまって申し訳ありません。僕が早めに済ませていれば事態をややこしくせずにすんだのに。僕はユノと申します。訳あってこの場所にいるのですが、その理由わけが分からなくて困っているところです。勘違いは誰にでもあるものですし、今回のところはお互い痛み分けということにして、今後ともよろしくお願いできないでしょうか」

「うぉぉ、さすが姉御の見込んだオス。なんて懐の深けぇ……鳥肌がたっちまったぜ」

「ふふぅん。だろう? 婿殿は懐だけではなく愛情も深いのだぞ。出会ったばかりの我に途轍もない求愛方法で愛を示してきたのだからな」


 股間を連打してびしょ濡れにするアレが求愛になる国で生まれ育ったのか。俺では一年も生きてはいけない修羅の国なのだろうな。


「途轍もない求愛? ああ、考えるのは苦手だからなんだかよくわからねぇが……兄貴だ、兄貴とよばせてくだせぇ。それと子分にそんなかたい言葉は不要っすわ!」


 わからないまま兄貴と呼ばないで。子分にもならないでほしい。


「貴様も婿殿の下につくことを選ぶか。その慧眼、天晴れなり」


 ぱれってんじゃねぇよ。下になんてつかなくていいからアロワナを下から突かせてくれ。


「婿殿婿殿、我にも畏まった言葉を選ぶことは望まぬぞ。我など呼び捨てにしてくれていいのだ。もっと冷たく……冷たくされて捨てられるだなんて……あぁッ……! この色情魔め!」


 色情魔はお前だよ。どんな角度から感じてるんだ。

 やっと一人で立てるようになったのに、放置プレイでも想像しているのかまた腰が震えさせてエルナトにしがみついてしまった。エルナトも困った顔はすれど頼られるのが嬉しいのか満更でもなさそうである。そういうことなら俺もエルナトに抱き着きたい。

 しかし何をしても好感度が上がるな。この調子で順調に好感度が上がり続ければ、悪戯でトイレのドアを開けたとしても逆に喜んで引き入れてくれそうだ。そういうシチェーションも悪くはないので将来のために心のメモ帳に刻んでおくとしよう。


「かしこまりました。今後はもう少し砕けた口調で話し、厳しい態度で接っするよう心がけようと思います」

「厳しくしてくれるのか! そうしてくれ。いっぱいしてくれ。我も拙いながら精一杯ご奉仕するぞ」


 淫乱マゾめ、押されると弱いのが童貞なのだからそろそろ勘弁してくれ。自分のペースが掴めないじゃないか。

 俺が余裕がないのをいいことに好き放題したことをいつか後悔させてやる。お前が抱こうとしている可愛い子猫(ニャンコ)ちゃんは、いずれ凶悪な人食い珍虎(チンコ)に育つのだ。まさに龍虎の戦い。夜の龍虎乱舞でパーフェクトKOする日が待ち遠しいな。


「さてバンジャールよ、解いたばかりで悪いのだが再度竜化してはもらえぬか。婿殿を我が巣まで連れて行きたいのだ」


  意外な一面を垣間見た。アロワナは居丈高で横柄な女王様気質かと思いきや、下の者に命令するのではなく仕事を頼んでいる。寝ているところを蹴り上げる圧倒的パワハラと、下の者にも気を遣う繊細さ。こういうのを飴と鞭というのか。やはり調教されるよりする側の方があっていると思う。


「合点承知」


 バンジャールが少し離れた場所で竜化していく。


 黒い靄に包まれてから変身する感じがボスっぽくて格好いい。

 俺も練習しようかな。アロワナみたいにまずは光り輝いて目を眩ませます。光りが収まり段々と目が慣れてくると、そこには全裸に変身した俺がいる。宴会の一発芸として練習しておいても損はないだろう。前世の友人たちのように気の合う仲間ができたなら、きっと笑ってくれる。


「ではバンジャールの背中に乗ろうか、婿殿。抱き上げてやりたいのだがいかんせん腰がな」


 エルナトに肩を抱かれたまま先に登っていくアロワナ。バンジャールは二人が登りやすいよう巧みに体を動かしている。バンジャールも実は良いやつなのだろう。見た目で人は判断しちゃいけない。

 続いて俺も地面に降ろされた翼から乗り込む。目指すは背中である。

 バンジャールの背中の乗り心地は案外良いものだった。もっと固くて不安定かと思っていたが、以外と柔らかい部分があったりして面白い。その柔らかい部分を少し撫でてみる。触り心地は如何なものかな。


「「くっ!? 兄貴ッ、ソコは、兄貴ぃッ!」」


 食い縛ったような声を上げるバンジャール。

 俺の腕には美味しそうな鳥肌が立ち、目つきが鋭くなっていくのを止められない。この気持ちは嫌悪……いや、憎悪だ。


「ハァハァ、兄貴ぃ、勘弁してくだせぇ」


 嬌声のような声で「兄貴」と呼ばれると、また違った味わいを出してしまっている。心底不愉快だ。二度と撫でまい、二度と触るまい。唾でも吐きかけてやりたい気分だが、それをすると一部始終を見ているアロワナが舐めにきそうで怖いから吐かずに飲み込むことにする。


「「姉御がほの字になるのもうなずけらぁよ……」」


 本当に気持ち悪いからやめてほしい。なんで男のお前が触られて頷くんだよ。


「フフ、そうだろう。婿殿の手と魔力から感じる性の波動は凄まじいのだ。腰を撫でられただけで我は身籠ったほどよ」

「え? やっぱそうなんだ? ユノとキスして孕んだ気がしたんだよ。既成事実ができちゃったし、契約は早めに済ませた方がいいかもね」

「そこまでですかい!? いつか俺もそんな男になりてーや……」


 性の波動とか身籠ったとかいい加減なこと言うな変態性欲竜。見てみろ、エルナトが信じてお腹さすっちゃってるぞ。


「ああ、婿殿の冷たい視線が我の子袋を熱くする。このままだと第二子まで孕んでしまいそうだ。急ぎ我が巣へと向かうのだバンジャール。一刻も早く我の部屋で犯されたい。とにかく急ぐのだ」

「合点承知」


 一子すら孕んでねぇよ。巣についたら話しするんじゃないのかよ。

 そんな茶番なんかよりも、俺は快適な空の旅を楽しめるのかどうかが不安だ。風圧とか空気圧の変化などはどうするつもりなのだろう。


「それではいざ、姉御の巣へ」




 あれ……このままショミの町に連れていってもらえばいいんじゃないの?

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