第28話 十秒間に十回など我にとっては序の口、下の口よ


 巨大な黒いドラゴンをさしてトカゲだと言い放つアロワナ嬢。

 黄金の竜であったアロワナに比べれば体長は半分ほどかもしれないが、眠っていても十分な威容を放つ黒竜をトカゲと軽んじてしまえる胆力など俺にはない。


 トカゲはこんなにでかくないし翼もないですよ――そんなつまらないツッコミはしない。今は好感を持ってくれているようだが、機嫌を損ねれば俺も折檻されるかもしれないのだ。言葉は慎重に選ぶべきだろう。

 美女スタイルでいるならまだしも竜の姿で本気の折檻など受けたら生きる目はない。どうせ殺されるなら絶対にその胸で挿んでもらってからにしよう。例え挿し違えてでもだ。


「随分と嫌っているみたいですが、あの黒い竜は何かしたのですか?」


 質問の内容が気に障ったのか睨まれてしまう。

 切れ長な目のエルナトとはまた違う鋭い目つきをしている。森に住むと目つきが悪くなるのだろうか。兵士として戦争に向かった人が、行く前と行ったあとでは別人のように顔つきが変わっているというが、それと同じなのかもしれない。森の中での生活は想像を絶する過酷なものなのだろう。生存競争では文字通り生存をかけなければならないのだ、当然と言えば当然か。


 それにしても美人に睨まれるのはたまらないな。危なく反射的にキスをしてしまうところだった。抱いたままならその柔らかそうな唇は俺の物になっているところだ。


「あやつはちと暴虐が過ぎた。無暗やたらに暴れすぎたのだ。竜人族としての矜持を失ったなら生きる価値もない」 


 竜人族という言葉が明言された。やはりそうなのか。


 「そういうものですか」


 プライドを持たないと殺されるとは物騒な話である。俺も童貞(プライド)を捨てたら殺されるのだろうか。人族だし関係ないよね。


「誇りを損ない生き恥をさらす者は見苦しい。ましてやそれが同族となれば尚更だ」

「同族ってことはアロワナはドラゴンなんだ?」


 静聴せよ美人同士の対話が始まるぞ。花見の様に酒を片手に眺めていたい気分だ。

 輝く金髪のアロワナ、薄く白に近い金髪のエルナト、甲乙つけがたい金色の乙女花が二輪も咲いている。俺がハチドリならばどちらの花びらを吸うべきか決めあぐね、迷っているうちに餓死してしまうだろう。だが俺はハチドリではなく人間だ。迷わず両方吸うに決まっている。蜜が出る限りは延々と吸い続けてやる。出なくなったら俺が出してやる。


「ひとと話すようなエルフはやはり物を知らぬな。我もあやつも竜人族だぞ」

「あー、やっぱりそうなんだ。ドラゴンが人になるわけないもんね」

「猿は人族にはなれはしない。猪はオークになれはしない。エルフも樹に戻りはしないだろ? それと同じだ。竜も我らにはなれはしない」

「ふんふん……なるほどなるほど。もしかしてなんだけど私けっこう失礼なことを言っちゃったかな。だとしたごめんね。悪気はなかったんだけど、竜人族とは仲良くなりたいし嫌わないでほしいな」

「エルナトに悪意がないのは理解している。その程度で腹を立てるほど狭量ではない。それにその在り方は嫌いではないぞ」

「嫌いじゃない? 私に懸想しちゃった?」

「そうかもな。我はエルナトに懸想をしてしまったかもしれん」

「ニヒヒ、それは光栄の至りだね。略してコウイだね」


 性を付け足して性行為だね! 美女同士でしてみてよ!


 華やかな美女による香り立つような精神的睦み合い。結構なお手前で。百合の園にまぬかれて至福の時間を堪能させていただきました。


「あの質問があるのですが、一ついいでしょうか」

「出産経験ならない。婿殿が初めてのオスだぞ」


 そんな話は聞いてねぇよ。でも聞く手間が省けたからありがとう。


「身持ちのかたさは保証しよう。経験がないからと侮るなかれ、案ずることなかれ。書物により知識だけは仕入れている。なにせ時間だけはあったからな。時代ごとに作法を更新しているので世継ぎ作りは立派につとめてみせよう」


 時代ごとの作法ときたか。千年も生きるとスケールが違いすぎる。


「そうではなく、あの人はどうして倒れてる……眠っているんじゃなくて倒れてるであってるんですよね」

「そっちか。竜人族の世評が下がれば我もまた野蛮で野卑な竜とみられるであろう? 寛容な我でも名を汚されることだけは我慢がならん。だから折檻をした」


 プライドが高いがゆえに名声などに拘るのか。悪い竜だと言われた際には落ち込んでいたので言葉責めをしたら楽しめそうである。プライドの高い高飛車美女を言葉責めで追い詰め、最後は股間のドラゴンキラーで優しく慰める――そういうプレイも悪くない。


「こちらも質問を返させてもらうがいいか?」

「出産経験ならありませんよ」

「出産させる予定ならできているだろ? はやくそのお大事様から胤を搾って我の胎を膨らませてくれ」


 腹を撫でさすりながキレのある返しをされた。

 勃起した勢いで下衣を突き破る――そんな心象風景が脳裏をよぎったわ。


「そ、それで質問とは」

「婿殿は何故こんな場所にいるのだ? 我を娶りにきたのは分かるが人族の身でよくここまでこれたものだな。まさか、それほどまでに我を欲していたというのか!?」


 何一つわかっていない。

 人型のままでいてくれるならできるけれど、竜化されたらどうやってセックスをすればいいのか。俺も瞳孔と愛棒ぐらいなら巨大化させられるが、竜ほどに大きくなれといわれたら困ってしまう。ダーマ神殿で魔法使いに転職しドラゴラムを使えるようになれば或いはといったところか。そうなればスペルマダンテでアロワナの胎を膨らませてやろう。


「気付いたらこの森にいたみたいなんです。元々はもっと遠くに住んでいたので」

「ははぁ……七日ほど前だったか、途轍もない魔力の奔流を肌に感じたのだが、あれは婿殿が原因だったわけか」

「それが僕のまりょくかはわかりませんが、こちらで目が覚めた時には魔力もなくなっていて瀕死だったそうです。そうだよね、エルナト」

「うん。本当に空っぽで枯れた草木ほどの魔力も感じさせないから、この子が鳴くまで倒れていることにも気づかなかったもん」

「にゅう!」


 重ね重ねありがとう精霊おっぱい。お前がいなければこうやって四つのおっぱいに取り囲まれることもなかったわけだ。この恩はいつか必ずお前の体に返してやるからな。


「その時の状況を細かく説明できるか。我なら婿殿の疑問にも答えを出せるかもしれん」

「本当ですか。では頼りにさせていただきます……とその前に、僕は婿入りするつもりはありませんからね」


 ショミへ帰らなければいけないんだ。アリーシャと家族に無事を知らせなければいけない。だから見知らぬ土地に永住するつもりはない。しかし嫁に来るなら迎え入れてやろう。迎えて挿入れてやろう。


「なんと、あそこまでメスの体を弄んでおいて知らぬ顔とは……まったく恐れ入る。恐ろしいほどのオスっぷり。フフ、婿殿はまっこと理想的なオスよな。果実をやるから話をしようなどと持ちかけておいて、我が居住まいを正した隙に押し倒し、待てと言うのも聞いてはくれず……拒もうにも拒めぬ快感を浴びせかけ、ひたすらに我を快楽の渦へと陥れた。我をあそこまで一方的に圧倒できた者は千年の世を生きて婿殿ただ一人。メスをまるで物の様に扱って……あぁっ、思い出しただけでも子袋が熱くなる。下腹部の切なさをどうしずめてくれるつもりなのだ?」


 物みたいにと言うが、実際に打楽器だと思っていたので強い否定ができない。

 良い音を出す最高の打楽器でしたとでもほめておけばいいか?


「その件につきましては返す言葉もなく、ただただ謝罪を繰り返し謝意を表明するほかありません」

「メスを自分の物にしたオスがなにゆえ謝っ…………もしかして我がへんだったか……? なにかへんなことしちゃった……?」

「い、いえ、とても興奮――綺麗だった思います」


 急にしおらしくなるのやめろ。かわいそうで妙なフォローを入れてしまっただろ。


「そ、そうか!? 婿殿の技巧に酔いしれてしまって体裁など保てなくて不安だったのだ」

「ユノってそんなに凄いんだ?」

「すごいなんてものではないぞエルナト。婿殿を一言で表すなら十だ」

「じゅー?」

「ああ、我が十秒間に気をやった回数が十なのだ」


 じゃあそれはお前を言い表わす言葉だな。敏感すぎだろ。


「ムムっ……まだよくわからないけど、それはすごいことなんだね?」


 エルナト、君にはまだこの話は早い。童貞の俺が言うのもなんだが君には綺麗なままで、綺麗なママになってほしいんだ。処女のまま、処女のママになってくれ。


「難しい話はおいておくとして、それよりも僕が今ここにいる理由が説明できるって本当なのですか。そうならば是非お願いしたいんですが」


 子供だから気をやったとかはわかりません――そういう体でいくことにした。

 子供の体というのも案外便利なものだ。特に印象を操作しやすいのがいい。俺がコナン君だったら行動のえぐさから規制がかかり中年サンデーへ移行させられていただろう。


「よいぞ。婿殿が我を娶ってくれるならば幾らでも話してやろう」


 こっちは六歳の子供だぞ。千年行き遅れるとこうも必死になるのか。いや、俺も四百年分の記憶蓄積がありながら六歳のアリーシャに執心しているのでやっていることはかわらない。積極的かどうかの違いしかなく、アロワナと俺は似た者同士なのかもしれない。


「教えてくれたら考えさせていただきます。あくまで考えるだけですからね」

「メスを釣り上げておいてつれない婿殿が愛しい。さあ、ならば早く話してくれ。我は一秒でも早く婿殿の物になりたいのだ!」


 高すぎるプライドが逆転してしまったか、気持ちよさそうに震えて高らかに「物」宣言をした。期待されると引っ込んでしまうのが陰の童貞である。段々怖くなってきた。


「立ち話もなんですし、一旦腰を据えられる場所に移動するというのはどうでしょう」


 エルナトの家までは二時間かかるので、適当な倒木にでも腰かけて離そう。倒木ごときに美女の尻が接地するなどもったいないので俺が椅子や敷物のかわりになってもかまいません。どうぞ、この顔を椅子だと思って座ってください。当椅子は厠機能や舌によるマッサージ機能も搭載している最新式でございます。精密機器ですので地肌による接触をお願いしております。


「そう言って話にのろうとすれば、押し倒して滅茶苦茶に犯す気なのだろ? 体の火照りがまだ冷まぬうちに、あの無限に続くような快楽を与えられては自我を保てなくなってしまうぞ……? いや、婿殿が求めるならば無論かまわぬ。喜んですべてをさらけ出そう。狂った姿を見せるのもやぶさかではないのだが……だが、何分こういった行為は初めてなものでな? その、まだ怖いのだ……。だからできれば優しくしてほしいなと」


 本気で期待しているのかアロワナの目が潤んでいる。

 期待に応えて現地妻にしてやりたいところだが、そういうわけにもいかない。


「しませんよ」

「優しくはしてくれんのか……」

「そうじゃないです。あの聞いてください」

「くっ、想像しただけでクるっ。そういう乱暴なところが婿殿魅力でもあるから!」

「へんなことはしませんといっているんです」


 本来ならば、お言葉に甘えて滅茶苦茶にしてやるところだが、今はそうしてる時間も惜しい。帰るための直接的な方法が無くとも自分がどうしてここに来てしまったかが分かれば、案外簡単に帰れる算段もつくかもしれない。少なくとも漠然と方角だけを頼りに進むよりは良い結果を招くだろう。


「じゃあ私の家にいく?」


 ちょっと遠いがエルナトの家で話すのが最適か。またあの板でできた階段を昇るのは嫌だが、我儘は言ってられない。


「いや、ここは我が巣に招待しよう。事情があってあまりここいらに長居はできんのでな。その前にちょっとついてきてほしい」


 自分が魔術で押された勢いでつくられた地面のくぼみを愛おしそうに眺めながら黒いドラゴンの方へと向かう。先ほどのセッションを思い出したのか、震えたり跳ねたりしては振り向き何かを訴えかけるような視線を送ってくる。


 アロワナが前を歩くと、ラインが強調される服のせいで尻から目が離せなくなる。

 なんて肉感的な尻なのだろう。女性の体の部位ではおっぱいが一番好きだった。だがたった今、尻が一番好きな部位に更新された。俺は尻一神教に改宗するぞ。


「にゅう……?」


 いや、お前の話じゃない。

 いつかちゃんとした名前つけてやるからまだ待っていろ。


 尻(アロワナ)を追っていると、急に尻(アロワナ)が止まる。

 黒いドラゴンの前で止まったシリワナは右脚を少し後ろに下げ、勢いよく黒いドラゴンの脇腹を蹴りあげた。


 躍動感のあるお尻が拝めたので大満足である。

 尻って動くんだ、尻って生きてるんだ。

 マキシ丈のワンピースのスカート部分にはスリットが深く入っていたようで、綺麗なおみ足が天へと向くことに一切の抵抗をしない。


 自由にスリットの有り無しを調整しているようにも見えたので、もしかしたら魔力でなんらかの細工をしている服なのかもしれない。俺も自在に愛棒を出し入れできる新しい服がほしい――そんなことをぼんやり思った。


「「がっふぅぅ……!?」」


 息を全て吐き出すようなうめき声とともに、黒いドラゴンの巨体が宙に浮きあがる。如何にも重そうな翼と、みただけでわかる重量のあるボディ。それを肉感はあるものの細い部類の美脚で蹴り上げ、落下してくる巨体を高々とあげた美脚で受け止めて地面に叩きつける。


 あの肉感のある細足のどこにそんな力が秘められているのか気になった。どういう理屈なのか触って分析させてほしい。味を確かめさせてほしい。軽く俺も蹴ってみてほしい。


「こうまでしてやってまだ起きぬかッ」




 いや、今の一撃で死んだんじゃないか。

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