第19話 ほめ殺し、ハメ殺し、舐め回し

 子供が欲しいなら俺に任せろ。精通するまでは俺が子供役をやっておっぱいを吸いつくしてやる。

 旦那が欲しいなら俺に任せろ。精通した瞬間に子供をこさえてやる。幸せな家庭を築こう。


「この子も紹介しておくね。特に名前は無いんだけど、精霊の一種だよ。いつから一緒にいたかは覚えてないけど、ずっと一緒に暮らしてるんだ」

「にゅう」


 名前はおっぱいでいいだろ。見た目は違うけれど、触り心地と揉み心地と肌触り心地がそうだとしか思えないもの。


「お前、魔物ではなく精霊だったのか。なんだー先に言ってくれよー」

「にゅううう! にゅ!」

「えー? あぁ、そうかそうか。確かにそうだったな。それは僕が悪かったよ。ごめんごめん」

「にゅうにゅうにゅう」

「だっはっは。言うじゃないかこいつー」

「にゅー」

「本当に言葉がわからないの? その子がそんなに楽しそうにおしゃべりしてるの初めて見たよ……」


 何もわからないがノリで会話風の寸劇をしているだけです。家族に邪険にされ始めてきた世のお父さん方が心のよりどころを探して愛犬と話しているのと同じやつだ。

 かくいう俺も動物と話すことにまったくためらいがなく、赤ちゃん言葉で喋べってしまうタイプだ。前世で蔵王のキツネ村に訪問した際ははしゃぎすぎて、帰るころに赤ちゃん言葉が抜けなくなってしまい戻すのに苦労したものだ。


「精霊と魔物ってなにが違うんだろう」

「魔物と違って精霊はとても賢くてね、邪な者の前には姿を現さず心清き者にしか懐かないと言われているんだよ」

「じゃあエルナトは心が清らかなんだね」

「え? ああそうか、考えたこともなかったけど一緒にいるんだからそういうことなのかな。でも私よりユノといるほうが楽しそうなのはちょっと妬けるね」


 おっぱいを愛し、おっぱいに愛される男――というわけか。悪くないな。


「森で倒れてたユノを見つけたのもこの子なんだよ」


 お前も俺の命の恩人だったのか。気が向いたら立派な名前を付けてやるからな。


「にゅ!」


 しかし俺の心が清らかかと問われるとむず痒いし首を捻ってしまうな。四百年分の穢れが蓄積していて、むしろ邪悪な部類だと思うのだが。まぁ懐いてくれているなら邪険にはせず可愛がってやるとしよう。


「改めてよろしくね」

「にゅううううううううう」


 にゅうか。感触がおっぱいで鳴き声が乳なら、もうおっぱいしかないだろ。人前で口に出して呼ぶのは憚れるので、しばらくは便宜上おっぱいと心の中で呼んでおくよ。


「精霊が人に懐くなんて珍しいんだよ。この子が反応しなかったら私だって助けたかはわからないもん。見捨てはしなかったけど、自分の家には絶対に招き入れなかったろうね。あ、でも魔力の匂いが好みだったからってのも理由としては強いんだよねー」


 魔力の匂いなんてあるのか。

 アリーシャや母さんにもいい匂いがすると言われてきたが、やはりそれも俺の魔力だったわけか。


「そういえばエルフは人前にあまり姿を現さないって聞いたけど」

「普通のエルフはそうだろうね。私はちょっと特殊みたいだからさ」


 特殊な性癖をおもちということか?

 どんな性的嗜好なのだろう。これほどの美人ならだいたい許せるとは思うが、念のため確認しておきたい。睾丸を蹴り飛ばすことが至福の悦びであるとか、そういうのならお付き合いは考えさせてほしい。愛棒を踏むぐらいなら余裕で許容範囲だ。


「助けてくれた上にこんな美人エルフに会わせてくれたのか。おっ……お前には感謝しないといけないな」


 おっぱいと言いかけてしまった。最近口が緩い。少し引締めよう。男の口と下半身はかたいに限る。


 この調子ではいつか妄想の内容まで口走ってしまうかもしれない。うっかりエルナトに「エルフと人族の体の違いが知りたいから服を脱いで尻を拡げろ」などと言ってみろ。軽蔑されるだけならプレイとして許容できるが、今この家から追い出されたら途方に暮れてしまう。いやでも、いきなり口移しで薬を飲ませるような痴女(ひと)なのだ、もしかしたら「見たいの? いいよ」とか言って見せてくれる……わけがないな。やはり口と肛門はしっかりしめよう。


「美人? 今美人って言ったの?」


 顔をずいっと寄せるエルナト。美しい顔が突然近づいてきたからびっくりして舐めそうになった。美しいものを汚す気持ちなど一生わからないと思っていたが、今なら理解できる気がする。


「それって人族のオスがメスと性交渉したいときに使う言葉だよね!?」


 オスとかメスとか言うな生々しい。性交渉をしたいときにしか言わないみたいな勘違いもやめていただきたい。それではまるで性交渉がしたくないときがあるみたいじゃないか。この美エルフには正しい教育と間違った性教育を仕込む必要がありそうだな。実技テストで百点が取れるまで徹夜で仕込んでやるとしよう。


「気に入った子に使うことはあるだろうけど、必ずしも性交渉がしたいから使うというわけじゃないよ。それに人の性別をオスメスで言うのはやめてほしい。生々しくてどうも気になっちゃう」


 そういう表現の方が燃えることもあるのは否定しない。


「うーん、じゃあオスメス以外で適した言葉。人族が一般的に使う言い方を教えてよ」


 肉棒と肉穴。


「男と女、男性と女性、凸と凹。個人的には男性と女性がいいとおもうけど、男と女と呼んだ方が砕けていて言いやすいと思う。エルフは男女間でもオスメスって呼び合うのかい?」

「言わないよ? 性別関係ないもん。そういえば村に住んでた頃は意識したこともなかったや」


 性別は関係ない? 薔薇と百合が咲き乱れる天国と地獄が混在する混沌村かな?


「ごめん、どういう意味か教えてくれる? 性別が関係ないって、人族の常識で考えると上手く理解できないんだ」

「エルフは基本的に性交渉をしないからだよ。寿命という概念自体がないから繁殖する必要がないし、観測者っていう役割があるだけでそれ以上でもそれ以下でもないんだ」

「もう少し掘り下げて、猿でもわかるように優しく噛み砕いて詳しくお願い。つまり死なないってこと?」


 あえて自分を卑下して猿でもわかるようにと言ったのは、ある種の布石、伏線である。俺は猿並の性欲を持て余していて、猿のように扱われても興奮できる――言外にそう含めたのだがまさかばれることもあるまい。仮にばれるとしても、それはエルナトとの夜の個人授業がはじまってからのことだ。


「ううん、勿論死ぬよ。魔物に襲われたり、うっかり死んだり。でもエルフ族は世界の意志から生まれた観測者だから自分達で繁殖する必要はない。必要ならば自然と生み出されるから。性別があるのは私みたいな変わり者がいるから、その保険なのかな? そのあたりはまだ研究中と言うか勉強中かな。あてもないけど」


 うっかり死ぬんだ。バナナの皮で滑ったりして死ぬのかな。


「あと性行為自体はできるし子供も作れるよー。それは前例があるから大丈夫」


 一番知りたかった部分が明かされた。俺のバナナでうっかり子作りしてみるかい。


「世界の意志から生まれるって。急に土から出てくるとか?」

「ニヒヒ、そんな訳ないよー。大きな樹の根元から生まれるんだよ」


 土から生まれるのも樹から生まれるのも俺からしたらそう大差はないんだが。

 しかしなんだその百点満点の花丸笑顔は。この世界に携帯電話があったなら迷わず待ち受けにしていたであろう美しすぎるスマイル。誰から着信があっても君のその笑顔が出るように設定したい。四六時中ムラムラしてしまいそう。


「ユノって面白いね」


 エルナトからしたら意外な答えだったのだろう。まだ笑い続けている。笑顔のバーゲンセールだな。


「じゃあ世界の観測者ってのは何?」

「そのままだね。世界がどう動いてるか観ているの。間違った方向に進まないか観測しているんだよ。今はもう観測者じゃなくなっちゃったけど、私がなにをしていたとかは思い出せないんだよねー」

「仮に間違った方向に進んだらどうなるの? 文明が滅ぼされるとか……?」

「また別の役割を持った種族が生まれて修正するんじゃないかな。たぶんそんな気がする」


 なるほど、何一つわからん。わかったことはエルナトが美しいということだけだ。美しすぎて話が頭に入ってこないけど声は聞いていたいから適当な返事になってしまう。


「なんでエルナトは観測者から外れたのか、差支えなければ教えてほしい」

「差し支えないからいいよ。本来私たちには確たる意志も意識もなかったんだ。だけど人と触れあってしまったエルフは自我みたいなものが芽生えちゃうのね。それはエルフにとっては禁忌なのね。そうすると世界を観測する能力は消えて、私みたいに村から追い出されて一人で生きていかなきゃいけなくなっちゃうんだ」


 ちょっと理解したかもしれない。つまりエルナトが美しいってことだろ?


「要は自我を持つと公正な判断ができなくなるからってことなのかな」

「たぶんそうなんじゃないかな? そう言われたわけでもなく、そう生きてきただけだから。自分の役割を失わないために、エルフは人前には姿を現さないんだ」

「じゃあエルナトは誰か人と出会ったってことなの? ま、まさか僕のせいだったりする?」


 だとしたら責任を取ろう。俺のせいで村を追い出されたのなら、俺の精で村が作れるほど子供を作ってやる。


「私はずっと前に人族のメ……じゃなくて、女性と知り合ったんだ。結構昔だから生きてはいないと思うけど、今も生きてるなら会いたいねー」


 言い淀んだのはメスと言いそうになったからか。

 エルナトは意外と従順な性格なのかもしれない。美人なのに気取らず彼氏に尽くすタイプか。そういうの、グッとくるな。愛棒が引き締まる思いだ。


「僕が言うのもおかしいけど、こんなところに人族がこれるものなのかな」

「いやいや、自分から行ったんだよ……あれそうだったっけかな? どっちだったっけ? まぁとにかく観測者の能力はすごいんだ。行きたい場所にも一瞬でいけるんだもん。私はもうできないけどねー」

「それは本当にすごいな……」


 この世界の仕組みは理解していたつもりになっていたけれど、実際は何にもわかっていなかったようだ。


 世界の仕組みなど俺には関係ないのでわりとどうでもよくて、それよりも女体の神秘と子作りの仕組みの方が気になっている。次の質問は「僕と君の間に赤ちゃんが欲しいと思ったらどうすればいいのかな?」でいこう。


「話は戻るんだけどさ、さっき私のことを美人て言ったでしょ? あれって本当?」


 エルナトが落ち着きなく手を動かし、チラチラと期待するような視線を送ってくる。

 まさかとは思うが、百人が見れば百人が美人だと言う美しさなのに俺のような凡顔の子供に照れているのか? 人と接する機会がなかったせいで褒められ慣れてないのかもしれない。


 そういうことならば少し調子に乗って褒め殺してみようか。照れる美人というのはめったに見れるものじゃない。今この時を逃しては一生見れないかもしれないのだ。徹底的に褒め倒し一生の思い出をこさえよう。この思い出だけで思春期のオカズは乗り切るつもりで。


「本当だよ。初めてエルナトの顔を見たときなんて、美しすぎて呼吸をするのも忘れて見入ってしまったほどさ」


 これは本当だ。下手したら死んでいた。思わず人工呼吸を求めそうになるぐらい美しかった。


「エルナトがいるだけで匂いたつような美しさによって空間そのものが華やかになる。周囲に影響を及ぼす美しさという点では花や樹々と同じだね。エルナトは存在するだけで絶景を生み出してしまうんだ。鬱積していた苦悩を一瞬で霧散させてしまう緑の瞳はまるでエメラルドグリーンの湖のよう」


 蔵王山頂の御釜のように雄大で北海道は神の子池のように神秘的だ。


「目の離せなくなる長いまつ毛。どの角度から見ても完璧な美しさを維持する鼻。人に視覚的快感を生じさせる官能的な唇。ああ、幸福感を増幅させる朱の差した頬と、その横顔は手の届かぬ月のよう。いっそその横顔を月に彫ってしまえば全人類が夜を待ち望み争いごとなど世界から消えてなくなってしまうだろう」


 手のひらで顔をパタパタと扇いで横顔すら見せてくれなくなった。天井を見上げて目も合わせてくれないが、顎のラインにそって流れる汗すらも美しく性的だ。その汗を一滴一滴瓶に集めてドモホルンリンクルにしたい。


「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花――この言葉はもう古い。これからは立てばエルナト、座ればエルナト、歩く姿はエルナト仕草と言い換えるべきだ」

「そ、そんなの流石に、い、いいすぎじゃないかな……?」

「言いすぎなものか。言い足りないぐらいだ。エルナトを称えきれない己の語彙力の少なさは慙愧に堪えないが、言語だけでは表現しきれぬエルナトの美しさも悪い。誰がこれほどの美を想定した言葉なんて作れるんだ。言語学の学者様が一億に集まって百億年研究してもエルナトを完璧に表現しきれる言葉なんて生み出せやしない。つまり星の寿命を超越するほど君は美しいんだ。こうなると敬愛の念を超えて崇敬、いや畏敬……違うな、駄目だ、やっぱり僕じゃあ表現しきれないよ」

「ふ、ふぃー……あのそろそろ……なんか変な気持ちになってきたなーって」


 だんだん楽しくなってきった。

 人を褒めるのってこんなにも楽しいのか。相手は気分がよくて俺は前向きな言葉を言えて脳が気持ちいい。エルナトは嬉しくて、俺は照れてシコいエルナトがみれて嬉しい。最高かよ。


「顔の話はこれ以上すると年を跨ぐのでやめておこう。しかし……なんだいその体は」


 びくっとしたエルナトが徐々に脇をしめて身を縮める。


「へ、変だったかな? ユノとくらべて耳も長いし背も高い……やっぱ体も奇妙なものに映っちゃうんだ?」

「逆だッ!!」

「うぇ!?」


 叫ぶのも気持ちいいな。叫ばせるのも気持ちいい。いつか盛大に喘がせたいものだ。


「歩けば美観を増させる肢体。エルナトが街を歩けば整備されていない貧民街や棄民街ですら超未来の都会だと錯覚してしまうだろう。山を歩けば咲ごろの花も己を恥じて蕾を閉じてしまうだろう。そうか、わかってきたぞ……自然すら圧倒する自然的な美がエルナトの本質なんだな?」


 何の本質ももわかっていない。何を言っているか自分でもわからなくなってきて収集がつかなくなっている。

 これ以上は矛盾が生じて辻褄が合わなくなりそうなのでやめておこう。褒めるのはいいが、やりすぎると嘘だと思われてしまうかもしれない。これからはもう少し小出しにしていこう。


「さぁ、エルナト、その美しい顔を僕にみせてくれないか。体の不調も君の顔を見れば吹っ飛ぶと思うんだ。でもいきなりは振り向かないでくれよ? 美しすぎて息が止まってしまうからね」


 言われた通りゆっくりと振り向くエルナト。うつむき加減の上目遣い。瞳はうるんでおり、耳の先まで真っ赤にしている。様子が明らかにおかしい。


「これってさ、番(つがい)になる感じだよね……?」

「は?」

「あっ、うん、言葉が足りなかったよね。ユノは一杯言葉をつくしてくれたんだから私もそうするべきなんだろうけど……嬉しいやら恥ずかしいやらで。あの……不束者ですがよろしくお願いします」


 



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