第14話 お前が女にならないつもりなら俺の全精力をかけて女にしてやるまでよ

「ユノ、男はな……魔術を使えないんだ」


 衝撃の事実を明かされた。

 アリーシャのお漏らし告白にも匹敵する衝撃に、危うく俺もおアリーシャらししてしまうところだった。俺がお漏らしするとしたら、それはアリーシャの前でと決めている。こんなところで無駄撃ちしてたまるか。


「そんな、では何かの間違いだったのでしょうか? とても幻覚や錯覚だったとは思えない確かな実感があったんだけど……」


 俺が見たあの火柱や体から何かが抜けていく感覚。あれが魔力でないならなんだというのか。 男が一発抜いた後に「あれ? 俺抜いたっけ?」とはなるまい。それと同じぐらいの確実に抜けた感触があったのだ。


「ユノが嘘を言ってないならば、勘違いであってほしいと願うばかりだ……ああ、神よ」


 何だ、まだ重い空気が続くのか。

 重いのは女の子の愛だけでいい。


「魔術はな、基本、女にしか使えないものとされている」


 では俺についているこの愛くるしい相棒、略して愛棒はなんなのですか。才能の片鱗をうかがわせる、子供らしからぬいかがわしいフォルムの愛棒は飾りだとでも言うのですか。


「女しか使えないんだが、極まれに例外もある」


 なんだ例外があるんじゃないか。例外とかワクワクさせるな。しかも極めてまれな話だそうな。俺が人類にとっての例外かもしれないなら、自分が普通とは違う特別な存在な気がして嬉しくなる。


「それは大よそで三十年以上女性との性交渉……性交渉はわかるか?」

「はい、何となくですが」


 嘘です。これでもっかてほど詳しいです。筆記ならば100点満点で1000点取れる自信があります。実技はまだ未経験なので追試は確定ですが、喜んで受講しましょう。


「女と違い男は魔力が体内にたまりにくい性質をしている。特に性交渉は魔力を放出しやいんだ。しかし性交渉をしないことで体内の魔力を少しずつためて、徐々に魔術回路を形成することができる。だから一般的に魔術師の男と言うのは、性交渉自体を禁忌としている神官や、魔族などを代表とする長命種ぐらいしかいないのだ」


 俺の低スペックな頭では情報の整理に手間取ってしまう。とりあえず頷いておこう。


「だが稀に、男だというのに生まれてすぐに魔術を使える人族がいる。歴史に名を残した偉人や、大魔術師というのは殆どがそういうものだ――」


 ならば俺も歴史に名をのこすような男になろうじゃないか。そして母さんに転がされて悦ばされてばかりの父さんを喜ばそう。性交ばかりの親に孝行だ。


「――ものなのだが……、だがなユノ」


 どうにも歯切れが悪い。

 家族で隠し事はよくない。子供に隠すのは夫婦間での性交渉だけにしてください。週に七回以上はさすがに多いです。せめてバレないように、こっそりと妹ちゃんを仕込むなりしてサプライズしてほしい。二人で出かけてもホッカホカに火照って腕に絡みつく母さんと、やつれて案山子のように生気のない父さんを見ると何があったのか察します。何をしてきたのか。何をされたのか。何が起きたのか。


「そういった歴史に名をのこすような魔術師というのはな……その、みな短命だったんだよ」


 ――そうきましたか。


 また俺はすぐに死ぬ運命なのか?


「詳しい事などエルフや賢者様ぐらいにしかわかるまいが、そもそも人との接触を極端に避けるのがエルフという種族だ。見た者、話した者はほとんどいないので本当に知っているかも怪しい」


 エルフはレアなんだな。

 もし会えたらサインを貰おう。

 愛棒に「私専用」と書いてもらいたい。


「つまり僕は、他の人よりも死ぬ時期が早いかもしれないというわけですね」

「そういうことになる……すまない」


 何も悪くないのなぜ父さんが謝るのか。どうしてそんなつらそうな顔をするのか。


「いつ死ぬかはわかりますか?」

「……大体の魔術師は極大な魔術を使い、自身の魔術回路を焼き切り、溢れる魔力を制御できずに死んでしまうそうだ。未成熟な体には未熟な魔術回路しか備わっていないので強い負荷に耐えられないんだ。強大な力があるがゆえに、その身を滅ぼしてしまう」


 溺愛している息子が死ぬかもしれないのか。そりゃあ母さんも気絶する。


 ルイスは気絶まではしないまでも涙目になっている。

 話の腰を折らないように我慢してるのかもしれない。

 本当に出来た子だ。この子がいるなら長兄などいなくなっても我が家は安泰だな。


 でも極大な魔術とはなんだろう。魔術の知識がないので程度の差がわからない。

 俺の放ったかもしれない火柱はかなりの極大魔術感があったけれど、もしかしてもう冥途に向けてのリーチがかかっているのでは?


「なんの因果か魔力の多い子供たちに限って、強い正義感や信念を持って生まれてくるそうだ。だからこそ国のため、人のために自分を犠牲にして極大魔術を使い命を散らしてしまう。神の悪戯か、悪魔の祝福なのか……俺にはわからん」


 さっき何でもない、ただのお試しで凄そうな魔術を放っちゃったけど、寿命縮めてたのかあれ。考えなしに行動するものじゃないな。これからは気を付けよう。これからがあるならば。


 それにしても先ほどから外が騒がしい。

 今の俺の気分は色で行ったら灰色、好きな下着は白だというのに。静かにしてくれ。


 普段は人など滅多に通らない町の離れだというのに徐々に増していく喧騒。

 外の異常な空気感に、さすがにおかしいと思った父さんが椅子から立ち上がり玄関から外の様子を確認する。


「リデルさんッ! 森から大量の魔物がこちらに向かってきてるんだ!」


 外に出たところでいきなり横から声をかけられた父が、ぴょこんと跳ねていた。

 可愛いところあるな甘えん坊。これぐらい臆病じゃなきゃ冒険者なんて職業は務まらないのかもしれない。


「分かった、すぐに町へ向かう。騎士団の駐屯地でいいか? ああ、わかった。では隣のゴードンにも俺から声を掛けておこう。君は先に戻っていてくれ。ああ、うん、妻にも俺から言っておく」


 跳ねた事を悟らせない堂々と落ち着いた振る舞い。

 子は父の背中を見て育ちます。俺も父さんの様になります。驚いたことを悟らせない立派な男子になります。


「ユノ、ルイス、聞こえていたか。話していた通りだ。ゴードンに伝えてアリーシャちゃんもこの家に隠れてもらうように言っておく」


 ゴードンとはアリーシャの父親で、如何にも『ゴードン』という顔をしているゴードンという生物である。あれがゴードンじゃなかったら誰がゴードンなのかわからない、そういうゴードンであり、世界に一つだけの種である。


 大戦斧を使うゴリゴリのファイター。一度大斧を使った試し切りを見せてもらった事があるが、ただの力任せのゴリラという訳でもなかった。

 ゴードンさんは重い戦斧を使うには重心の取り方と戦斧の重さを利用する繊細な技術が必要だと賢しらにもっともらしく語る生意気なゴリラで、文明の利器を巧みに使いこなすテクニシャンなゴリラである。


 なにより、その存在はアリーシャ攻略において避けては通れないイベントボスであるというのがネックだ。いざという時は、やられる前に魔術でやってしまおう。


「今は離れたくないんだがな……すまないユノ」

「私も行くわ」


 母がいつの間にか復活している。

 横から急に声を掛けられたことでテーブルに戻ってきた父さんがまた跳ねていた。

 俺、この父親大好きだわ。


「起きていたのか」

「ユノと一秒でも離れたくないの。魔物が出たのなら秒もかけずに終わらてやりましょう」


 母さんの目の色が変わっている。


「焦るな。それでお前が死んだら元も子もないだろうに」

「わかってるわよ。理解もしているけど……でも」


 そっと母を抱きしめる父さん。


「でもあなた……ユノは」


 なんでうるんだ瞳になっているんだ。さっきまでの闘志に燃えた瞳が一瞬で鎮火していやがる。

 おい、まさか……おっぱじめるのか。


「落ち着こう。俺も同じ気持ちだよ。俺はリディアもユノと同じぐらい大切なんだ。どちらも失いたくはない。だから無茶だけはしないでくれ。生きて帰ってくると約束するんだ」

「あなた……好き。んっ」


 あぁあ、またこれだよ。

 この夫婦の発情沸点が低すぎる。

 息子の件で興奮した気持ちを別ベクトルでリサイクルするのはやめろよ。


「父さん、母さん、無事で帰って来てください。家は僕が守りますので」


 母さんのなかに父さんの水が注される前に、二人の発情タイムに水を差す。


「ふっ、頼もしいな。無論、必ず帰ってくるさ。お前たちをのこして逝けるはずがないからな」


 今二人してイキそうでしたよね。イこうとしてましたようね。


「ユノ、ルイス、良い子にしているのよ」


 二人まとめて胸に抱き寄せられる。

 母さんの胸が大きすぎて四つ子になった気分だ。


「万が一ここに魔物が来たら、女狐を囮にしてでも生きなさい」

「はい。それしかありませんね」


 神妙な顔でルイスが頷く。

 女狐云々の話に対して素直に頷いたの、お兄ちゃんそういうの悲しいよ。


「あるある。あるからねルイス」

「……ないわよ?」

「……ちょっと思いつきませんね」


 アリーシャは将来俺のお嫁さんになるかもしれない子だ。君のお義姉さんになる人なのだから敬意を払いもっと大切にしろ。仲が悪いよりは仲良くしていてほし、だが間違っても俺の居ぬ間に寝取ったりするなよ。そんなことをしてみろ、たとえそれが血のつながった弟であろうとも妊娠させてやるからな。この世に存在する恐怖のすべてを貴様の肛門にぶち込んでアナルチャンプルーしてやる。

 

 伝統料理になりたくなかったら適度な距離感を保ちつつ仲良くしていなさい。

 アリーシャに会う時は目隠しとマスクをつけろ。イケメンはいるだけで毒なのだから。一番は男性機能を切除してしまうことだな。するとあら不思議、絶世の美少年は百万年に一人の美少女に。正妻アリーシャほどとはいかぬが、嫁妹おとうととして末永く愛してやろう。


「ゴードンに声を掛けて行ってくる。決して外には出るなよ、ユノ」

「帰ったらお風呂に入りましょうね。いい子にして汚れておくのよ」


 リデル夫妻は自分の装備を用意、装着し最後にそう残して出ていった。


 入れ違いになる形でアリーシャが元気いっぱいな様子で我が家に飛び込んでくる。


「お邪魔します!! また会えるの嬉しいですねぇー!」

「いらっしゃいませマイスィートレモネード」

「まいすい? 吸い? 吸うの?」


 そう、君を吸いたい。今夜は俺をトイレだと思ってゆっくりしていってくれ。

 この世界の住人がまだ知らないであろう人類の革新、水洗機能を実装している俺が水の快楽に誘い性の水流で愛欲に溺れさせてさしあげましょう。今宵俺はユノではなくビデだ。


「ユノくんユノくん、わたしね、もうご飯たべたんだよ!」


 そうかそうか、それは良かった。じゃあ俺はアリーシャを食べようかな。


「フンっ」 


 アリーシャが来てからルイスの機嫌がすこぶる悪い。あからさまに悪い。気の毒になるほど不機嫌で、機嫌を取りたくなるほどの美少年メスガキ感を醸し出している。サイドテールにしてもらって睾丸踏んでほしい欲が噴出しそうだ。


「そういえばもう夕飯時だったのか。僕たちはまだ食べてないから、ルイスに夕飯を用意しようかな」

 

 俺はご飯の代わりにアリーシャをいただこうかな。


「あなたは……」


 アリーシャが来た時点で機嫌が悪そうな目をしていたルイスが、更に目つきを鋭くさせて睨み、直接絡みに行ってしまった。

 嫌悪の念を隠しもしないというのはコミュニケーション能力に難ありだな。嫌いな人とも上手くやっていく方法を学ばないと将来苦労するぞ。特にルイスは可愛いので、男の娘をよごしたいっさんたちが誘蛾灯に誘われた羽虫のようにたかってくるだろう。そこで距離感を見極められず、要望にしたがってばかりではいけない。お前は絶対にメイド服とニーソックスが似合う。だから汚っさんたちに流されて衣装を脱いだりするな。それではただの男になってしまうからな。せめてカチューシャだけは残せ。ナースのキャップも姫騎士のティアラも王女様のミニ王冠も、それがあるから属性を維持できるのだ。全部脱いでしまったらただの美少女だ。


「あなたは本当に能天気な方ですよね。兄さんにいつもくっついていながら、兄さんの変化にも気づかない。兄さんという人生の手本と行動を共にしていながら一体何を学んでいるんですか」


 こらこら、最初から喧嘩腰で会話を始めるやつがあるか。会話はドッヂボールではなくキャッチボールだよ。性交はキャッチ・ザ・ボールだよ。


 ルイスも子供だ。これまでの緊迫した空気に耐えきれず、今まで腹に据えかねていたものが爆発してしまったのか。今までの鬱憤を晴らすように怒ってしまっている。要は八つ当たりである。本人は何も悪くないのに日に二度も八つ当たりされるアリーシャが不憫だ。


「ユノくんから教わったこと? 肌のぬくもりかなー」


 ニッコニコのロリーシャ。股間のショタボーイもご満悦である。

 ああ、可愛いよアリーシャ。アリーシャの太陽のような笑顔からしか得られない栄養があり、愛棒はアリーシャの笑顔で交合性してすくすくと成長しているんだよ。


「わたしユノくんの匂い大好きなんだ!」


 今晩はたくさんぬくもりを教えてあげるし、嗅いだ事のない様々なアロマも楽しませてやろう。アロマセクラピーで激しい癒しのひと時を。

 さあルイスどうする、外だけではなく家の中も危ない世界になりそうだぞ。今すぐ外に出ていくか、中に出されるかを選びなさい。


「ルイス喧嘩は駄目だっていつも言っているよね。噛みつくなら干し肉にしたらどうだい。イライラするのもお腹も空いているからだろうし、すぐに用意してあげるから待ってて」


 下手な冗談はルイスにはウケなかった。

 ネタが高等すぎてついてこられなかったようだな。


「兄さんがそうしろと言うならばそうします」


 素直でいい子だが、どちらかと言えば従順か。子供はもっと自由でいいのに。


 そういえば五歳って干し肉を食べていいのか?

 塩分過多とかにならないかな。俺がよく噛んで塩分を吸いだしてから与えるか?


 兎にも角にも、まずはご飯を食べさせてルイスの気を落ちつけさせよう。そのあとはアリーシャとお風呂に入ってアリーシャにも入って愛棒をお膣かせよう。


 そうと決まれば、まずは腹ごしらえだ。干し肉を探しに調理場へ急がねば。一秒でも早くお風呂タイムに突入しアリーシャに突入するために。


 しかし、また外が騒がしくなってきた気がしないでもない。ちょっと不安。


 干し肉を探すのを一旦やめてリビングへと戻ると、どうやら二人も外の異変を感じとっていたらしく揃って緊張した顔をしている。


「外が騒がしいね」

 

 俺の顔を見た途端に二人とも笑顔に戻る。

 特にアリーシャは「タタッ」という音が聞こえてきそうな、兎のような軽快な足取りで体をくっつけにくる。


 あー可愛(シコ)い。今夜は兎のシチューか?


 ダンッ――

 ドンッ――

 ゴッゴッ――


 バニーに扮したアリーシャにバニー射する妄想を始めようとしたところで、玄関の扉が続けざまに激しく叩かれる。


 強い音だった。いったい誰のノックだろう。

 父さんか、母さんならノックなど無しで入ってくる。では一体誰か。他に来るとしたらゴードン一家なわけだが、お隣さん夫婦は一緒に魔物退治に行ってるはず。

 

 このまま放置しておくのも悪いので、心苦しく断腸の思いでアリーシャに離れるように言い、一人で扉へ向かう。


 ガンガツッ――


 まだ叩き続けられている。


「はいはーい今行きますよー。どなたで――」


 ――すか、と続くはずの言葉は飲み一層激しさを増した音にかき消され、同時に扉が吹き飛んできた。

 分厚く頑丈なはずの玄関扉が金具事はずれて俺の足元で床とキスをしている。この世界の扉は縦に開くわけではない。無理やり叩きあけられたのだ。


 突然の事にちょっと跳ねてしまった。父譲りの臆病さが恨めしい。アリーシャだったら漏らしているところだろう。


 父さんに家を任されている以上、 今の家主は俺だ。家主の許可なく扉を開けるとはどういう教育を受けて育った輩なのか。しっかりお顔を拝見して町内に悪い噂を流してやる。リデルさんの家の利発なユノ君とは違って――を枕詞にして。


「もう、どなた――」

「ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 床オナをしている扉から目線を上げようとすると、耳をつんざく咆哮を浴びて身が竦む。

 ひとが人と話す時に至近距離で出す声量じゃない。距離感がおかしい人なのか、マイクの音量を設定ミスしているに違いない。


 いやな耳鳴りに顔をしかめながら視線をあげると、そこにはゴリラを一回り大きくしたようなゴードンさん……ではなく、魔物がナックルウォークの姿勢で俺を見下ろしていた。


「ゴォアァァァァアアア!」


 ゴードンさん……ではなく、黒い猿型の魔物は両手を広げて玄関の縁を遮るように掴むと、お邪魔しますの挨拶とばかりに一吠えする。


 魔物との距離はおおよそ三メートル。


「フッ、グリコのキャラメル一粒で走れる距離の百分の一……と、いったところか」




 俺は混乱の極致にあった。

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