第13話 明るい家族会議

 アリーシャは口をあけてポカーンとしている。そんなに口を大きく開けていると愛棒ヤドカリの住処にしちゃうぞ。


 俺が放った火の魔術はまるで噴火であった。しかし、前世で観たニュース映像と脳内で比べてみれば、噴火のそれとは全く違うものとわかる。火柱はすぐに消えてしまっており、あのレベルの火柱があがる噴火ならば、短時間で終わるはずがない……と思う。そう信じたい。


 とはいえ、たまたまあそこに火柱が立ったという可能性もなきにしもあらず。今までの常識も理も違うファンタジー世界だし何があっても不思議じゃない。通りすがりの魔法使いさんが気晴らしに火柱を一発立てていったのかもしれない。一番最悪なのは本当に噴火が起きていたという災害に巻き込まれるおいうパターンだ。


 あれこれ考察してみるが、どうにも頭が重くて考えがまとまらない。体も気怠くて手足を動かすのも億劫だ。これが魔力を放出したという感覚であるならば、あの火柱は俺が放った魔術であっているのかもしれない。


 一方アリーシャは、天をも貫く炎の柱に驚いてしまい、洗濯している手をとめてまたお漏らしをしていた。どうやら癖になってしまったようだ。


 よい、そのままの君でいてくれ。俺は寛容な男でありたい。びっくりした拍子にお漏らしをしてしまう女の子? いいよ、実に愛いよ。でも時と場所は選んでほしい。俺が結婚指輪を差出して「結婚しよう」とキメ顔を作っている時に驚いてお漏らしをされてしまっては困っ……困らないな。それはそれでありだ。


 とにかく、乾いてもない下着を大急ぎで穿かせてそれぞれの家へと帰る。

 濡れてる理由は魔物に襲われる前まで川遊びをしていたとでも言えばいいだろう。これでアリーシャの秘密のお漏らしは二人だけのものとなる。二人だけのお漏らしである。二人しか知らない密に秘めたお漏らし。最高かよ。


 ワクワクしている場合ではない。俺が放ったであろう魔術の衝撃や熱で雪崩なり鉄砲水なりが起きてはたまったものではない。アリーシャの鉄砲水なら歓迎だが。


 山との距離を考えれば心配はいらないだろうが、念には念を。油断大敵である。


 ☆


 お互いの家に着き一旦のお別れ。

 いつものように夜になったらお泊りに行くなり、お泊りに来るなりすればいい。俺を抱き枕にするアリーシャは最高に可愛いのだ。

 俺はアリーシャ専用のイエス・ノー枕。イエスとハイしかない肉枕だ。


「またねユノくん!」

「うん、今日はありがとう。話はまた今度しよう」

「うんいっぱいしようね!」


 いっぱいしようね――か。

 良い響きだ。大人になったらベッドの上で言われたいものだな。


 特に自分の力を気にするでも、俺が使った魔術の事を聞くでもなく、アリーシャは自分の住む家へと戻っていく。

 アリーシャが勇者かどうかの確証はない。大人の意見を参考にし、改めて考えよう。


 木製の玄関の扉を開け自宅に入る。ただいま帰りましたと言うつもりが、足元を見て一瞬息が詰まる。


 母さんがまだ玄関で気絶していた。完全に忘れていた。


「母さん、起きて。こんなとこで寝たら風邪ひきますよ」

「あーん……」


 即効性の勃起促進作用のある喘ぎ声を漏らしながら起きあがり、周りをきょろきょろと見渡している。


「あら、私ったらこんな所で寝ちゃったの……? 毛布まで用意して」


 気絶する前の記憶が無いようだ。都合の悪い記憶は消してしまうのかもしれない。

 あって騒がれるよりはいいので、余計な事は言わず調子を合わせよう。


「そうなんですね。ところでなんですが、重要な報告があります」

「あら、改まっちゃって。なぁに?」


 声音が寝起きなのにエロい。一々色っぽいのは才能だろうか、はたまた努力の賜物か。


「川の近くでアリーシャと遊んでいたところ魔物に遭遇し、僕が襲われました」

「あら、ラビでもでた? それとも土竜モグかしら……私のユノを襲うなんて、山ごと消し炭にしてやるわ」


 俺が無事だから比較的小型で弱いとされる部類の魔物が出たのだと思ったのだろう。加えてまだ寝ぼけているせいで、頭も回っていない様子。魔物が出ること自体は冒険者には日常茶飯事でも、ここらに住む子供にとっては異常事態であるということに気づいていない。

 昨夜に頑張り過ぎた疲れがまだ抜けていないのだろう。夜に始まり俺が目覚めた朝方までギシギシと音がした。両親の喘ぎ声がアラームになる生活は存外きつい。両親を反面教師にして、将来は完全防音の部屋かセックスのためだけの離れを建てようと思っている。


「母さんちゃんと起きて聞いてください。狼型の魔物がでたんです。ここから……そこぐらいの大きさの巨大な魔物でした」


 母さんの瞼が完全に開くと、みるみるうちに顔が青ざめていく。

 そんな母さんを見ておっぱいの青い血管のよさについて妄想をはじめてしまう。


「怪我は――っ、酷い怪我してるじゃない!!」


 妄想に入る直前に両肩を掴まれてキャンセルされた。

 服についた泥汚れや血を見て慌てる母さん。妖艶な美女が狼狽える様はギャップシコい。


「怪我は治してもらったから大丈夫ですよ。それより町の組合員や見回り組、駐屯騎士団にも報告した方がいいんじゃないかなと」

「そんことよりもユノの体の方が先に決まっているでしょう!」


 仕方ない、一旦落ち着いてもらってからだな。


「ほら、僕はこの通り元気ですよ。服は汚れちゃったし駄目にしちゃったけど。心配かけてごめんなさい」


 母さんは一度目を瞑り深呼吸をしている。


 今ならキスできる。やるか? いや、やめておこう。冗談でもそんなことしてみろ俺の童貞はこの人に散らされてしまうことになる。アリーシャの肉棒奴隷になって童貞を捧げると誓ったのだ、美魔女に惑わされるな。


「本当に大丈夫なのね? とりあえず一緒にお風呂に入りましょう」

「大丈夫だよ母さん。それにお風呂より先に町の人達に早く伝えないと。お風呂も一人で入れるし」


 正直滅茶苦茶一緒に入りたい。だがこの豊満な胸と肉付きの良い体つきの裸体を見れば、俺の中の四百歳の部分が平静を保てなくなるだろう。

 幼児時代はうまく体が動かせず母に洗ってもらっていたが、あれは地獄のような極楽の日々だった。「お父さんみたいに大きくなりそうね」などと言って俺の未熟な海綿体を洗ってくれた。


 あの日に戻りたいと思う気持ちもあるが、それはだめだ。俺にはアリーシャという将来のご主人様――妻候補がいるのだ。母親ルートを選んでしまえば途端にその道が断たれてしまう。何より道徳的にも、倫理的にも許されない。この世界においても近親婚はご法度なのだから。


「ユノは早くから一人でお風呂もご飯もできちゃったものね。お母さん寂しい。一緒に入っちゃダメ?」


 静まれ、俺の中の四百歳。お前がどんなに暴れたところで体は未成熟なままだ。やることなど何もない。だから今は静まれ。なぁに、体が出来上がった頃にはアリーシャの体も仕上がっているのだ。その時には存分にお前を開放してやる。今はつらいだろが、それまでのあいだは我慢してくれ。


「母さん聞いて下さい、僕は将来父さんみたいな威厳のある立派な男の人になりたいんです。いつまでも母さんに甘えてたらいけないんです」

「そんな……父さんも夜は甘えん坊さんなのよ? ユノより乳離れが遅いし」


 父さんの威厳になんてことをするんだ。子供にする話でもない。


 すると玄関扉が開き、甘えん坊さんが顔を出す。

 お帰り、甘えん坊の甘えん棒さん。


「ただいま帰っ……どうした? 玄関で何してるんだ?」


 威厳たっぷりだが夜は甘えん坊である。妙な親近感が湧いてきた。


「あなた、ユノが魔物に襲われたって。そして私とはお風呂に入らないって!」

「あ、ああ、お風呂はともかく魔物の話は本当なのか? 服は汚れているようだが……怪我していないようだな」


 父さんは膝をついて子供の目線に合わせて俺の状況を確認した。

 偉丈夫に見下ろされるのは子供にとって恐怖であることをちゃんと理解している。こういう仕草を自然にできるところは尊敬している。俺も子供に優しく、妻には激しい男になりたい。


「怖かったろう。詳しく話せるか? リディア、すまないが温かいミルクをユノに用意してあげてくれ」

「じゃあ私もあなたのミルクを後で貰うわ」

「う、うむ……」

「ユノは私のミルクとヤギのミルクどっちがいい?」

「ヤギでお願いします」


 家族の会話にさらっとどぎついネタを挟む。

 母さんが残念そうな顔でミルクを用意し、指先から炎をだして温めている。


「ゆっくりでいい。そのときの状況を話してもらえるかい」

「はい、父さん。狼型の魔物が林から出てきました。この通り服は汚してしまいましたが怪我はありません。そのあたりの経緯も含めて詳しく話したいと思います。でもその前に町の人達にも伝えましょう。町へ降りてきたら大変な被害が出てしまうかも」

「そうだな、分かった。そうしよう。しかし、さすがはリディアの産んだ子だな。魔物に遭遇しても尚この冷静さだ。将来が楽しみだよ」

「あら、私だけではなく二人でこさえた愛の結晶よ? はいミルク」


 父さんが俺の頭を撫でて笑っている横で、母さんが雌の顔をして父さんを見ている。自分で言った愛の結晶という言葉が子宮に刺さったのだろう。


「そういえばルイスはどこへ? まさか外に――」

「ただいま帰りまし――どうかしたんですか? みんなで玄関に集まって」


 どこに出かけていたのか、父さんより遅れてルイスが帰宅する。

 母さんによく似た女の子の様な容姿の弟。

 可愛いよルイス。妹になってくれルイス。いもうとだからのよさもあるか。


「お帰りルイス。無事でよかった」

「はい? はい、僕はなともありませんが……」


 兄弟の会話なんてこれくらい淡白なものだろう。

 ルイスは淡々とした喋りとは裏腹に、俺を見つけて嬉しいのかスマイルを絶やさない。蕩ける様な笑顔で俺を見つめて喜んでいる。頼む、頼むから妹に変わってくれ。どうして君には余計なものが生えてしまったんだ。


 両親から色々なパーツを引き継いで生まれたキメラのような俺とは違い、ルイスはすべてが母譲りの完璧に整った端正な容姿をしている。そんな顔で笑顔を向けられれば背景に花が浮かぶような錯覚をする。

 町の主婦を筆頭に女性陣から絶大な人気を誇るルイスは、歩く宝石、生きる国宝、世界三大美人などと陰で呼ばれている。一方の俺は「ルイスのお兄ちゃん」と呼ばれており、兄の俺ではなくルイスが先に来るのは少々面白くない。しかし俺にはアリーシャがいる。シコれる宝石、イケる国宝、宇宙最強幼女と俺が勝ってに称えてやまないアリーシャがいる。多少弟より扱いが劣っていても、お釣りがくるほど幸福だ。


「え? な、なんですか?」

 

 前髪でうっすら視線を隠して上目遣いとは、この五歳児、自分の美貌を十全に理解している歳か思えない。

 将来を想像するに間違いなくモテる。すでに人妻を虜にしているのだから、童貞を奪われるのも時間な問題だろう。だがなルイス、よく覚えておけ。もし俺よりも先に童貞を捨てたなら兄弟の縁は無いものと思え。俺はお前をお兄ちゃんと呼んでやる。


 そんな俺の考えなどつゆ知らず、ルイスは汚れ破れた俺の服に気づいて顔を歪ませる。歪んでいるのに均衡がとれていて美しい。意味が分からない。


「に、兄さん、その服は……ど、どうしたの?」


 まず最初に瞳を覗いてくる癖があるからか、母さんとルイスはすぐには俺の異変に気づかなかった。やはり着眼点なども似るものなのだな。


「いったい誰が――!」


 今はまだ可愛いの部類だが、将来は男版母さんみたいな顔立ちになり、男前になってしまうのだろう。何故お前は男として生まれてしまったのか。俺はずっと妹が欲しいと願っていたの。母さんの妊娠が発覚した際には、流れ星に向かって「まい! まい! まい!」と拙い言葉で願った。だというのに何故お前は男なのだ。いやもうおんなでもいいか……? おとうとだけど陰茎が生えてるって、むしろお得なのでは?


「今からみんなに話そうと思っていたところなんだ。怪我はないから心配しなくていいよ。でも心配してくれてありがとう。ルイスは優しい子だね」

「兄さん……。あ、誰かにいじめられたとかなら僕に言ってください。殺します」


 こえーよ。

 迷いのない目で言うな。


「母さんも手伝うわ。一族郎党、家ごと燃やし尽くしてやる」

  

 乗るなめろ。

 息子ルイスがレベルの違う非行に走ろうとしているんだから親として止めて、母の役目を果たせ。


「こらこらお前らやめておけ……冗談だろうけど、そういう物騒なことは外で言うなよ。ただでもゴードンの横に住んでる冒険者ってだけで町の人の目も厳しいんだから」


 父さん、あの二人は冗談で言っている気がしません。目が本気です。


「繰り返すけど大丈夫だよ。誰からもいじめなんて受けていない。たとえ受けたとしても自分で解決するし、無理そうだったらみんなに相談するから。それにこれは魔物にやられたものなんだ」

「え、は? 魔物……ですか? 魔物……女狐……アリーシャにやられたんですか!? 許せない……」

「落ち着いてルイス。アリーシャじゃない」

「でも魔物にやられたと」

「まずアリーシャは魔物じゃない。それはわかるかい? 母さんとルイスがアリーシャをどう思ってるかはしらないけれど、少なくとも僕は一度だって彼女を魔物だなんて思ったことはないよ」


 ルイスも母の真似をしているのか、アリーシャを女狐と呼んでいる。

 当のアリーシャは意味が理解できなかったようで女狐の意味を尋ねてきた。どう答えたものかと悩んでキツネさんだよと教えると、アリーシャはそれを聞いてキュゥンキュゥーンと鳴き、俺に頭を摺り寄せてきた。


 その時のルイスの目は殺意に満ちて、憎しみににじんでいた。

 ルイスは危ない。母さんの次に危険だ。まだ魔術を放とうとしないだけましだが、いずれとんでもないことをしでかしそうで目が離せない。


「さあ立ち話もなんだ、みんな椅子に座ろう」


 流石は父さんだ。母さんの旦那をつとめ、パーティーのリーダーまでやっているだけはあり統率力がある。結婚式でも司会進行はこの人に任せたい。


 それぞれが四角いテーブルを中心に、自分専用の席に着く。母さんは俺を抱っこしようとしていたが汚れてしまうからとやんわり拒絶。あからさまにテンションを下げてショゲている母さんが可愛い。お風呂一緒に入ろうかな。


「それではユノに話してもらおうか。まずどこで何があったかだ」


 ユノにと名指しすることで他二名をけん制する。細かいところだがさすがの手腕である。


「先程話した通りです、僕は魔物に襲われました。場所は林に入る前の川。本で学んだ知識しかないので断言はできませんが、魔物は狼型の成体かと」

「どうやって逃げ延びた。随分とボロボロだが、まさか実際に戦った訳ではないだろう? 他に襲われた者や、戦った者がいたのか?」

「はい、僕の他にアリーシャがいました」

「なに?」

「ご心配なく、アリーシャも無事です。さきほど家に送り届けました。怪我もありません」


 お漏らしは二度したが……ふふっ、これは二人の秘密だ。


「チッ……」


 母さんの方から舌打ちが聞こえた。

 アリーシャが無事なことに舌打ちをしたのか、一緒に遊んだことに嫉妬したのかは判然としない。どちらにせよ最低だ。父さんも好意的とは言えない視線を投げている。今夜は父さんにたっぷりお仕置きしてもらえ。


「まずアリーシャを逃がすため、僕が魔物の前に出て対峙しました。彼女の逃げる時間を稼ぐために戦闘も行いましたが数秒で制圧されました」


 できる限り淡々と語る。家族の会話ではあるが、事情聴取に近いから。


「魔物に飛びかかられ押さえつけられ、死を覚悟をしました」

「ユノ死なないでぇ!」

「はい、生きてます」


 死を覚悟という言葉がいけなかったか。母さんを興奮させないように言葉を選ぼう。


「押し倒された際にできた汚れがこれです。それで、その時ですアリーシャの体から光りが放たれて魔物は僕から離れました」


 そしておしっこも放たれる。


「アリーシャが魔物を追いかけ、頬を叩き撃退。魔物は這う這うの体で林に逃げ込んだので僕たちも帰路につき――そして今にいたります」


 もっと壮絶な体験をしたつもりだったが、話してしまえばこんなものか。


「にわかには信じられない話だな。最後の撃退した部分もだが、成体の狼型にのしかかられてユノが無事なままであるはずがない。大の大人が鎧をまとっていても骨折は免れまい」

「実際に骨は至る所が折れ、死も身近に感じました」


 母さんとルイスの顔色が悪い。もっと言葉を選らばなければ。 


「でもすぐにアリーシャが治してくれたんです」

「アリーシャとは、ゴードンのとこの娘のアリーシャちゃんだよな? さっきもアリーシャちゃんが光を放ったとか……」

「はい、そのアリーシャであっています。光りを纏ったアリーシャが僕に治癒魔術をかけて、全身の怪我を治してくれました」


 お漏らしの件は伏せる。あれは二人の秘密。アリーシャの弱み。秘密は秘密にするからこそ弱味になるのだ。弱味を握って何をするのか? そりゃナニに決まっている。


「骨折を瞬時に治す治癒魔術? ありえないわよ普通。高位の神職でも時間のかかる大魔術だもの」


 前世の現代医学でも一日で骨折は治らない。それこそ擦り傷ですら一日では無理だ。魔術がいくら便利なものとは言え、治癒するというのは難しいものなのだろう。そう考えればアリーシャがどれだけ異常なことをしたのかが分かる。


「いえ、実際この体で体験した事実です。そこで僕は仮説を立てました。一つは彼女が高位の治癒魔術を操る才能を持っている」

「私はあの女を彼女なんて認めません」


 んな話はしてねーよ。


「もう一つは彼女、アリーシャが勇者であるということです」


 一同息を飲む。

 ルイスは五歳のくせにある程度話を理解しているようで、真剣な顔で黙っている。できた子だこと。


「ユノが語ったことが全て真実であるなら確かにありえない話ではないな。この件は明日ゴードンにも話しておこう」

「はい、お願いします。それと魔物が出たことについても、急いで町の人達にも伝えてください。僕も手伝います」

「ユノ、お前は俺の誇りだ。しかし、体は癒えたとはいえ心はそうもいくまい。今日のところは家で大人しくしていなさい。あとは俺たちに全て任せておけ」

「……ご心配おかけして申し訳ございません。お言葉に甘えさていただきます」

「子が親に甘えるのは当たり前のことだ」


 夜の甘えん坊さんが言うと言葉に深みが出るね。

 つまり父さんは夜になると母さんの子供役をやっているわけかい? 子宮口を叩いてただいまーとか言っちゃうわけだ。


「あぁ、そういえばもう一つ大事な話をし忘れていました」

「お母さんとお風呂に入る話ね?」

「僕、魔術が使えました」

「……は?」

「……え?」


 両親揃って口を大きく開けて呆然とした表情をしている。

 なんだ顔芸か?

 美男美女はなにをしても様になるな。


 ルイスも状況が飲み込めないようで、俺と同じく二人の表情から何がおかしいのかを探っているようだ。


「ユノー? それは本当なの? 嘘だったらママとお風呂よ? 一生入るわよ?」


 あわよくばお風呂を狙ってくるなこの人。


「嘘なんてつきません。炎よ出ろと念じたところ山に火柱が立ち昇ったのです。我ながらあれは大したものだと……」


 ゴンッ――と乾いたいい音がする。

 母さんが気絶して頭をテーブルに打ちつけた音だった。


「なんてことだ……どうしてうちの子が……」


 なんだこの空気は。どうして父さんは自分の子が犯罪者にでもなったような悲しめの反応をしている。それにかなり強めに頭を打っていたが母さんは大丈夫なのか。顔をあげないしピクリとも動かないが。


「あ、あのもしかして子供が魔術を使うのは違法だったりするのですか?」

「そうじゃない。そうじゃないんだユノ……」


 首をふる父さん。


「もう一度確認だ。ユノは炎を出したんだな」

「はい。雲を突き抜ける立派な火柱を」

「そうか……。わかった、信じるよ。でも、あのなユノ。男はな……男は魔術なんて使えないんだ」




 え? 俺、おんななの?

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