第8話 力不足
環と千鳥を残して、他のメンバーが『オモテ』へと救援に向かう。
しかし、AIロボットとの戦いは予想外の苦戦を強いられていた。
「増援よ! 気を付けて!」
倒しても倒しても減る気配のないAIロボットの集団に、徐々に晴明たちは少しずつ体力を消耗させられていった。
今いるメンバーの誰も決して弱いわけではない。
壁役である剛はともかくとして、それ以外の4人はAIロボットの集団を蹂躙できるほどの強力な範囲攻撃能力を持っている。
しかし、その集団の中に紛れて、次々と増援を呼んでいる指揮官となるロボットを仕留められるかどうかは完全に運任せであった。
仮に、ここに環がいれば指揮官ロボットを狙い撃ちすることができたのだろうが、今の状況を考えれば、それは無いものねだりというものだろう。
しかし、どうしても環がいてくれたら……と考えてしまって、首を横に振った。
「ふう、考えていても仕方ありません。皆さん、ギリギリまで粘りましょう」
「了解」
「わかったわ」
「頑張ります!」
「うむ」
晴明の言葉にみんなの戦意が戻り、それぞれの能力でAIロボットたちを蹂躙していく。
しかし、無駄に戦闘に時間をかけた結果、離れたところから一人の男が彼らを見ていたことに誰一人気付かなかった。
「やれやれ。どいつもこいつも、マザーに従っていれば、幸せに過ごせるというのに……。しかし、厄介な連中だな。あの力はブラザーだけでなくマザーにとっても危険かもしれん」
その男は気に喰わないと言った表情で彼らの戦いを見ながらつぶやくと、戦場から離れていく。
しばらく膠着状態が続いていたが、やがて飛行型のAIロボットまで登場するようになり、不意打ちにより雪乃が怪我をしてしまった。
「雪乃さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。これくらい、どうってことありません」
「いえ、そろそろ潮時でしょう。撤退します! 剛、殿を頼みますよ!」
「うむ」
晴明が撤退の号令を出したことで、雪乃は憔悴した。
「え?! 私、まだ戦えます! 大丈夫ですから!」
「いえ、あなただけの問題ではないのですよ。すみませんが、説明している時間が惜しいので、雪乃さんも早急に戦線から離脱してください」
「……わかりました」
晴明の有無を言わさぬ言葉に、不満そうな表情をしていたが少しずつ後退していく。
そして『ウラ』まで戻ってきた晴明は結果を報告するために環の元へと向かった。
彼の隣には雪乃の姿もあり、彼女の落ち込みようが戦いの結果を物語っていた。
「すみません、あそこまで言っておいて、救援に失敗するどころか、雪乃さんにけがまでさせてしまいまして……」
「やめてください! 怪我をしたのも、それが原因で撤退することになったのも、全て私が原因なんです!」
頭を下げて深く千鳥と環に謝罪する晴明に対して、雪乃は自分の責任だと主張して同じように頭を下げる。
「二人とも頭を上げてよ。そもそも、私のわがままで失敗したんだし。みんな回復したら、もう一回行くってことで! 2人とも今日はゆっくり休んで、ね?」
苦しそうな笑顔でフォローしようとする環の姿は痛々しくもあったが、晴明も雪乃も、彼女の気遣いを汲み取って話を切り上げることにした。
「わかりました。それでは私たちはお邪魔しますね。皆さん明後日には回復していると思いますので、あなたも無理はなさらないように……」
そう言って、2人は出ていった。
「そういうことだから、私も今日は休むね。千鳥もゆっくり休んで回復させなきゃダメだよ」
そう言って、環も出ていこうとした。
「やっぱり、俺が弱いからか……くそっ!」
背後でベッドに上半身だけ起きた状態で悔しそうにつぶやく千鳥に対して、環は振り返らずに言う。
「千鳥は弱くないよ。そりゃ、私が言っても説得力ないように聞こえるかもしれないけど、私はあなたが弱くないことを知っている。むしろ、弱いのは私の方。それだけは忘れないでいて欲しい」
そう言って、後ろ手に扉を閉めた。
一人残された千鳥は、両手を握り締めて俯いた。
正直、環にそう言われて嬉しく感じる自分がいた。
その一方で、この状況に対して何も力になれない自分の無力さも痛感していた。
翌々日、環たちは再び救援に向かうことになった。
AIロボットに襲われているとはいえ、一昨日の戦いで相当の数を減らしているはずである。
それで、何とか持ち直してくれればと思わざるを得なかった。
環を加えた救援は、驚くほどスムーズに敵を一掃することに成功した。
何よりも彼女の索敵や狙撃により、ピンポイントで指揮官ロボットを破壊できたのが大きかった。
指揮官を失ったAIロボットは増援を呼ぶこともできず、瞬く間に数を減らし、1時間も経たずに全滅した。
「お姉さんがいるだけで、こんなに違うなんて……」
先日の敗走を経験した雪乃は、今日の拍子抜けするほどの戦闘に驚きを隠せなかった。
「まあ、そのあたりは後にして、さっそく中の人たちを助け出そう!」
環は意気揚々と彼らが隠れ住んでいたと思われる洞窟に乗り込み、中の様子を見た瞬間にへたり込んだ。
「うそ、どうして……」
他のメンバーも環に続いて中の様子を見る。
その中にあったのはおびただしいまでの人の死体であった。
「全滅……ですかね」
「それじゃあ、なんでロボットがここにたくさんいたのよ?!」
「それはわかりませんが……生き残りがいるのかもしれませんね」
環は晴明の言葉にすがるように、周囲を探す。
遺体を押しのけながら、誰か生き残りはいないかと。
そして、ある1つの遺体を押しのけた時、赤ん坊の泣き声が聞こえた。
恐らく、母親が我が子を守ろうと盾になったのだろう。
その上にあった遺体は見るも無残な姿になっていたが、赤子の方は全くの無傷であった。
環はおもむろに赤子を抱きかかえると半泣きになりながら笑った。
「よかったぁ。他の人は残念だけど、この子は無事だったんだね」
「同感です。この子は本人の意思はありませんが、連れて帰ってあげましょう。この子を命を賭けて守った母親に報いるためにも」
そう言って、晴明は環に微笑みながら頷いた。
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