第4話 初めての学校
妖怪にとって、世間一般に言われる学校は全く意味が無いものである。
原則として、必要な知識は妖怪として生まれた時点で全て持っているし、そもそも外見と年齢が一致している妖怪自体が珍しい。
そのため、『ウラ』では『学校』と呼ばれる施設が1つあるだけである。
それが何のために存在しているかと言うと、能力をうまくコントロールできるようにしたり、友人や恋人といった交友関係を広げたり、外敵との戦い方を学んだりするためのものとなっている。
その学校に通っている環は、千鳥と雪乃を連れて学校へと向かう。
その途中で、一人の少女を見つけた。
「おはよう、
魅亜と呼ばれた少女は、黒髪黒目ながらもお嬢様のような上品な雰囲気を持っていた。
彼女は振り向いて、環に向かって微笑んだ。
「おはよう、タマちゃん。そっちの二人は今日から?」
魅亜は環の後ろにいる二人をチラッと見ながら訊ねてきた。
「そうそう、あ、二人にも紹介するね。こっちの子は――」
「自分でするわ。私は
魅亜は上品なカーテシーで挨拶をする。
その優雅な立ち振る舞いに二人とも魅了されたようにぼーっとしてしまう。
「ちょっと! うちの新人を『魅了』しないでよね!」
二人の様子に焦った環は魅亜に文句を言うが、魅亜は涼し気な表情のままニヤリと笑った。
「そんなことしないわよ。でも、タマちゃんが男の人に執着するなんて珍しいわねぇ」
「いやいや、千鳥はそういうんじゃないから!」
魅亜がからかうように言ってきたため、慌てて環が否定する。
しかし、一方の千鳥はAIによってもたらされた学習によって、躊躇うことなく環への好意を口にする。
「俺は環のことが大好きです!」
そんな千鳥の告白とも取れる言葉に周囲がざわめき、環の顔があっという間にトマトのように真っ赤になった。
「え、あ、す、すき?! いやいや、そんなことを言う千鳥なんてキライッ! ううう、魅亜のばかぁぁぁぁ!」
支離滅裂な言葉を叫びながら、環は校舎に向かって走り去ってしまった。
一方、取り残された千鳥は初めて自分の好意が否定されたことに少なくないショックを受けていた。
これまでは、自分が好意を持つ相手はAIに選ばれた人間であり、相手もまたAIによって自分に好意を持つように設定されていた。
だから、自分が好きだという思いが否定されることは無かったし、否定されるとも思っていなかった。
そんな千鳥の様子を笑い出すのを必死で耐えながら、千鳥に声をかける。
「あらあら、フラれちゃったわねぇ。まあ、彼女以外にも素敵な女の子はいるから気にしないことよ」
しかし、そんな魅亜の慰めも千鳥にとって、あまり効果はなかった。
「環に嫌われちゃいました……。どうしよう……」
「お兄ちゃん……。あやまろうよ……」
「そうだな……」
二人は、千鳥が環にフラれた事実よりも、自分たちがいずれは追い出されてしまうのではないかということに恐怖を感じていた。
「ふふふ、大丈夫よ。ほっておいて問題ないわ。むしろ、しばらくほっておいた方が良いかもしれないわね。あの調子だと」
「……そうなんですか? わかりました。しばらくほっておきます。」
魅亜は確信しているかのように大丈夫だと言っていたが、千鳥も雪乃も半信半疑であった。
しかし、付き合いの長い魅亜の言うことなので、とりあえずは忠告に従うことにした。
「まあ万が一にも追い出されたら、私が拾ってあげるわ。あなた意外と素敵なんですもの。でも、タマちゃんにバレると怒られるから、追い出されるまでは秘密ね」
そう言って人差し指を立てて口の前に当ててウインクした。
最悪の事態は回避されそうだということが分かって、二人とも少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
「……まったく、タマちゃんも不器用なんだから」
二人に聞こえないように魅亜がつぶやいた。
「……でも、私はお姉さんと一緒がいいな……」
ここまでのやり取りを静かに見守っていた雪乃がボソッと言った。
「大丈夫よ、追い出されることなんてないから。まったく、タマちゃんも鈍いからね。千鳥も頑張らないとダメよ」
そうつぶやいてから魅亜は千鳥に向き直って、肩をポンポンと叩くと踵を返して校舎へと歩き出した。
それにつられるようにして、千鳥と雪乃も校舎へと向かった。
教室へ向かう魅亜と玄関で別れ、千鳥と雪乃は職員室へと向かった。
そこでは、学校の簡単なルールの説明と希望するクラスについての確認が行われた。
学校ではクラスごとに分かれてはいるものの、よほど人数に偏りがない限り希望するクラスに編入される。
二人も環と同じクラスを希望し、問題なく同じクラスに編入されることとなった。
担任の教師に連れられて教室に入ると、一斉に生徒の視線が二人に向けられる。
そして、生徒の中の一人が千鳥を指さした。
「あっ、さっきタマちゃんに告白してフラれた人だ!」
その言葉に環の顔が再びトマトのように真っ赤になった。
「えぇ、めっちゃカッコよくない?」
「タマちゃんにフラれたってことはフリーってことよね?」
「ここは告白するしかないわ!」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
そんな中、おもむろに
「ち、千鳥はだめぇぇぇぇ! 私のなんだからぁぁぁぁぁ!」
真っ赤な顔のまま大声で叫ぶ彼女に、クラスメイトは全員驚いた表情で固まっていた。
魅亜を除いて。
一方の魅亜は「さっき大丈夫だって言ったでしょ」とでもいうかのように、ニヤニヤしながら千鳥に目配せした。
しかし彼が、その目配せに気づくことは無かった。
何故なら、環と同じように千鳥も顔を真っ赤にして、あからさまに動揺していたためである。
「似た者同士、ってことかぁ。相性が良いんだか悪いんだか分からないわね。ふふふ」
二人の様子を見ながら、魅亜は生暖かく微笑んでいた。
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