第24.5話 その綺麗な顔に傷をつけてやるぜと言わせたい話


「えー!では!これより、演劇について話し合いたいと思いまーす!」


よろしくお願いします、と長テーブルに四人と五人に分かれ向かい合って座ったメイドたちは礼をした。


「今回ちょっとどうしても話し合わなければならない議題がありまして」


メイドの一人、サーシャがかちゃりと眼鏡をかけ直して言う。


「ずばりですね、ヴィント様が『その綺麗な顔に傷をつけてやるぜ!』って言われる劇にしたくて…」


「その綺麗な顔に傷をつけてやるぜ…」


その綺麗な顔に傷をつけてやるぜ!?メイドたちはザワついた。


「えーっ………いい、それ、素敵…」

「一度でいいから言われてるとこ見てみたい」

「その綺麗な顔の方が勝っちゃうのよね。ときめく〜」


「男に向かって綺麗な顔とか言っちゃう男の情緒どうなのとは思うけどそれはそれ」


はい、とリリーは手を挙げて進言する。


「配役どうするんですか?」


そこなのよねぇ〜とメイドたちは一斉に悩ましげになった。

エライユの人口十五人(とうさぎ二羽)。配役は限られている。


「王様は?」

「なんかちょっと違うよね…鬼畜がちょっと足りないっていうか」

「トルカは?」

「可愛い!なんか違う!」

「ヴィント様部下三人はダメ、ヴィント様に反するとしんじゃう病気だから…」


しんじゃう病気。


「クルカン様がいてくれればな〜」

「ね、絶対上手い」

「ノリノリだし、何ならナイフとか舐めながら言ってくれそう」


リリーはクルカンと会ったことが無いので想像がつかない。

ナイフとか舐めながらとは。


「ま、いない人について言ってもしょうがないし、」


いつもながら軽いノリであーでもないこーでもないと議論するメイドたち。


「じゃ方針を変更して、ヴィント様が王子様で、姫と王子の結婚に腹を立てた姫の継母が言う事にしよ。継母役やりたい人〜!」


はい!はい!はい!と皆一斉に手を挙げる。

リリーは、椅子に座ったまま縛られているヴィント、ヴィントの横でナイフを舐めながらその綺麗な顔に傷をつけてやると言い出す継母を想像した。

相当な修羅場だ。


「リリーはアナーキー継母やりたくないの?」

「えっ?」


いつの間にか継母にキャラ付けされている。


「えっと…私は王子様を縛り上げる継母の手下役やりたいかな」

「縛りたいのね…」

「えっ!?ち、違う!違う!!」


自分の想像に引きずられて余計な事を口走ってしまった。

継母のボディガード兼凄腕メイドが王子様を縛り上げ…とサーシャがシナリオを書き上げている。

違うよと弁明しながらそもそもヴィントに配役を断られた場合どうするんだろう?とリリーは思った。











舞台設計…の前におやつにしよ!おやつ!と何かとお茶にしたがるメイドたちはおやつの準備にとりかかった。

お茶してるうちに演劇をやりたがってた事も忘れるかもしれないなあ…と思いながらリリーはとりあえず背景を描くための大きな紙を探しに行く事にした。


「リリー」


はい?と返事をするとあっという間に腕を掴まれて柱と柱の隙間に押し込められてしまった。


「あ、あのヴィント様、」

「今出て行くと王子と姫の結婚を邪魔するやたら猟奇的かつ能動的な継母が出てくる演劇に巻き込まれるぞ」


あ、的確。

えーっと…その…もじもじと落ち着かなさげに百面相をしているリリーを見て、おそらく劇をやってみたい気持ちと絶対にやりたがらないヴィントの気持ちを天秤にかけて悩んでいるのだろう、とヴィントは思った。

手元をいじりながら悩んでいる様子がいじらしく、正直もうちょっと眺めていたい。

じっと上目でヴィントを見たリリーは意を決して小声で言った。


「じゃあ…北棟の書籍を片付けに行きましょうか?」


あそこならあまり人も来ないし…

と言うリリーに同意して移動する事にした。


ただし、リリーは違う事を考えていた。

前方にヴィント、後方に壁、左右に柱と挟まれている状況、とても良い…!

このまま、挟まれていたいような…ダメダメ、あくまで善意で助けようとしてくれているヴィントに対してそんな邪な気持ち、良くない、良くないよ…!


北棟に書籍の片付けを提案する、そう、仕事、仕事だから…仕事だよ?決して二人きりを提案するものじゃ……ない!


たぶん。






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