第18話 天災を生きる獅子+暗を生きた猛獣 Ⅶ
「ザ・ゴールデンが悪に働く組織となった原因は魔神だ」
「黄金の魔神、レートニア。人間として活動してきた名前はビータ・セミッタ」
『!?』
グリムが発した「ビータ・セミッタ」という名前に大袈裟な程反応しているが、ヴリアルケルンの者達からして見れば大袈裟でも何でもないのだろう。何故なら、同じ釜の飯を食い、共に死線を潜り抜けた戦友だから。
ルイズはその言葉に何も反応をしなかった。事実の肯定でもなく、虚実の否定でもなく、ただただ真顔で沈黙を貫くのみ。けれど、瞳の中にある感情には苦しみの過去の思い出が鮮明に写っていた。
「ボス!嘘じゃろ……?」
「残念ながら、嘘じゃない。ヴリアルケルンなら知っている筈だよ。丸薬の件」
幹部の老骨、ギュラムが問うのだが、ルイズは否定の言葉と共に首を振る。
その言葉に、その動作に闇が色濃く浮かんでいる。それ程、ヴリアルケルンにとっては大切な仲間だったのだ、と認識できる。
グリムは、このような場面の対処方法を知らない。言葉は出なかった。慰めの、立ち直らせる為の言葉が。文官貴族ではないのだ。武に身を置き、戦に身を置いてしまった武闘貴族なのだ。ささやかな気遣いは可能であったとしても、場に方向性を付けて引っ張るのは不可能。
経験が無い。そのような経験は、一切体験していない。瞳で確認もしていないので、倣うこともできやしない。
「落ち着けよ、君達。何の為に僕らは居る。人類を魔神の危機から救う為だ。だから僕たちはその為に努力を捨ててはいけないんだ。組織を結成した時から長い時間が経ってしまったから、誓いを忘れてしまったかい?僕たちみたいな人を出さないという誓いは。どんなに現状が辛くても、僕たちは牙を剥くしか無い」
心が、少量の闇に満ちる。
仲間だと、友だと思っていた者が本当は自分達が滅亡させる悲願としていた魔神だった。そのような現実にも立ち向かい、まだ終われないと立ちあがろうとする姿は、己が昔から抱いていた憧れそのものだった。
浅ましく、醜い負の感情がグリムを歩く。成りたくても成れなかった己が事実の武器を持ってグリムを攻撃する。それは嫉妬の感情で、身勝手の感情でしか無いのだと。今一番抱いてはいけない感情であると。
「ザ・ゴールデンで厄介なのはボスであるラーガ・タント。その部下の黄金八束星。そして一番厄介な黄金魔神レートニア。そこら辺の情報の擦り合わせをしたいんだけど、グリムの情報ではどうかな」
「……」
「グリム?」
「……!?ああ、悪い。黄金八束星、ラーガ、レートニアの共通点は黄金を操る事だな。黄金八束星はラーガやレートニア程巧みに操れない」
他にも、幹部は必ずロスト魔術を覚えている事。ラーガの黄金生成及び操作範囲は街一つにも及ぶという事。
グリムの情報に続いて喋りだしたルイズは情報を喋り出す。
一人では完璧には足り得なかった情報が、二つ合わさる事で確かな情報になっていく。
此方で不足な事は彼方が。彼方が不足な事は此方が補う。いつ仕掛けても、仕掛けられても良い様に対策と作戦を練る。
この会議は、数時間にも及んだ。
ヴリアルケルンの幹部が殆ど解散した後に会議室へと集まっていたのはクリスとルイズ、そしてグリムだった。
心の中に自身への失望を抱いていたグリムを見てルイズは「ふふっ」と笑った。嘲笑では無かった。同情で生じた苦笑いでも無かった。ただの、微笑ましい物を見るかの様な笑み。
「グリム君、君は会議中僕に対してどう思った?」
「やっぱり組織の長だな、と」
「はいダウト」
「は?だうと?」
「嘘って意味ね。確かにそれを思ったけど、それ以外もあったでしょ?」
思った事の一部を口にしたら、大部分は他にあると言われてしまった。何故、此処まで鋭いのだろうか。生きた年数が原因なのだろうか。
隠したかった。隠し通していたかった。家族にもこの秘密が解かれた事など無かった。
図星を当てられ、顔を地面に伏したグリムに、ルイズは再度穏やかな笑みを向ける。このような自身を肯定する笑みは初めてだった。醜い嫉妬を肯定するかのような笑みは。
「背負い込み過ぎなんだよ。どれだけ戦を、殺し合いを経験しようとも、まだ8の青臭い若造には変わりない。抱え切れる範囲には限度がある。だから君みたいな子供は大人を頼る」
「でも、分からない。頼り方が」
長らく戦で一人で活躍し過ぎた弊害と言うべきか、頼る手段を知らない。殆どの大人は己よりも遥かに弱い。
頼る事など、無かった。頼らせてなど、くれなかった。打ち拉がれる暇は無いのだ、と無理矢理に立たされた。その結果、兵器として立ってしまった。兵器となる原因を作った大人に頼りたくは無い。
父のイノセンスには頼れるであろう。しかし、分からない。
「必要ないんだよ。俺は妹や弟が…家族が居れば」
「だとしても、だ。表面上は問題ないと思うよ。裏の心の浅い所も。だけど、裏の最奥部分はどうなのかな。血と罪を浴び過ぎて悲鳴をあげているんじゃないかな。…もう少し自分に素直になってみろよ!グリム!」
荒々しい口調が、心に刺さる。制限をしていた自身の心が、開放する。
「言われたい、兵器と呼ばれた俺でも生きて良いんだって」
「そうか、なら何度でも言おう。生きろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます