第19話 天災を生きる獅子+暗を生きた猛獣 Ⅷ
会議室で「生きろ」と言われ、泣き喚いていたグリムであるが、クリスの個室で大人に甘えれなかった反動としてクリスに甘えていた。
甘えられる事に抵抗は無い為、拒否はされなかった。なので、思う存分に甘えていれば、ふとした疑問のような口調で口にしてきた。
「そう言えばだけどさ、前に魔法は幻想的、魔術は理想的って言ってたじゃん。あれってどういう事なの?」
「んぅ?…あー、あれね。あれはねえ、魔法と魔術の違いの例えで口にしたんだよ。魔法と魔術の相違点とは何か分かる?」
「魔法は魔力と操作技術のみが必要で、魔術はそれに加えて媒体が必要な事、かな?」
概ね正解である。魔法は陣に魔力と想像さえ捧げば、どんな地点であろうとも、どんな魔法であろうも発動可能だ。その分、使用する魔力は魔法の方が何段か上なのだが。
魔術は脳内に陣を浮かべる魔法とは違い、発動する方向性を絞り、使用者の体か物に魔術陣を刻む事で発動前の準備が完了する。利点としては、事前に陣を定めているので、危機の時に即席で魔法を想像しなくても良い点。発動場所が限られているので、その代償として、捧げる魔力が少ない点。
効果で差別化しないのであれば、もう一つある。魔法と魔術が決定的に違う点が。
「魂に刻まれる事と体に刻まれる事。それが魔法と魔術の相違点で、俺が幻想的、理想的と比喩した原因だ」
「魂と体……?」
「魔法や魔術、取得とか使用できるの限られてるでしょ。魔法の場合は魂に刻まれる。人の身ではどうしようもない領域が魂だから幻想的。魔術は体に刻まれる。だから、適正外の魔術を使えば体に適性あるものより負荷がある。でも、肉体改造ができない訳では無い。だから理想的」
人間に理解が及ぶから、魔術は理想的。人間には理解が及ばないから、魔法は幻想的。そう分けているのだ。
その説明を聞けば、「なるほど」と口にしながら頷いた。そして「そんな視線があったんだ」と言わんばかりに驚きの表情を浮かべながらも。
「偉業を積み過ぎた者は、格が上限を突破してしまって魂への干渉が可能になるけど、ほとんど無いと思ってくれて良いよ。人間からしてみれば数え切れない程の年数を生きているルイズであっても、成りかけだ」
「ふーん、そうなんだ。……いやいやいや!?ボスって成りかけなの!?」
「そうだな。まあ、肝心のルイズは成るつもりは微塵も無いみたいだが」
「え?なんで?」
何で、と問われても成るつもりが無い、しか説明は不可であろう。本人では無いので、感情を全て理解できる訳では無い。
付き合いが浅く、感情を全て理解できなくとも、理解できるものはあると言えばあるのだが。それは何故成るつもりが無いか、の大雑把な理由。
至りたく無いのだろう。魂への干渉が容易に可能となる超位存在へと変化したく無いのだ。
「変化が、嫌?」
「正確には、上に進化する事での変化では無く、今のまま成長して変化する事を望んでいるんだよ。それができてしまうのは、神々だから。人間なんとして戦う選択をしたルイズにとっては、嫌なんでしょ」
でなければ、ルイズが更なる魔法や魔術の段階に進んでいる筈だ。異形へと変化する事は良しとしていても、憎む怨敵である魔神と同一の超位存在に進化する事は許容不可能なのだろう。
魔神に対する異常なまでに高い憎悪と怨み。これだけの悪感情があるのに、倒す為に魔神と同じ存在である超位存在に至れ、という方が間違いである。
「そっか。そうなんだ。納得したよ。ちょっと前から疑問を抱いてたんだ。でも、解消された。ありがとう」
「ん、なら良い」
お礼としてか、クリスは頭を撫でてくるが、拒む理由など無いので受け入れる。武器を持ち、長く使ってきた事で発生した手ダコが頭皮に当たるのだが、クリスの努力を受け入れ、体で感じれるようで、心地よい。
赤き髪が、手に触られる事によって揺れる。貴族だから、と身だしなみを気をつけているからか、触る手は決して心地よく無い、という訳では無さそうである。
「どう?長男のグリムさん。甘える事をしなかった自分が、私の手で溶かされる気分は」
「さいこー。暖かさって言うのかな。血と罪によって塗り固められた罰の自分を壊された気分。誰かに頼るというのは長男にとってあるまじき行為だと思ってきた。けど、クリスが、ルイズが肯定してくれた。恥ずべき事では無いのだ、と教えてくれた。長男としての面は嘘じゃない。そして、誰かに甘えたい面も、決して嘘ではない」
隠しておきたかった自分。認めたく無かった自分。最後の最後まで知られたく無かった自分。墓まで一人で持っていくつもりだった自分。そしてそれを壊された自分。それが今のグリムだ。苦しんで、嘆いて、その果てにあったのが人間としてのグリムだ。
思いが闇に堕ちて、全てを捨ててしまいそうに、諦めそうになっても、立ち上がった戦果が今なのだ。
己が成してきた事、己が歩んできた道。その全てが間違っていない、と言われるかのような肯定。兵器として血を被ってきたのも無駄では無かった。それは、『最高』以外しか言葉が無いだろう。
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