第17話 天災を生きる獅子+暗を生きた猛獣 Ⅵ
「グリム、君ってロスト魔術はどれ程使えるの?」
どれだけ広いのか、一切分からないヴリアルケルンの組織本部を歩いていれば、ルイズから質問が来た。ロスト魔術、それは『失われた神話の技術』の魔術を略称したものだ。
今使用可能なロスト魔術は『天誓魔術』以外にも様々な魔術が存在しており、最初に覚えた『空座魔術』から始まり、『星世魔術』、『始竜魔術』など、様々なロスト魔術が使用可能だ。
「完璧に覚えているのは13。新たな魔術を作り出したのは5」
「やっぱり君、異常だよ。ロスト魔術は現代では失われた古の技術で、それもその時代の上澄に作られたもの。今の人間では新たに作り出すことは不可能」
「だけど、俺が成してしまったと。なるほど、ある程度の偉業を成したか、と思っていたけどそれ以上とは」
前からロスト魔術を簡単?に覚えていた己には薄々異常感を感じていたのだが、他人から言われてしまうと一気に自覚をしてしまうというもの。
元より魔法や魔術の才能が飛び抜けているテスタロッサ家の血統に加え、常人とは比べ物のならない才能を持っているので異常なのは生まれた時からだったかもしれない。
「手札を少しだけど明かしてもらったお礼として、僕も使用可能なロスト魔術を教えてあげるよ。一部のみで使用可能なロスト魔術が32。完璧に覚えているのが5だね。一つ言っとくけどね、余程適正が高くなければ、数年なんかで覚えられない。完璧になんか尚更。僕はいい方だよ」
その説明、ありがたいが今は本当に辞めて欲しい。「常軌を逸している」という言葉の根拠をグサグサと心の中に刺していくのだから。
言われれば言われる程、己が異常過ぎて自分が何者かが分からなくなってくる。精神的に、の意味ではなく、肉体的に、の意味である。
「うーん、まあどうでも良いか」
「どうでも良いんだ」
「例えどんなに俺が人間を辞め、化け物に変化してしまっても、俺が守るべき奴等は変わらん。何があろうとも、俺はテスタロッサ家の長男だからな!」
「へぇ、良いお兄ちゃんじゃないか。その言葉、忘れんじゃ無いよ、お兄ちゃん。……此処が会議室だよ。君と出会った幹部が勢揃いしてる」
扉を開けば、最初に飛びかかって来たのは黒髪の短髪男だった。魔力から見るに、グリムが初めて聞いた独特の訛りの持ち主だった。
首に腕を回し、抱きついて来た男に驚きながらも、グリムは苦笑いを浮かべながら受け入れる。
「久しぶりやな、グリムはん!ワイ等が初めて会ぉた時は敵としてやけど、こうして仲間として会える事を待ってたんや。ワイの名前はイド・ハヤカワや。にほ……ゲフンゲフン!極東の地出身の魔法使いやで」
「極東、確か西洋の地であるインドグラム王国の魔法、魔術体系とは大きく違う物が主体の国々だと。教えもらってもいい!?」
「オーラの事言うとるんか?東洋の連中が魔法を使うのなら兎も角、西洋の連中がオーラを使うのは厳しいと思うけどな。西洋って基本的に、魔法や魔術を使うのに特化しているから。努力をすればある程度使える魔法と違って、才能が97%必要やし」
グリムの希望を叩き折ってしまうかも、との思いで申し訳そうな顔をするイドであるが、グリムの読みは全く違う。
この程度で、グリムが諦める訳がない。難易度が高いのなら、更に胸の鼓動は高まり、熱くなるというもの。才能が必要だから、と即座に諦めはしない。全部をやった。己が持ち合わせる物を全て使い、それで諦めたのならまだ良い。
だが、する前から諦めるのだけは嫌だ。だから、先ほどよりも更に瞳を輝かせるのだ。
「イド、俺には世界で一番嫌いな奴等が居るんだ。何か分かるか?」
「妹や弟を狙う奴とか?」
「それも嫌いだが、違う。俺が最も嫌いなのは、挑戦をせず、諦める事だ」
「つまり諦めへんと?それでこそグリムはんやで。ええで、オーラの事教えたる!」
「よし!」
「「教えたる」、「よし!」じゃないでしょうが!此処に何しに来たのか忘れた?グリム、そして幹部を集めたのはザ・ゴールデンの対処のため」
熱き手を交わした二人に声を掛け、凍てつく氷の視線を浴びせる者一人。ヴリアルケルンのボス、ルイズだ。
先ほどまでは穏やかな顔を浮かべていたルイズであるが、今は勝手に行動をしようとしているグリムとイドを咎めるかのような視線の質だ。色が濃いヴリアルケルンをまとめる為には必須なのだが、切り替えが早い。
いずれテスタロッサ伯爵家の当主にならなければいけないグリムにとっては、見習わなければいけない事だ。同じ配下を持つ者として格を見せつけられ、羨望と憧れを抱きながら頷く。
「それじゃ、話そうか。本題の話、ザ・ゴールデンに関しての話を」
「了解、俺が持っている情報から言った方が良い?」
「いや、先ず僕らが持っている情報を話すさ」
「俺が持ち逃げをするかも、という心配は無しか?」
「その為に此の部屋に張り巡らせてるロスト魔術だ。まあ、君がする訳ないだろ。何があろうとも、妹や弟の味方なんだろ?頼りにしてるぜ、お兄ちゃん」
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