第16話 天災を生きる獅子+暗を生きた猛獣 Ⅴ

「それ、本当なのか」

「本当だよ。ボスに聞いた所、間違いない。ザ・ゴールデンとヴリアルケルンの丸薬を作ったのは同じ科学者」


ヴリアルケルンの組織本部に向かうため荒野を移動しながら、何故丸薬があんなにも似ていたのか、と質問をすれば驚くべく答えが返ってきた。二つの丸薬を作った者は同一人物だという事。


確かにそうであれば、納得はいく。あれ程までの丸薬の緻密な設計。並大抵の者に可能な訳がない。だが、納得がいかない部分もある。


一体どうして丸薬を作ったのか。それも二つの組織に。金にがめついと言われれば其処までなのだが、心の中に妙な不安感が渦巻く。調べたところ、ザ・ゴールデンにもヴリアルケルンにも今は属していない。


「なんの目的か、分かるか?」

「ごめんけど、分からない。組織の中の一番の仲だったボスは「騙された。何で気づかなかったんだ」と言ってたけど」

「なあ、クウォンツ。もしかしてその後に「いや、俺は気づきたくなかったんだ」とでも言ったか?」

「えぇ、何で知ってるの?結構怖いんだけど。まあ、一人称は僕だから少し違うけど、些細な違いかな」


肯定、その言葉に不安感が更に強くなり、一度心の中に立てた仮説が確信に近づいていた。


「騙された」、「気づきたくなかった」、「緻密な構造をした丸薬」。これだけの情報があれば大体理解できる。まだ本人に聞いてはいないので完全には分からないが、立てている仮説は真実だろう。


「皮肉なモンだな」

「皮肉?何がよ」

「いいや、此方の話。まあ、もうすぐ知る事になるだろうからな」

「そうなの?」


二人は空を飛ぶ魔術の出力を高め、高速で飛んでゆく。







「うっわ、大変そうな組織本部だな。管理大変だろ」

「本当にそう何だよね。ボスが組織成立記念に此処を魔法で創ったんだけど、気分をあげ過ぎて」

「物体生成魔法を使う事ができる魔法師が気分をあげ過ぎちゃうとこうなるよな。一番気分が大事な魔法だし」

「その通りさ!今の魔法師に分かってもらえるのは嬉しいね」


巨大な扉を通り抜けた二人の目の前に突如として現れた少年。その者は金髪に碧眼をしており、一部の令嬢に人気がありそうな可愛らしい幼い見た目であるが、中身は全くの別物。幼い容姿とは似ても似つかない、多くの年を見た賢獣。


老骨と言うには獰猛な意志は消えていない。ただ、世界を見る手段を覚えただけ。置いてなど居ない賢獣が目に間に立っていた。己でグリムの力を確認する為か、ヴリアルケルンのボスの体から発せられるは強力そのもの。


ピリピリと体が痺れるような初めての感覚に恐怖を抱きつつも、髪と同じ唐紅色の瞳で情報を脳に渡らせる。


「『狂犬』の名に間違いは存在していないみたいだね。僕に闘志を向けるどころか、噛みつこうとしている。懐かしい、ユートを見ている気分だ。狂犬は受け継がれているんだねえ。それが良いのかは分からないけど。あ、自己紹介はまだだったよね。僕は組織内ではグリウェスの名を持っていて、本名はルイズ・ゴースト。昔は霊王と呼ばれていた。博識な君なら、分かるよね?」


博識、と言われているが、グリムは心の中で超速の速さで頭を交互に横に移動させて否定をする。当たり前だ。博識の度合いで言えば王都の文官貴族達の方が遥かに上。グリムにあるのは妹達が何処からか拾ってくる本の知識とテスタロッサ家にある知識のみ。


そんなグリムであるが、霊王の存在は知識の中に存在している。「なんか貰った」と渡された本に書いてあった。その本は歴史の内容であり、インドグラムの建国を記された本だ。そしてその中には、初代インドグラム王国国王のムーヴァ・インドグラムの友人の霊王、ルイズ・ゴーストも。


「ムーヴァ・インドグラム」

「やっぱりさ、君はっきり言って異常だよ。それ分かってるの?インドグラム王国の一般公開されている歴史の中に初代国王は無い。それは貴族でも。王族の中でも一部、歴代の王と次期王の王太子しか閲覧ができない禁忌書庫にしか存在していない情報を君は知っている」


魔力の圧が段々と高圧力へと変化する。纏っていた自然体の魔力が暴れ始める。魔法など、一切使われていないのに、魔力の籠った雷が周囲を襲う。難易度としては魔術を並行して千を扱う程の難易度だった筈なのだが、平然と使用している姿に心が折れそうだ。


妹達が渡してきた本の内容に「何でそんな物持ってんだ」、と驚きつつ感じていた事を言葉にする。


「霊王は一般でも知られてるでしょ」

「だからと言ってもムーヴァには結びつかないんだよ。霊系の魔物を統べる者。生まれながらにしての王者。魔物の中では珍しい人間に友好。だから、世間には広がっている。有名になっている。果たして、その中に初代国王の友人はあったかな?」


何と言うべきか、流石インドグラム王国の建国前の最低二千三百四十二年を生きた魔物、と言えば良いのか。人間のグリムとは経験が圧倒的に違うらしく、着実に、確実にグリムの知識は異常だと突きつけてくる。


本当に異常なのは妹達の方なのでは、と思う気持ちがあるにだが、同じくらいにおかしい己を自覚しているのでその言葉を押さえ込む。古代魔術の一つである『天誓魔術』を殆ど解読し終わっているのだから。


「君に聞きたい事が幾つかできた。けど、今は歓迎をしようか。ようこそ、グリム・テスタロッサ。ヴリアルケルンによくきたね。我が同胞」

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