第5話 魔法師&魔術師
魔力や魔術、魔法の『れっすん』の開始を口にした後、物体生成の魔法で魔法師としての姿、白いローブに藍色のキャップ帽に着替える。此の姿は戦闘時や魔力関係を教える時にしか使用しないので、クミにとっては新鮮そのものだ。
「先ずは『れっすん』Ⅰ。魔法師や魔術師が良く使用する道具は杖。種類は大雑把に分けると二つになる。一つは長い杖、砲台魔術師や砲台魔法師と呼ばれる者が良く使っている杖だね」
着替える時に使用した魔法で長杖を取り出す。とは言っても、見た目だけを真似たので、杖としての性能は皆無に等しいのだが。まあ、種類を説明する為に生成したので、このような性能な長杖でも構わないだろう。
空中に浮いている長杖の隣に、物体生成の魔法を使用して新たな杖を浮かばせる。長杖と比べてみれば、新たに作り出した杖の小ささが際立つ。
「この短い杖は近距離で魔法を放つ魔法師や魔術師が良く使う杖だよ。魔力を多く貯める事ができ、強力な力を持った魔法を放てるのは彼方の長杖。でも、この短杖には長杖にはない『めりっと』がある。それはスピード」
短杖が近距離を好む魔法師や魔術師に使われている理由としては、大きさが小さい為、魔法や魔術の式を一瞬の間刻み、魔力を流してから発動する時間が少ない。この短杖でも長距離のものや、威力を高める事は可能。
けれど、長杖と同格な魔法や魔術を発動しようとすれば、許容量を軽々しく飛び越え、爆散してしまうだろう。其れ等の『めりっと』、『でめりっと』が存在しているので、杖使いの魔法師や魔術師は不器用と呼ばれているのだ。
短杖、長杖の説明を終え、物体生成の魔法で生み出した二つの杖を異空間に収納をする。
「次は『れっすん』Ⅱだ。この段階に着けば、杖を使わなくても魔法などを発動できる。初心者は杖から試して段々と魔力を体に馴染ませていくのだけど、クミは必要が無いよね。とは言っても、慢心は駄目だからな。現役の魔法師や魔術師は魔力を体に纏わせているのが自然体、と言われるだけあって練度は高いからね」
「兄様が私の『激槍』を弾いたのも魔力を纏わせるのが自然体、というのかしら」
「正解、とは言えないかな」
確かにクミの『激槍』を弾いたのは魔力による物ではあるが、自然体の魔力からでは弾くことは不可能だ。低級な格の魔法であり、幼稚な魔力操作ならば自然体の全身魔力纏いで対処可能である。けれども、クミが撃ち放った水の魔術はその限りではない。
『激槍』はクミが生み出した独自の魔術とは言え、格だけならば上にも並ぶ。魔力操作のレベルに関しても、クミの魔力操作は幼稚と呼ぶには高すぎる。
この点から、『れっすん』Ⅱではクミの魔術を弾くことができる確率は零そのものである。まあ、『れっすん』Ⅱだけであるなら、という話であり、『れっすん』Ⅱ以降を使用する事になれば変わってくる。
「正解じゃないなら何なの」
「俺は完全に不正解とは言っていないよ。自然体で全身に纏っている魔力、を『れっすん』Ⅲで利用をするのさ」
「レッスンⅢを?」
「そうだよ。『れっすん』Ⅲは簡潔に言ってしまえば、自然体の魔力を利用するという事」
というか、どの言葉で説明をしたとしても、簡潔になってしまう。『れっすん』Ⅲで行う事など、自然体の魔力を利用し、操作する事しか存在しないのだから。
しかし、決してこれだけなのか、と侮ってはいけない。難易度順に上がっていく『れっすん』の中、何故三段階目に位置しているのか。難易度が高いからだ。魔力を体に馴染ませ、自然体の魔力を利用する『れっすん』Ⅱよりも遥かに。
そうグリムが説明をしても、腑に落ちないらしく、不思議そうな顔をしていた。クミが抱いている感情は、グリムにとって理解が可能だ。父親であるイノセンスに教えられた時、同じ心境であった為。
けれども、挑戦をすれば、
「少し、試してみようか。クミは魔力が体に馴染んでいるけど、自然体の魔力へは届いていない。けど、それは一歩手前だ。少し一工夫を加えでもしたら上手くいくさ。ほら、イメージをして。体に魔力がまとわりつくようなイメージを。己の意思とは関係なく」
「それ、割と気持ち悪い気が……というか、何で自然体の魔力がイメージで完成するのよ」
「だって魔力関係なんてイメージ次第でどうとでもなるし」
グリムの言葉に疑心暗鬼になるクミであるが、全くもって嘘は吐いていない。まあ、魔法師兼の魔術師である自分から見てもこの原理は少しおかしいのではないか、と思わなくはないのだが。
呆れた視線で此方を見つめるクミに苦笑いを表に浮かべながら、手を掴む。イメージで体に自然体の魔力が纏われるとは言え、普段から魔法などのイメージをしないクミにとっては辛いだろう。
「……嫌悪している感覚と歓喜をしている感覚で良く分からないわね。ミカ……姉様に精神侵入の魔法を受けた時と似てる気がする。その時よりかは抵抗感が少し無い気がするけど」
「君たちは一体何をしているんだよ。ほら、乱れてるよ、魔力。もう少し魔力に集中をして」
「分かってる。でも、もう少しの所で上手くいかないのよ」
苦戦をしているクミの口から発せられた言葉。一瞬、グリムは何を言っているのかが理解できなかった。立てていた見立てとしては、一歩手前だった筈。それなのに、まだ自然体の魔力へと進めていない。
一歩など、とうに通り過ぎている。才能によっては常人よりも長く時間が掛かるのだが、成長が早い方のクミ。魔力の扱い方も上手い。クミに対しての推測は間違っていないと感じた。それは今も。
(おかしい。才能としては十分だ。けど、事実は到達できていない。まるで制限があるみたいに……まさか)
一つの仮説を立てた。その仮説とは魔力を行使する器官に問題があるのではないか、という事。魔力器官に問題がある生命体は絶対に自然体魔力が発動不可能だ。
そしてもう一つ、仮説が脳内に降臨した。それは天然では無く、故意に魔力器官が障害とされた可能性。
確かめる為、グリムの魔力をクミの体内に侵入させ、探っていれば、答えは見つかった。枷が存在していたのだ。幸いであったのはグリムが解く事が可能な枷だった事か。
「あ、さっきまでの感覚が消えて、新しい感覚が浮かんできた」
「おめでと、成功だよ」
表の顔は妹の成功を祝う感情であるが、裏の顔としては、不安と不愉快さで埋め尽くされそうだ。
(少し、彼方側を探る必要が発生したみたいだね)
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