第3話 自称普通の伯爵子息 Ⅲ

イージスによって崩れた地面を結界を壊す事で地面を修復をしたグリムは、土に汚れた体を綺麗にする為、風呂に体を浸からせていた。ミカが湯を出す魔具に付与をした疲労回復の魔術でゴーレムの一万人組み手や結界破壊、地面修復で作られた疲労は回復していたが、これからの事を考えれば新たな疲労が出てしまいそうだ。


あの結界を最初に作り上げるのに掛かった時間は三年だ。結界の案はミカが二歳の時に出ており、日頃からミカから「この部分はこうした方が良い」と言われていたのにも関わらず三年も掛かったのだ。一年が経ったおかげで完成した時よりも魔力操作のレベルは高くなっている。……が、それでも時間がかかるのは確定事項であろう。


せめて二年以内に抑えたい所。その理由としてはグリムとミカが発明をした結界が魔獣を寄せ付けない防御壁として働いているからだ。グリムが居る間は、現当主のイノセンスと協力をし、魔力で威圧をしているので問題はないが、未来は別だ。貴族は十になれば王都の学園に行かなくてはならない。それはグリムも同じ事。


魔力による威圧はイノセンス一人では不可能だ。長くの時、長くの戦で洗練され、王からは人間で勝てる者はいないと言わしめ、【夢想者ファントム】の名を持つイノセンス。経験はまだまだ浅いが、大幅な魔力を持っている為、イノセンスに「時が経てばどうせ追いつく」と口にさせたグリムが居て可能となっているのだ。


つまり、学園に行く時期に入ってしまえば、イノセンスの負担が一気に強まってしまう。グリム的にはその状況は回避をしたいのだが、いかんせん結界を2年以内に作り上げるビジョン未来が頭の中に思い浮かばない。昔に三年以内で完成をしたとは言え、今が二年以内に完成を終えれる訳では無い。昔は奇跡のような状況であった為、尚更。


どうすれば良いのか、と思考を巡らせ、片手の親指と中指で掴み、ため息を吐いていると、隣から『チャポン』という水音がグリムの耳に響く。テスタロッサ家のメイドや執事などの使用人達は基本的にテスタロッサ家が入り終わった後ならば入る事を許可されている為、使用人達ではないだろう。


家族であるミカや次女であるクミの線は無いだろう。まだまだ幼いとは言え、伴侶では無い男と共に混浴というのは『品に欠ける』と母親であるフィナ・テスタロッサから教わっているので二人も違うだろう。それはフィナも同じことが言え、選択肢から外される。ウェルトは今、テスタロッサ家が雇っている庭師の手伝いに行っているので、それも違う。


答えを求めるように、グリムが首を動かして隣を向けば、右の瞳に大きな切り傷があり、その他にも火傷の跡や打撃の跡、斬撃の跡が痛々しく体に刻まれている男、イノセンスが入っていた。数ある選択肢から弾き出された答えはイノセンスなのだが、脳で理解していても驚くものがある。


普段は予定であれば、書斎でテスタロッサ家の当主としての書類仕事がある筈なのだが、今はグリムの隣で心地良さそうに湯を楽しんでいた。体を見る限り、体を綺麗にする魔法か魔術が使用をしているようだ。なら風呂に入る意味は無いのでは、と思ってしまうのだが、疲労を回復する為だと納得をする。


「随分と悩んでいたようだが、大丈夫か?」

「ええ、問題ありません」

「……すまないな、グリム。お前にばかり背負わせてしまっている」

「構いませんよ、とで口にすれば良いのでしょうか。というか、父上の方が苦しい運命を歩んでいるでしょう。父上、俺は貴方に色々な恩があります。産んで頂いた恩だけでは無く、様々のものがあります。その為ならば、何の不安もありません。全てを背負って見せます」

「そう…か」


グリムのその言葉にイノセンスは苦虫を噛み潰したような顔をしており、何故そのような顔をするのかが理解不可能であった。今グリムが話していた内容は決壊に関しての筈だった。違う話の話題なのか、と思いはしたが、気にすることはないだろうと頭から考えを消した。


それから数分後、長く浸かってきたからか、体が熱く変化してきた。結界の件もあるので、長く風呂に居るのは得策ではないと考え、イノセンスに一声を掛けてからテスタロッサ家の風呂場から外に出た。その時に声を掛けたイノセンスの顔が風呂場に来た時と変わらず苦しそうな顔をしていたことに気付かないまま。







「グリム、何処まで優しいのだ。お前は。…息子に罪を背負わせる男など」





もし、この時グリムが気付けていたら未来は少し変わっていたのかもしれない。もし、イノセンスが抱いていた勘違いを治せたのであれば、グリムが変人になる事は無かったのかもしれない。ただ力を持っているだけの人に収まっただろう。


けれど、未来を変えることなど不可能である。グリムの覇道であり、魔道の歩むべき道が切り開かれる。


イノセンスの言葉と共に、時間の針は一刻一刻と未来へと迫っている。古代の者が「知る必要など無い」、と消し去った事実が現代に蘇る。天災と人類が評した魔物でも魔獣でも神でも人間でも無い。天災としか言いようが無い、人智の叡智では届きようもない高み。


天災が地に降臨をする。ソレには世界を救いたいなどの崇高な目的がある筈も無い。それどころか、異性に好かれたい、という欲望が常に山頂レベルの目的も存在していなかった。心の中に住まうのは純心。面白い、楽しい、高めたい…そんな心の求心。


助けたいから助け、助けたくなければ助けない。純粋だからこその恐怖。制御が効かない、常に暴走している状態。故に人は呼ぶのだ。天に住まう神や天使でさえ恐れる災害、【天災】と。

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