第2話 自称普通の伯爵子息 Ⅱ

剣で岩などを切り裂く時の特有の音が流れ、同じくして崩壊音も周囲に散る。


「ウェルトとの特訓……」

「ハァ、ハァ……やめてくださいよ、グリム様。

ウェルト様の死骸を見るなんて、俺嫌ですからね」

「ホント、失礼だよな。お前ら俺の事なんだと思ってんだよ」

「……人外?」


グリムに向かって失礼な事を連発している騎士はイージス。テスタロッサ家が保有している騎士団を統括する騎士団長の右腕、副騎士団長の地位に就いている男である。


これが悪気があったのなら、怒りようもあったのだろうが、そんな物を抱かない純粋側の人間である為、怒るに怒れない。


ため息が自然と口から洩れる。鬼と、人外と言われるのは鍛錬の難易度からくるものだろうが、それはグリムにとってどうしようも無い。伯爵家としての次期当主として強さを高めていき、辿り着いた鍛錬方法がこうなのだから。


「イージス。何休憩をしてるんだよ」


ゴーレムの首を切り裂いた後、左右から迫る武器を粉微塵に変化させ、大雑把に斬り飛ばす。魔力と土と岩に化した物なんて気にせず、まだまだ存在しているゴーレムに剣を振るう。地面に手と足を付きながら荒い息をしているイージスに呆れの声を掛けながら。


例え、テスタロッサ家の騎士達(団長と副団長を除く)相手に余裕を持って相手可能なグリムであっても、数時間前に召喚したゴーレム軍団には辛いものがある。魔法や魔術を使えるなら別だが、今は使えない。魔力が使用不可の結界を貼っているからだ。


一番の理由としては、ゴーレムの百人組み手ならぬ一万人組み手なのだから。


「何で一万も…少しの軍勢じゃないですか」

「俺だって此処までは相手したくねえよ。気軽に鍛錬するのは百人組み手が丁度良いのに。というか、原因お前だからな、イージス」

「い、いやあ、何言ってんのか良く分かりませんねえ」


分かりやすく冷や汗を流すイージスに、グリムは呆れで顔を顰め、今日何度目か覚えていないため息を口から放つ。


何故一万人組み手をする事になってしまったのか、ソレはグリムが言う通り、イージスに大部分の非がある。どれだけの非があるかと言えば、九割九分九里イージスの責任だ。長く説明する程内容は存在していないので、サラッと言えば、ミカに自分を見せ付けたい気持ちによる物である。


何か言って良い事があるのなら、一つ言いたい。「お前等の恋人の出来事に俺を巻き込むんじゃねえ」、だ。ブラコン、シスコンと自他共に評し、評されているグリムであるが、流石に此の一万人組み手に関してはそう口を出したくなる。


現当主であるイノセンス・テスタロッサや次期当社であるグリム・テスタロッサに交際を認められているのだが、恋人の関係に深く踏み込んでいる__踏み込まれているような気がするが__のは少々面倒なものがある。


「此のままだと日が暮れるまでには間に合わないな。ったく、あんまり使いたくないんだけどな。

まあ、『しゃあなし』?って所か。少し、派手にやろうか、イージス」

「分かりました、やりましょうか。グリム様。一天燈火……準備は完了です」

「おーけー、俺もだ」



「「一天燈火、零!」」


斬撃がゴーレム達に降り注ぐ。本来『一天燈火』は魔法や魔術を武術と混合して扱うテスタロッサ家に伝わる技なのだが、【零】は別だ。【壱】や【弐】、【参】などの『一天燈火』は魔法や魔術の達人である先人当主だったので魔法や魔術の混合型となってはいるが、グリムが開発した【零】の『一天燈火』は違う。


端的に言えば魔力には頼らない物理な物。魔法や魔術を携わる者にとっては意味不明な象徴であり、「アホかお前」と言われるような技。いや、言われた技である。


そんな技が数千にも及ぶ範囲でゴーレム達を襲うが、千程残っている。けれど、問題は無い。ミカ風に言ってしまえば、『のーぷろぐれむ』というものだ。千で問題になる程、柔な鍛え方をしていない。イージスも、グリムも。


魔具でも何でもない鉄の剣が地面を切り裂きながら、ゴーレムを行動不能にさせる。二回目の斬撃はグリムでは無くイージス。その威力はグリムよりも更に大きく、地面を深く切り裂き、ゴーレムは放たれた斬撃の質量に消し飛ばされ、魔力、魔術、魔法不可、能力低下魔術が付与されている結界に割れ目が発生する。


(あれ、治すのは相当大変なんだけどなあ…)


現状で使用可能、修復可能なのはグリムしか存在しないので、一人でする事になりそうだ。その事実によって発生した少量の怒りを発散する為、一人のゴーレムの腕を力強く掴み、周囲を巻き込むように回し続ける。


岩で形成されているので、威力としては十分だろう。数回、十数回、数十回、百数回と衝突をしていれば、崩れ去る。振り回していたゴーレムが。岩で形成されているとは言え、人間では信じられない怪力で当てているのだから。


続いて目の前に存在しているゴーレムの腕を掴んだ後、再度振り回そうとしていれば、体が一気に揺れた。地面を見てみると、亀裂が発生していた。背後を緩めで硬めに首を動かし、信じたくないの一心で瞳に映せば、映っているのはイージス。


剣を地面に刺し、其の地点を中心に亀裂が広がっていた光景であった。









「ジーザス!!君本当にやらかしてるねえ!」


地面が崩れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る