探していたもの

 男が大きくため息をつき自分の座っていた椅子にマリオネットおろし、バラバラになってしまった部品を全て拾って荷物から工具箱を取り出す。

 その様子をマリーは目だけ動かしてじっと見つめた。それに気づいた男がわずかに驚いた反応する。


「まだ動けるマリオネットがいたのか、珍しいな。あいつらこれが動いたから持って帰ってきたのか」


 男もマリオネットをきちんと見るのは久しぶりだ。旅の途中で朽ちたマリオネットはいくらでも見てきたが動いているものを見たのは子供の時以来だ。あの時も動くマリオネットはもうほとんどいないだろうと言われているくらい珍しいものだった。


「直せってなあ……俺は人形師じゃねえぞ」


 ぶつぶつ言いながら簡単にマリーの体の構造を確認する。いわゆる子供が遊んだりする普通の人形となんら変わりない単純な作りだ。手足を軸で繋ぎ、少しだけ歯車が使われ動きを滑らかにしている。

 両腕ははめれば動きそうだが、左足は軸が折れているため新しい物が必要だ。男は外にあった適当な廃材を持ってくると似たような形に加工して足をつける。ついでに関節に溜まった土などを拭き取った。

 すべてつけてみたがマリオネットは動かない。不思議に思い声をかけた。


「なんだよ、動けないのか? 動いてみろ」


 すると動かなかったのが嘘かのようにむくっと起き上がり地面に立つ。そういえば祖父が言っていた、マリオネットは人間の指示がないと動かないと。このマリオネットは今までどんな命令で動いていたのだろうか。

 マリオネットはその辺をたたっと走りぴょんぴょんとその場で飛び跳ねたりした。そして足を持ち上げた時、右足は何もなかったが男がつけた左足はキイキイと音がする。どうやら軸の大きさが合っていないようだ。


「作りは単純なんだけど少しでも大きさが違うとすぐに音がなる。簡単だけど難しいんだ」


 シャムはいつも軸の微調整をするとき言っていた。右足はシャムの腕が動いているとき最後に調整してくれた箇所だ。左足を動かし、キイキイ音を鳴らしてからマリーはじっと男を見る。無言の圧力に男の顔が引き攣った。


「なんだよ! 不満ってか!? 下手くそだって言いてえのか! あのな、設計書もなしに見よう見まねで作ったんだぞ! 人形師でもねえのに。感謝しろとまでは言わねえが無言で責めるのやめろ!」


 言いながらも職人としての矜持が少し傷ついたため調整しようと手を伸ばしたが、意外にもマリオネットは男の腕を掴んで拒む。不思議に思っていると両手で男の腕を掴みぐいぐいと引っ張った。


「ああ? もしかしてまだいるのか、マリオネットが」


 人形に表情などないししゃべれない。しかし今目の前のマリオネットが必死だというのはよくわかる。大した力ではないが決して手を放そうとはしない。


「あのな、俺は人形師じゃねえ。それに暇でもねえよ、そろそろここを出るからな。だいたいお前らの体なんつったっけ、ナントカって特殊な木だろ。材料もねえのにそう簡単に」


 そこまで言うとマリオネットはパッと手を放し、てててっと男の後ろにまわる。ぴょんとはねると器用に背中にしがみついた。その場飛びでそんな高さまで飛べるのかと驚いていると。


べしべしべし!


 しがみつきながら右手で男の頭を叩き始める。力はまったく強くないが、何せ木でできているので人間の手で叩かれるのとは訳が違う。


「いて! いててて! いてえよやめろアホ!」


 マリオネットは叩くのをやめない。引き放したくても背中に張り付いたものをとれるほど器用でもない。ああもう、と諦めて男は叫ぶ。


「わぁったよ! お前のお友達も直しゃいいんだろ!」


 そう言うとマリオネットはぴょんと背中から飛び降りて男の手を掴み再びぐいぐいと引っ張った。はああ、と大きくため息をついて小さなカバンを持つ。荷物すべてはかなりの量があるので最低限だ。マリオネットを直したら戻ってきてここを出よう、と族長を探す。

 いまだ手を引っ張り続けるマリオネットを荷物を持つように持ち上げる。マリオネットはバタバタと暴れているが、だき抱えたりおぶったりしたらまた叩かれそうなのでそのままだ。


「族長に挨拶だけさせろ、人間には人間の習わしや礼儀ってのがあるんだよ」

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