荒野の中の出会い
動けなくなって一体どのくらい時間が、日数が過ぎたか。バタバタとマリーに走って近寄ってくる足音が聞こえた。それは大きな足音ではない、マリー同じ位の大きさの小柄な体。
「ほら、やっぱりククだよ」
「ほんとだ、初めてみた」
幼い子供二人はマリーを見て興味津々といった様子で覗き込んでいた。マリーがわずかに身じろぎをすると二人は目を丸くして驚いた。
「今動いたよ」
「動くククはもういないっておっちゃん言ってたよ。風で揺れたんじゃないの」
マリーはもう一度体を動かす。立ち上がることができない、手足を動かすこともできないがギイギイと音を立ててわずかに体を震わせる。それを見ていた子供二人は先ほどよりもさらに大きな声で驚き飛びのいた。
「やっぱり動いた」
「すごい、動くククがまだいたんだ」
二人は協力して倒れているマリーの体を起こした。あちこち傷だらけで膝のあたりはすり減っている。片足は取れてしまっていて、なくさないように一人の子供がそれをしっかりと抱きしめた。
「どうしよう、壊れちゃいそうだよ」
足を持っていない方の子供がそう言ってマリーの体を確かめようと持ち上げたとき、パキッと音がしてマリーの左腕が取れた。二人は一瞬固まったが悲鳴をあげる。
「取れちゃった!」
「ばか、壊さないでよ! ククは大事にしなきゃだめなんだよ!」
「壊してないよ! どうしよう、どうしよう」
半泣きになってしまった子供にもう一人の子供がそうだとパッと笑顔で言った。
「おっちゃんに直してもらおう! どうせ暇だし」
「そっか、おっちゃんだったら直せるかも。絶対暇だし」
二人は持ってきていた大きなカゴにマリーをそっと入れるとカゴを背負い急いで自分たちの集落へと走る。
ギャーギャーとうるさい兄弟に薪でも拾ってこいと追い出して、ようやく静かになったので本を読んでいた時。
「おっちゃん!」
「おっちゃん!」
二人同時に叫ぶうえ、まるで輪唱のように何度も何度も叫び続けるので男は眉間に皺を寄せながら本を閉じた。薪を拾ってこいと言ったのにこの早さで戻って来たのなら多分ろくに拾っていない。
「うるせえ、ハッカ、モダ! 一人一回呼べば聞こえてる!」
子供たちよりもはるかに大きな声で怒鳴った男はせっかく静かになったのにとぶつぶつと独り言を言いながらゆっくりと立ち上がった。
男は旅をしながら自分で作った装飾品などを売る行商している。人がほとんどいないこの地で本当にたまたま運良く流浪の民と合流することができ、この半月あまり世話になっている。
流浪の民たちは心が広く男にもまるで元からいた仲間のように接してくれた。あの幼い子供たちは初めて見たよそ者に興味津々で朝から晩までぶっ通しぐらいに付き纏ってくる。
「おっちゃん、どうせ暇でしょ。直して!」
「おっちゃん、やること何もないだろ、直してよ!」
「一言も二言も余計だ! 何を直せって!?」
急いで走ってきたニ人はカゴの中を見せる。その中を見た男は驚いて目を見開いた。
「マリオネットじゃないか、お前らどこで見つけたんだこれ」
「あっちにいた。腕が取れちゃった」
「さっき見つけた、足がもともと取れてた。でもハッカが腕も取った」
「取ってない、取れたんだよ!持ち上げようとしただけだもん、引っ張ってない!」
「わかったからもうちょい静かにしろ」
指で耳を塞いだ後カゴの中からマリオネットを取り出すと。
パキンと音を立ててもう片方の腕も取れた。残っているのは右足のみ。プラプラと揺れる右足を見つめながら、ほんの少し沈黙がおりたあと兄弟が同時に悲鳴をあげる。
「おっちゃん壊した! ひどい!」
「おっちゃん壊した! ククは大事にしなきゃだめなのに」
「ひどいよ早く直して!」
「早く早く!」
「手足取れちゃったよ! 痛いよ!」
「ひどいよ! ククは何も悪い事してないのに!」
ギャーギャーと騒ぐ二人の声を聞きながら男がすーっと思いっきり息を吸う。
「今直すから静かにしろ!」
渾身の力込めて怒鳴ればニ人はキャーと言いながら一目散にその場を離れた。
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