冬と別れ
肌寒い気温から徐々に寒さが増してきた。枝についていた葉が全て地面に落ちて風に飛ばされてどこかに行ってしまう。持ってこれる物がだんだんなくなってきてシャムもあまりしゃべらなくなってきた。何も持ってこれるものがなくなるとマリーはひたすらシャムのそばに寄り添った。頭を動かすことができないシャムのためにシャムの目線の先に自分の顔が映るように。
それはとても寒い日のこと。マリーはふと空を見上げる。空から白くてふわふわしたものがたくさん落ちてきた。それが何なのかシャムに確認しようにもシャムは上を向くことができない。
手で白いものを掴もうとしても不規則に動く白いものはマリーの手をすり抜ける。水を掬うように両手をくっつけて手の中に白いものが降ってくるのを待って、ようやく一つ落ちたときにシャムの目の前に差し出してみせた。それを見たシャムはゆっくりと一度瞬きをする。
「……雪、か。もう、そんな季節か」
冬が来た。そう認識した時いよいよ自分が壊れる時が来たと確信する。わずかにまだしゃべれるうちにマリーに伝えておかなければならない。
「マリー、僕はもうすぐ壊れる。僕が壊れたらマリーは好きなところに行っていいよ。マリーはもう自分でいろんなところに行けるだろう」
顔が上げられないのでマリーの反応がわからない。これは以前にも伝えていたことだが今改めてマリーは何を考えるのだろうか。
しばらくマリーに反応がなかった。しかし今までずっと傍に寄り添いシャムの近くを離れなかったマリーはシャムから離れてどんどん遠くへと歩いていく気配を感じた。
驚いたシャムは力を振り絞り何とか顔を上げる。ギリギリと嫌な音がしてもしかしたら弓が切れてしまうかもしれないと思ったがそれでもマリーの姿をとらえるためにシャムは体動かした。
見ればマリーは小走りでどんどんシャムから離れている。それをシャムは信じられない思いで気がついたら必死に叫んでいた。
「待ってマリー、僕はまだ壊れてない。壊れるまでは一緒にいてくれ」
いくら声が小さくなったとしても他に何の音もしないこの距離であれば絶対に聞こえているはずなのにマリーは立ち止まらない。本当に聞こえていないのか、それとも無視しているのか。
「一人でいたくないから、最後を誰かと共にいたいからずっとマリーと一緒にいたんだ。今この時を一緒にいてよ、お願いだ」
必死叫んでもマリーは振り向かないし立ち止まらない。シャムはマリーを追いかけようと体動かすが軋む身体では立ち上がることさえできずそのままうつぶせに倒れてしまった。
「行かないで! 壊れる時一人なんて嫌だ!」
たったったっと遠のいていくマリーの足音。それを絶望的な気持ちで聞かなければならなかった。
「一人にしないで、マリー!」
シャムの叫びだけが、あたりに響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます