花が舞い降る場所1
暖かい季節は花が咲き乱れる。草原には多種多様な花が咲き、マリオネットの残骸を覆い隠す。
シャムは旅をしながらマリーの体の手入れをした。傷みが激しい箇所は人のいなくなった村で廃材などを使って交換し、丁寧にヤスリをかける。
「マリオネットの利点は構造が単純だから修理がしやすいこと。特殊な道具がなくても見よう見まねで作った物でさえ代用できる」
大きくヒビが入ってしまった足を取り外し、膝から下のパーツを新調する。廃村にあった農具を切り出し丁度いい太さまで削っていく。
マリーは自分の体を直してもらってるとき作業の様子をじっと見ている。
「あまりにもマリオネットの数が増えて木が大量に切り倒された。家にある木でできた道具さえマリオネットのために回収されたらしい。慌てて植林しても木が育つのには数十年かかる。木を使いすぎたって気づいた時には手遅れだった、馬鹿な話だ」
淡々と語りながら関節部分の部品を取り付けてマリーの足に取り付けた。つけたら動かしてみるように言われているので、マリーは指示がなくても体が揃ったら動き回るようにしている。
近くをぐるぐると歩き回ると時折キイキイと音がした。どうやら削り出しが甘くどこか引っかかっているらしい。シャムは再び足を取り外すとナイフで削りながら微調整していく。
「早く育つ木が大量に植えられた。ヤクナの木、通常の数十倍の成長速度で重宝されたそうだ。だからマリーたちの体はほとんどこの木からできてる。減ってしまった家財道具もほぼこの木だ。だから廃材は相性がいいんだよ」
ヤスリをかけるシャムの言葉を聞きながらマリーは片足のまま器用に移動すると、近くに転がっていた椅子を見る。木が細すぎて修理に使えず触っていないのだが、マリーは椅子を触るとぺしぺしと叩いた。
「何してるのさ? ああ、マリーにはそれが仲間に感じるのか、同じ材料だから。姿形は重要じゃないのか、面白いな」
叩いても摩っても反応はない、当然だ、それは椅子なのだから。しかしマリーは同じヤクナの木が使われた、同胞のようなものらしい。
「それは役目を終えて眠ってるんだよ。起こしてやるな」
シャムがそう言うとマリーは触るのをやめてちょこんと隣に座った。マリオネットは集団で行動する傾向があり、仲間のそばに寄り添うことが多かったと聞く。荒野などに打ち捨てられているとき、大量に廃棄されている時も団子状態で固まっていた。人間がそう捨てたからだと思っていたが、あれは動けるものが動けないものの側に集まったのだろう。
仲間意識が強い、それがマリオネット。心があると議論されていた要因はこれだ。敵の陣地に大量に押し入って破壊、火災を起こすのが使命なのでそういう動きをするだけだという意見も多かったが。
「寄り添うんだな……」
そっと椅子の隣に座るマリー。そこには確かにマリーの「優しさ」がある気がした。
微調整が終わった足を取り付けて動きを細かく見ていく。問題ない事を確認するとシャムは立ち上がった。
「もう少し交換部品を蓄えておくか、何かをバラして持っていこう」
マリーはそっとシャムの服を掴む。じっと見つめ何かを訴えかけるかのようだ。少しだけ間が空いたが、シャムが静かに言った。
「その椅子からは取らないよ」
マリーは掴んでいた服を離した。でも、とシャムは続ける。
「マリーの体を直すには材料は必要だ。生えてるヤクナは水分が多くて歪んだり割れてしまう、加工された物から頂くのが一番なんだよ」
遠くの景色を眺めながらシャムは無表情のまま告げた。
「それが例え他のマリオネットの体であったとしても」
歩き出すシャムにマリーはついて行く。マリーの体に使えそうなヤクナの木を探して廃村の中を歩き回り、家具や道具の中から丁度いい物を見繕い、ついでに使えそうな道具がないかを探しながら。
いくつかの家を回った後シャムはつぶやくようにポツリと言った。
「ここは人形師が大勢いた村だったみたいだ。マリオネットの手入れの道具がたくさん残っている」
近くにはヤクナの森もある。この村でマリオネットを大量に作り出荷していたのだろう。しかしマリオネットを買い取る人間が急激に減少しマリオネットの産業では食べていけなくなった。
「誰も死なない、便利に使える、マリオネットは戦争に重宝されていたのに急激に廃れた。なんでだと思う」
シャムの問いにマリーは答えない。喋ることも自分の意思を伝えることもしないと分かっていても旅の中でシャムはマリーに問いかけを続けていた。それは独り言のようなものだ。返事が返ってくるわけではない、自分の言いたいことを言っているだけ。それをわかっていてシャムはあえて問いかけを止めなかった。
「マリオネットよりもっと便利なものが作り出されたからだよ。マリーは知らないかな、人間のように自分の意思で動いてしゃべって人間以上にうまく戦う。知恵があって、身体能力が格段に上」
とある家の中にあったボロボロの紙片を持ってくる。そこには世の情勢が記事として書かれていた。
天才人形師、ライカの功績をここに称える。大きな見出しとともにライカを絶賛する内容が書かれていた。あちこち破けていて記事全体を読むことはできないがまるで英雄のように書かれている。
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