第4話 顔合わせ
神導の儀が行われてから数日。
本来なら用が終われば自分の領へ帰るのだが、コーク男爵家はまだ王都にある別邸に居た。
「ルーク、失礼のないようにな」
「分かっています」
早朝から慌ただしく準備をしてマークに連れてきて出かけるルークを、ケインが遠くからニヤニヤと見ていた。周りの噂からルークに罰が与えられると思っているようである。
ルークの結婚話は発表前でまだ話してはいけないため、関係者ではないケインは身内であろうと知らない話ある。
ルークとマークが今日城へ向かうのは分かりやすくいえば顔合わせである。
国王から結婚の決まったセレスティア王女とリーゼロッテ嬢に国王から紹介されるのであった。
城へと到着した二人は、貴賓室で待つように言われ、2人並んでソファで待っている。
「ルーク、失礼の——」
「分かってますよ、父上」
朝から何回目かのマークの言葉にルークは苦笑いで返事をした。
前回国王と宰相と三人で子供の話をしながら呑んだ経験のあるマークだが、その前の無礼の事もあって、胃を痛くして帰ってきたようである。
ルークは自分の事で胃を痛くする父を申し訳なく思う。
マークは心臓が張り裂けそうなくらいに緊張しているのに落ち着いた気持ちは前世の取引先へのプレゼンの感覚に近く、意外と落ち着いている。
隣のマークが前世で指導中で初めての取引に緊張する部下のようにも見え、自分が頑張らなければと気を奮い立たせているのも理由の一つであろう。
「待たせてすまないな!」
貴賓室の扉が開いて、国王達が部屋へと入ってくる。
国王の後ろではセレスティア王女が不機嫌そうにルークの事を睨んでいる。
そして宰相とリーゼロッテ嬢も国王達の後ろに続くように入室した。
リーゼロッテ嬢は凛として大人の女性といったように落ち着いており、ルークは見て微笑を浮かべている。
「「お待ちしておりました!」」
ルークとマークがソファから立ち上がって家臣の礼をすると、国王はそれを見て大きな声で笑った。
「そのような事は今日はいらん! これから家族になろうというのだぞ? なあ、ジェイク」
「そうですよ。マーク、今日は家族として、対等にしましょう」
宰相は国王にそう返事をすると、今日は国王の後ろに立つのではなく、国王と同じようにソファへ座った。
「ほら、二人とも座れ」
国王に気さくに言われて、ルークとマークはソファに腰下ろした。
マークはルークの隣で借りてきた猫のように縮こまっている。
普通なら自分と逆ではないかと余裕のあるルークは心の中で苦笑した。
「それではルーク、これからお前の妻になる我が娘を紹介しよう。セレスティアだ」
紹介されたセレスティアは本来なら立ち上がってカーテシーをするのがマナーだが、立ち上がらずにルークをじっと睨んでいる。
「こらこら、ティア、——」
「セレスティア嬢、これは私が母から受け継いだホクロでございます。ゴミではありませんので気になるかもしれませんが見つめられていると恥ずかしくございます」
国王が注意しようと口を開きかけたので、本来は失礼になるのだがルークは口を挟んで苦笑いを浮かべた。
ルークが右目横の泣きボクロを抑えた手を目で追って、睨んでいた事を見つめると言い換えられたセレスティアは顔を赤くした。
「セレスティアよ!」
立ち上がらずに名前だけを口にしてセレスティアはそっぽを向いた。
国王がルークの行動を「ほほう」と感心するように息を吐く。
「これはいい男になりそうだな、マーク。次はうちの娘の紹介をしよう」
「リーゼロッテ・ビンテです。私の方が一つ年上ですけど仲良くしてくださいね」
宰相に言われて、一つ年上なだけなのに随分落ち着いた様子のリーゼロッテがソファから立ち上がって綺麗なカーテシーで挨拶をして微笑んだ。
「ルーク・コークです。これからよろしくお願いします」
ルークも自己紹介をして、内密の顔合わせが始まったのであった。
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