第3話 パーティー

パーティー会場へ移動してきたルークは、いつも通り壁のシミになる前に食事を取りに向かう。


貴族のパーティー。それも王城で行われるものともなれば出てくる料理はとても豪華だ。

貴族のパーティーは親交を深めるためのものなので立食形式、それもブュッフェスタイルだ。


ルークが食事を皿に持っていると、近くにいた貴族がギョッとした様子でルークを見たが、ルークは気づかずに場所を移動する。


「炭酸水を頂けるかな?」


「かしこまりました。どうぞ」


ルークはパーティー会場を歩くウェイターに声をかけて飲み物を受け取ると、誰もいない壁際まで行き、壁にもたれながら食事をはじめる。


「ああ、懐かしいな」


ルークは初めに飲んだ炭酸水が喉を通る弾けるような感覚に独り言を呟いた。

この世界では日本のようにジュース類が発展しているわけではない。炭酸水は炭酸の湧水からしか取れず、少しレモンを絞っただけの炭酸水でもとても貴重で、上級貴族や原産地でもなければこのようなパーティーでしか飲めない。

前世ではジュースよりも無糖のレモン炭酸水をよく飲んでいたルークはそれよりも炭酸は弱いものの、レモン風味の炭酸水を懐かしく思った。


ルークが壁のシミになりながら食事をしていると、兄のケインがやってきた。


「おいルーク、聞いたぞ? お前のスキルは見せかけだけの役立たずらしいじゃないか」


「ケイン。そちらは? 多分上位貴族家の方だろう? 名乗らせていただいてもよろしいでしょうか」


貴族のルールとして縁を繋ぐために下位貴族の方から上位貴族に話しかけに行くのは無礼になる。

しかし、こうして目の前まで来た場合、会話をする前には名乗っていいかを聞くのがマナーであった。


「いらん。俺はお前と縁を結ぶ気はない。ケインのように最上級のスキルを持っていれば我がレデュゼウス侯爵家と縁を結べるが、誤爆などという無能は要らんよ」


「失礼致しました」


ルークは頭を下げて、許しが出るまで顔を上げない。それも、位の低い者のマナーだ。


「ふん。俺がいる間は頭を上げるな。そのままケインの話を聞け」


「はい」


頭を下げさせたままと言うのは一種の侮辱だ。屈辱的な行為であるのだが、ルークは前世の会社員時代、取引先に頭を下げた事など腐るほどある。

相手を怒らせずに円滑に話を進められるのなら特になんとも思わなかった。


「いい様だな。お前がやってきた勉強もやはり無駄だった。俺は最上級スキルを得てぜヴィル様や他の上位貴族の方と縁を結び、お前は無能として平民に落ちる」


ゼヴィルと言うのがレデュゼウス侯爵家の息子の名前なのだろう。これだけ言われてもルークは何もいい返さない。してはいけないからだ。


「ふん。何か言い返せば首を跳ねてやろうかと思ったが、勉強しているだけあってその辺りの脳はあるのか。つまらん。ケイン、もう行くぞ。セレスティア様と話に行かねばならんからな。将来私の妻になるかもしれない人なのだから!」


ゼヴィルの言葉をケインや取り巻きの貴族達が「間違い無いです!」「他の候補はゼヴィル様に勝てないですよ」などと持ち上げている。


セレスティア王女のスキルは《聖剣》で、他の国に嫁ぐことはないのだから、爵位などからいえば侯爵は王女が嫁ぐ先としては申し分ない。


普通ならばだ。


床を見ながら、ルークは苦笑いを浮かべた。

ゼヴィルやケイン達の声が離れて行った後、ルークはため息を吐いて顔を上げる。

先程までの出来事は注目を集めていたようで、周りの貴族の子供達は屈辱的な事をさせられていたルークを憐れむような目で見ていた。

流石にルークが顔を上げたら目を逸らしたが、集まっている友人達と笑い話として話をしている。


ルークは周りの子供達にそんな風に見られることよりも、自分の婚約が一波乱やそれ以上のトラブルを起こしそうなことを予測して、乾いた笑いを溢すのであった。

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