第2話 王様のお願い

神導の儀が終わった後、別室に呼び出されたルークはマークと並んで国王の前に立っていた。

ケインは懇親パーティの会場にいるので呼び出されたのは二人だけだ。


部屋の緊張感に息を呑みながら、ルークは隣に立つマークを見る。

マークは手の色が変わるほどに握りしめ、何かを決意した様子で口を開いた。

その行動に、ルークはギョッとする。

国王より先に話しだすなど、首を落とされるかもしれない不敬行為である。


「先に口を開く無礼をお許しください。私の首だけで足りない事は承知の上でございます。しかし、どうか——」


「コーク男爵よ、お前は何か勘違いしておるようだな」


マークの言葉を遮り、国王がそう話した。

国王の言葉が咎めの言葉ではない事に、マークは顔をポカンとさせる。


「まあ、二人とも椅子に座りなさい」


国王に着席を促されるが、はいそうですかと座るわけにはいかない。


「いえ、そういう訳には……」


「ほれ、私は座ったぞ? お主も座れ。大事な話をするのだからな!」


国王に二度目の着席を促され、マークとルークは国王の後ろに立った宰相の方に目をやった。

すると宰相は無言でこくりと頷く。

恐れ多くも、マークとルークはソファの前半分にお尻を乗せるようにして座る。


「さて、それで話というのはな、コーク男爵の息子よ、名はなんという?」


「る、ルークでございます」


ルークは顔を引き攣らせながら国王の質問に答える。男爵家の四男など、国王に名を聞かれる事はない。

なまじ大人の感性があるだけ、ルークは緊張して胃が痛くなった。


「そうか、ルークか。ではルークよ、お主にお願いがある。これから死ぬまで魔法を使わんでくれぬか? その代わりと言ってはなんだが、お主の生活を国が保証し、我が娘、セレスティアを嫁にやろう」


国王の言葉は、上の立場の言葉ながらも、子供に話しかけるように角の取れたものであった。


「え?」


「お主のスキルは一度使えば敵国を滅ぼし、我が国を勝利に導くほどのものだ。しかし、その威力のものが誤爆してしまえば敵ではない隣国、しいては我が国に向けて放たれるだろう。その後に起こることなど、私は考えたくはない」


「私は、殺されるのではないのですか?」


誤爆とは、野球で例えるならば大暴投。国を滅ぼすほどの強力な魔法がどこに行くか分からないなど、恐怖でしかない。

そんなものを野放しにはしておけないはずで、ルークは自分が処刑される物だと思っていた。


「お主、その年にして賢いな」


国王はルークの返事を聞いてニコリと笑った。


「コーク男爵、ここから先の話は他言無用だ。わかったな? お前もだぞ?」


「はは!」


国王の言葉に勢いよくマークが頭を下げる。

周りからは見えないだろうが、ルークには頭を下げた勢いでマークの膝に顔から水滴が落ちるのが見えた。


国王は自分の後ろに立つ宰相も頷いたのを確認して続きを話し始める。


「私の目的はな、お主にセレスティアを嫁がせる事だよ。お主を殺さぬ理由付けなどはお主が抵抗をして魔法を使ってしまっては大変なことになる。とでもすればいい」


国王の言っていることの意味がわからず、ルークは首を傾げた。

男爵家の四男でしかないルークに王女を嫁がせたいなどとはどういうことだろう?


「子供には分からないだろうがな、国王であろうとも、自分の子供はかわいいのだ。どんなに強いスキル、たとえ聖剣を貰っても、戦場いくさばで死なぬという保証はない。もちろん強いほど死ぬリスクは低くなる。だがな、本当は戦場になど送り出したくはないのだ。……しかし、絶対に戦場へ出ぬお主に褒美として嫁がせれば戦場に出ることはあるまい?」


名案だとでも言うように、国王は笑っいてウインクをした。

どうやらルークは自分の娘を守るための道具に選ばれたようだ。国王らしくしたたかだが、ルークは自分の命が繋がるならそれでもよかった。


「国王陛下」


国王の話が終わった後、沈黙を貫いていた宰相が口を開いた。


「なんだ?」


「ルークくんを縛るのに、王女だけでは足りますまい。なにせ英雄になる道を閉ざすのですから。我が娘、リーゼロッテも嫁がせましょう」


宰相の進言に国王は「ほう」と息を吐いて顎を撫でる。


「私にも口止め料は必要でしょう? 陛下?」


「くはは、そうよな。口止め料は必要だ。コークよ、二人の嫁をきちんと手懐けてみせよ。ティアはお転婆ゆえな!」


「ルークくん、リゼは君の一つ年上だけど臆病なんだ。守ってあげておくれ」


ルークは国王と宰相に笑顔で詰め寄られ、頷くしかなかった。


「それではルークは懇親パーティーへ行きなさい。コーク男爵は残って親同士仲を深めようか。先程の子を思っての行動、仲良くできそうだ。いい酒を開けよう」


「は、はい! お供させていただきます!」


話が終わったルークは言われたとおり、マークを残してパーティー会場へ向かうのであった。


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