誤爆の大魔法使い〜魔法禁止から始まるハーレムライフ?〜
シュガースプーン。
第1話 スキルを授かる日
俺の名前はルーク・コーク。前世の記憶を持ってコーク男爵家の四男に生まれた転生者だ。
ルークとして生まれ変わる前はこの世界とは別の世界にある日本という国で働く社会人だった。
前世がなぜ終わったのかは覚えていない。
今さら死因を考えても仕方のない事だろう。
「ふわぁ」
「退屈か?」
「まあ、馬車の中では本も読めませんから」
俺があくびをすると、向かいあった席に座る今世の父親マークが優しい笑顔で話しかけてくれる。それに対して俺は膝に乗せた本を持ち上げて見せながら返事をした。
「ふん! そんな本を読んでも意味がないのに昔から物好きだ!」
俺の言葉を隣に座った兄のケインが馬鹿にしたようになじった。
俺達は同い年の兄弟だが、活発な兄と大人しめの弟といったように性格がまるで違う。
この世界では子供の頃の勉強はあまり重視されていないので、勉強ばかりしている俺をケインは馬鹿にしてくるのだ。
俺は前世の記憶があるので子供の言う事にいちいち怒ったりはしない。
勉強をしているのも父親の仕事を見て将来の為に早めに勉強しているだけで特別趣味というわけでもない。どちらかというと勉強は嫌いだ。
しかし、そんなことを知らない父は「こらこら、人の趣味にとやかく言うものではないぞ」とケインを嗜めてくれる。
「……分かりました。すみません父上」
ケインは父に形だけは謝った後、俺の方を機嫌悪そうに睨んで「フン」と息を吐いた。
その様子に父は苦笑いだが、文官職で優しい人なのでこれ以上厳しい事は言わない。
「そんな事より父上、王都はまだなのですか?」
ケインがソワソワとした様子で父に質問をした。
今俺達は三人で馬車に乗ってコーク男爵領から王都へ向かっている。
ケインが待ちきれないといった様子でソワソワしているのは王都で行われる催し物が楽しみだからだろう。
もちろん俺も楽しみだ。これから王都で行われるのは俺達の人生を左右する催しである。
その名も『神導の儀』
この世界では10歳の誕生日に神様からスキルを授かる。
特に俺やケインのように親の後を継げない貴族の三男四男はそのスキルによって将来が変わるのだ。
俺はチラッと隣のケインを見る。
ケインの中では優秀なスキルを得て騎士団や魔法師団に入る事が確定しているらしく、父に騎士団や魔法師団に入った後の話をしている。
実に子供らしくて微笑ましい。
俺も前世の記憶さえなければ同じように父に夢を語っていたことだろう。
しかし、自分の思い通りに行かないのは前世で経験済みだ。前世で勉強せずに後で後悔した記憶があるから、俺は学校のないこの世界で父に家庭教師をねだってまで勉強に励んでいるのだから。
俺の視線に気づいたのかケインが俺の方へ振り向いた。
「ふん! ルーク、お前の努力が無駄だったとわかる日がきたな!」
「こらこら——」
父が嗜めて、先ほどと同じ光景が目の前で繰り返される。
ケインがいつも俺に突っかかってくるのは、母親の教育のせいだ。
ケインと俺は母親が違う。ケインが第一夫人の子で、俺は第二婦人の子である。
同い年なので、第二夫人の子には負けるなと教育されているようである。
実際、第一夫人はケインに甘く、俺に厳しい人だ。
そのため、ケインは何かにつけて俺をライバル視しているのであった。
再び父に嗜められたケインは、今度はそっぽを向いて窓の外を見始めた。
そんなこんなで、家族三人での馬車の旅は続き、俺達は王都へとたどりついたのであった。
◇◆
王都へたどり着いてからしばらく日にちが過ぎ、遂に《神導の儀》の日がやってきた。
貴族の子供達が神導の儀を行う会場は王城のため、ルーク達は王都にある別邸から王城へとやって来た。
「それじゃ、ケインとルークはあちらで子供達と遊んでいなさい」
マークは子供達にそう言うと、自分は貴族の付き合いのために別の場所へ行ってしまった。
神導の儀まではまだ時間があり、それまでは既に来ている貴族達で交流があるのだ。
神導の儀の後に交流パーティーもあるが、男爵であるマークはそれよりも先に自分よりも爵位の高い貴族に挨拶回りをしなければならない。
置いていかれたケインとルークも慣れたもので、今日神導の儀を受ける子供達の集まっている場所へ向かう。
子供といえど貴族の上下関係はある。爵位が上の家の子供に失礼を働いてはいけないが、この年になるまでに何回も貴族の集まるパーティーに出席しているので、こういったことは慣れっこだ。
ケインはいつも仲良くしているグループの方へ向かい、ルークはいつものように一人で壁に寄り掛かって持ってきた本を開いた。
位の低い男爵家のルークはそのまま特に誰かに話しかけられる事もなく、神導の儀が始まるまで壁のシミとなるのであった。
◇◆◇◆
神導の儀が始まると貴族は順番に教会の神官からスキルの啓示を受ける。
順番は位の高い者から。つまり男爵家のルーク達は最後の方だ。ルークの同い年には王女がいるので、スタートはその王女からである。
順番を待つ間も、ルークの隣ではケインが自分の順番を心待ちにしてソワソワとしている。
いや、ケインだけでなく周りの子供達は皆自分の順番を心待ちにしているのだ。
それはもちろん自分が理想のスキルや特別なスキルを貰うと信じて疑わないからである。
実際にスキルを貰ってみるまではどんなスキルを手に入れた自分を想像するのも自由。シュレディンガーの猫であるが、ルークが気になって調べたところによると、位の高い貴族ほど優秀なスキルを授かる事が多い。
勿論例外もあり、下級貴族や平民から英雄と呼ばれる存在が生まれたこともあるが、統計学なら高望みは禁物。
もちろルークは自分は特別な存在にはなり得ないと思っているので、大した期待はしていない。
だからこそこれまで勉強など努力してきたわけだし。
それはさておき、トップバッターの王女が国王と一緒にスキルの啓示を受けに壇上へと上がった。
「セレスティア・ハイネスト、これよりそなたに与えられたスキルを教える」
儀式ばった言葉の後に、神官が女王に与えられたスキルを口にした。
「聖剣、それから上級魔法!」
会場からは驚きの声と共に拍手が溢れんばかりに起こった。
二つのスキルを授かる事も珍しい上に、聖剣は滅多に現れない強いスキルだ。その上に天剣や神剣という最強スキルがあるとされているが、伝承レベルで、実質聖剣は最強スキルだ。王族に相応しいスキルと言っていいだろう。
王様も満足そうに頷いてる。
王女の次は上級貴族から順番にスキルの啓示を受ける。
上級剣術や上級魔法、上級戦術などの戦闘に向いたスキル。その他にも上級経理などの国の運営に向いたスキルなど、上級貴族に相応しいスキルを貰い、親に喜ばれている。
中には子供らしく武官に向いた戦闘系のスキルが欲しかったのに文官向きのスキルを貰って不満そうな子供もいるが、それはご愛嬌であろう。
上級貴族が終われば下級貴族の順番で、ルーク達の順番も近づいてくる。
しかし下級貴族に与えられるスキルは良くて中級、普通なら下級スキルとルークの調べた統計通りで、がっかりしている子供達が多かった。
「それじゃ、兄の俺からだな!」
ケインとルークはマークに連れられ一緒に壇上に上がり、ケインは自信満々にルークより先に前に出た。
先程までの結果を見ているにも関わらず、自信満々のようだ。
「では、ケイン・コークに与えられたスキルを教える。なんと、そなたに与えられたスキルは最上級剣術である!」
神官の言葉に会場がざわついた。最上級剣術は聖剣の一つ下の強力なスキルである。
ケインがルークを見ながら誇らしげに胸を張っているが、ルークは苦笑いである。
まさか、本当に統計の壁を乗り越えるとは思っていなかった。これは素直に拍手だ。
このスキルを授かったという事は、男爵家の三男であろうと出世は約束されているようなものだ。上級貴族からの縁談が来てもおかしくはないだろう。
「ほら、次はルークの番だぞ!」
自分に拍手を送るルークを見て、ケインは満足そうにルークに場所を譲った。
いよいよ、ルークの順番である。ルークはこれまでたいした期待をしていなかったものの、目の前でケインのような出来事を見てしまうと「もしかしたら自分も」と期待してしまうのが人間のさがである。
もっとも、前世のガチャガチャやくじ引きなど、目の前の人が大当たりを引いて自分はハズレなど山ほど経験しているのだが。
「それではルーク・コーク、そなたに授けられたスキルを教え……」
神官は今日だけで何回も繰り返してきた文言の途中で口を開けたまま驚いた表情で固まった。
「どうしましたか?」
その様子にルークは神官に声をかける。神官は震えるように息を吸い、震える声でルークの授かったスキルを口にする。
「き、究極神聖魔法!」
「はい?」
会場は静まりかえり、ルークの神官に聞き返す声が響いた。
「す、枢機卿よ、それはまことか!」
静まり返った会場に大きく叫んだのは国王であった。
究極神聖魔法とは、文献に載っている最強の魔法スキルで古の時代に一撃で国を滅ぼしたとされる大魔法使いのスキルである。
強力な力は他国への牽制や戦争の抑止力になる。国王は神官に真剣な眼差しで質問をした。
しかし、神官は動揺した様子で国王の方を見ると、震える声で言葉を紡ぐ。
「ご、誤爆……」
「誤爆?」
神官の言葉を周りが理解するのに少し時間がかかった。誤爆とは狙った場所とは違う誤った場所を爆撃してしまう行為の事である。
史上最強の魔法を誤爆。
スキルの組み合わせを理解した国王が勢いよくルークを見た。
「コーク男爵」
「は!」
「この後話がある」
「分かりました……」
国王の言葉に、マークは言葉をつまらせながら家臣の礼を取った。
国王やマークの反応を見て、ルークは悟った『これは俺の人生終わったな』と。
しかし隣では、誤爆の意味がわからないのか自分よりもすごいスキルを授かったルークを、ケインが睨んでいるのであった。
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