第二節 手記と珈琲、錆びた鍵と親の心

 あれからしばらくして、お店は通常営業を開始した。駅から多少離れているうえに、付近の住民もそこまで昼時は利用しないためか、しばらくはだいぶオジさんは暇そうだったので、テキトウに珈琲を頼んでおいた。3から5分もすると珈琲はお節介なミルクピッチャーと角砂糖と共にやってきてオジさんは折角だからとサンドウィッチもおまけしてくれた。いくら何でもサービスしすぎだろうと思ったが、家族との久しぶりの再会とはこういうものなんだろう…こういうものなのか?そんなところで昼過ぎ、軽食やデザートを求め客足が増え始めると同時に私は手記を読み始めた。


 

 きっとこれを君が読んでいるときには僕はそこにいないだろうね、彼にそうするよう頼んでおいたからね。だって恥ずかしいだろう?隣で自分が書いたものを読まれるんだぞ?さて、そんなことはいったん置いておいて本題に移ろう。おそらく君とは初めましてだ、残念なことにね。君は僕のたった一人の息子だというのに。彼女はまだ元気だろうか?僕が最後に見た君は彼女の腕に抱かれて眠っている小さな君だったからね、どんな風に成長したのか楽しみだ。また話が脱線してしまったね、すまない。改めて自己紹介しよう、僕は君の父親であり君たちの住む町を守るヒーローさ!少し格好がつかないな…まぁいいか。幼い君と出産したばかりの彼女を残して出て行ったことに関しては、申し訳ないと思っている。だがしかし奴らの陰謀に対抗するにはそうするしかなかった。僕と一緒に暮らしていては奴らがいつ君たちに危害を加えるか気が気でなかったんだ。だから僕は君たちを彼に預けて一人怪人退治に躍起になっていたわけだ。そして奴らの正体についてだが、奴らは未来の地球からやってきた元人間だ、今の地球で起こっている環境破壊や社会制度に適応した結果、高い耐久性と冷徹で上を信じて疑わない心を手に入れたんだ。かくいう僕もその一人だったんだが、彼女との出会いで改心したんだ。詳しくは恥ずかしいから…その…彼女…つまり君の母親に聞いてくれると嬉しい。まぁそういうわけで斥候として最初に送り込まれた僕は組織を裏切り、最新型のパワードスーツを手に入れて奴らの進行を止める戦いに身を投じたんだ。そうだ!僕は改造人間だから僕の遺伝子を継いでいる場合もしかしたら君は少しばかりほかの人より頑丈だったりするかもしれないんだけれど大丈夫だろうか?そのせいで差別なんかに会っていないと良いが…あぁ!また話がずれてしまったね。と言っても何か一貫して伝えたいことがあるわけじゃなくて君に事実を伝えたいだけだからね、多少情報がぐちゃぐちゃしてると思うが気にしないで欲しい。


ここまでで覚えておいて欲しいのは以下の3つだよ

・僕は君の父親で町を守るヒーロー

・敵は未来から来た元人間

・僕は改造人間


ここまでは大丈夫だろうか。それでここからが一番重要なことなんだ。実は今まで来ていた敵は第一波に過ぎない。本当は僕自身ですべての敵を止めたかったんだけどさすがに無理だ。君にこんな役目を背負わせることになってしまうことを許してほしい。彼に君にこの手記…というか手紙?と鍵を渡すように伝えたはずだから鍵をもらっていると思う。その鍵はここの店の地下に通じる鍵なんだ。地下に行くと試作品のパワードスーツが置いてある。一応セキュリティのためにパスワードはかかってるけど君の誕生日にしておいたからすぐに開くはずだ。それを着て戦ってほしい。本来であれば巻き込むべきではないんだけれど君にしか頼めない。僕の正真正銘の息子である君にしかね。ただ逃げてくれてもいい、できればこんなもの使ってほしくはないからね。僕に君を責める権利はない。最終決定権はモチロン君にある。ただ彼女…君の母親や私の親友を守れるのは君しかいない。なるべく僕も頑張るが、もしもの時はよろしく頼む。


P.S:こんな不甲斐ない父親ですまない いつか喫茶店マリーで一緒に会おう。



 どうすればいいんだろうと思った。あまりにも訳が分からなかった。それに最後ほぼ人質を取って脅しているじゃないか…ひどい父親だと思ったよ本当に。でも私にしかできないことなら、それで家族を守れれるなら、私はやるよ。立った時に手記の隙間から紙が落ちた…近くの病院の名前と私の生年月日が書いてあった。胸ポケットにそれを大事にしまって私は地下室に向かうことにした。とうの昔に飲み干された珈琲は残りが茶渋となってカップのそこにへばりついていた。


 オジさんは快く地下室に入れてくれた。少しばかり寂しそうな顔をしながら…本当はここで地下室にアイツがいる予定だったんだけどなぁ…なんてぼやいていた。地下室の鍵は思いのほかすんなりと開き、表面の錆が単なる偽装だったことを知らせた。

地下室は思いのほか綺麗にされており、近未来的な印象を受けた。奥に進むと件のパワードスーツが隔離されていた。誕生日をパスワードにするとは、なんとセキュリティ意識が低いことか…と思いながら開錠する。本当にパスワード誕生日だった。なんか実はほかの数字ですよみたいなのを期待していたんだけど。そんなのもないと…

不安になるなぁ。


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