俺の悪党貴族転生! ~処して殺して戦って~

杷礼務 仙人

ヴェルデン家の転生憑依者

粛清

第1話 気がつけば異世界


 来ちゃいました、異世界。


 いやー驚いたね。なんか耳鳴りがして目が回るな~と思ったら、体がグラっと揺れてそのまま頭をごっつんこ。目を覚ましたら地面の上で寝転んでいた。


「エスト様! ご無事ですか!?」

「おい、早く神官を呼んでこい!」


 ってな具合で、あれよあれよという間に立派なお屋敷に連行されてしまったとさ。


 どうも騎乗中に落馬して頭を打ったそうで、しばらくは割れるような痛みに苛まれた。そこで前世の記憶とこの世界の秘密を思い出した……なんてことはない。


 というか、前世の記憶は普通にあるし。


 わかったのは、どうやら俺はエスト・ヴェルデンという貴族の息子に成り代わり、中世ファンタジーっぽい世界にきてしまったこと。年齢は18歳。


 貴族にも色々ある。

 ヴェルデン伯爵家はそこそこ大きな貴族らしく、戦国時代で例えると郡代や特定地域の旗頭を任される重臣クラスに匹敵する権力があるようだ。


 ただし、領地は辺境に隣接したあまり発展していない地方。


 我がアルヴァラ王国の東境には、敵対的な国、魔族の跋扈する山岳地帯などが存在している。そこに抑えの貴族家を複数置いて、さらに彼らが裏切らないように監視の目を光らせるのがヴェルデン家の役割ってわけ。


 辺境の守りは王家から信頼された貴族が任されるものだけれど、たまに先祖がやらかしたお家も魔族の活動地域に連行されるとか。


 いわゆる懲罰人事ってやつだな。



 ここでとても重要な話がある。

 それはつまり……


「俺は、死ぬ」


 そう。


「このままだと俺は死ぬーーーッ!」




 人々の話を聞いて考えたのだが、今いるこの世界はゲーム内の可能性がある。


 確定ではないが、しかし……。


 能力を示す単語にスキルの概念がある。

 勇者・冒険者ギルド・王立学院も存在する。


 異世界にしても指輪やロードス系のガチな世界観じゃないことぐらい想像はつく。問題はゲーム世界だった場合、俺はどう考えても噛ませ犬のポジションってことだ。


「なんたってなあ……」


 ヴェルデン家は相当にヤバい。


 パパ上は芸術品に夢中で領政を顧みない趣味人で、ママ上は贅沢が大好きで下々が餓死するレベルの重税を推進している。嫁いだ姉は集団で人をイジめたがるサド。


 むろん逆らうやつは問答無用で処刑している。

 絵に描いたような悪党一家だ。


 ちなみに俺は弱小貴族の娘に一目ぼれし、立場を悪用して婚約を強要したボンボンだった。領内を巡っては家財や商品を強奪したり、道行く者に嫌がらせをして愉悦を補給していたヤバいやつでもある。


 あだ名はシンプルに“ヴェルデンの害虫”。


 唯一、妹はマシな範疇だが……それでも都会に憧れて地元を見下すこじらせ娘って感じで、すでに道を踏み外しそうな片鱗が見え隠れしている。


「これはひどい」


 貴族など多かれ少なかれ傲慢なのだが、我が家はこの世界の感覚でもちょっと度が過ぎているようだ。王国内の他家からボロクソに言われている。


 偉大な祖父の血からなぜこいつらが生まれたのか?と。

 

 仮によくあるゲームだとしたら。

 どう見ても、どう見てもだよ。


「主人公らしき人物の踏み台になる。もしくは反乱、征伐、破門などの名目で失脚して殺される役回りだよなあ?」


 隣が魔領と境を接しているのもまずい。


 これが危険な理由はヴェルデン家の項と被るのだが、我が家はやらかして転封された歴史を持つ貴族たちを見下し、監視者の立場を使ってカツアゲをしていた。


 するとどうなるか?

 相手の領内はもちろん弱体化する。


 弱体化するとどうなる?

 魔物の勢力がどんどん増していく。


 仮に大侵攻を受けて“盾”が敗北した場合、そのまま敵がヴェルデン領になだれ込んでくるだろう。自力で太刀打ちできるかといったら……まあ……。


 無理! 絶対に無理ィ!

 父が当主になってからは軍はほったらかし。

 兵事は旗主たちに丸投げで統一感もない。


 最悪は魔物か、民衆か、恨み骨髄の弱小貴族とその領民か、監督責任を問う王家によって殺されること間違いなし!


 何の因果か知らないが、一度死んでるっぽいのにまた殺されるなんて願い下げだ。


 どうあがいても絶望な未来を回避するため、やるべきことに着手せねばならない!




 ということで早速、手近な部分から手を付ける。


「セバス。騎士ボルダンを呼んでこい」

「かしこまりました。それと、私の名前はヴァルターです」

「そうか。ともかく必ず連れてこい」

「は、はい」


 体の記憶は、執事の名前を本気でセバスだと思っていたらしい。


 一事が万事こんな調子だ。

 今さら善人ムーブをしたところで評価は覆らないだろう。


 誤情報(誤りではないけど)が一度広まると、それを覆すのがどれだけ難しいかは前世のネット世論がまざまざと示してくれたものである。


 ならば悪名すら逆手にとって、別の形で正当性を得るしかない。


 ややあって部屋の扉がノックされる。


「エスト様、ボルダンでございます」

「入れ」


 50代ほどの騎士が入室してきた。


「ご用向きは?」

「今からケアナ城へいく。出立の支度をしろ」

「かしこまりました。その、ガストン殿は……」

「やつには特別な役割を与えるつもりだ。遅れて後を追うように命じろ」

「ご命令通りに」


 向かう先はケアナ城。

 従姉の住まう居城にして、いわゆるダンジョンを抑える領内の要地だ。


「本当にガストン様を置いていかれるのですか?」


 執事のヴァルターが問うてくる。


「やつの機嫌を損ねるのが怖いか?」

「い、いえ」

「有力者にも二種類ある。存在と状態だ。状態というのは脆いものだよ」


 ガストンというのは父アルノーの補佐をしている悪漢だ。

 地元に根を張る名族の生まれで、その家は高祖父が重用して以来このヴェルデンで幅を利かせている。


 武力はないが悪知恵が働き、敵対者を陥れつつ、おべっかを駆使して家宰の地位をゲットした。ある意味では才能に満ちた男なのかもしれない。悪逆の限りを尽くしているので普通に害悪だが。


 昔からボルダンを始めとした騎士の幹部たちも結託しており、まさに家中の実権を掌握していると言っても過言ではない。


 ま、その栄耀栄華も明日までなんだけど。

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