第4話

2階の廊下にて。


「優未、起きてるか? 朝ごはん出来るぞ」


部屋の扉をノックするが、返事が無い。


「はぁ……ったく、入るぞ」


俺は溜息を吐きながら部屋の扉を開け、中に入る。




「すぅ……すぅ……」


呑気に寝息を立てて眠っているショートカットでオレンジ髪の女の子。


こいつの名前は梅村優未。


小学校からずっと一緒の昔馴染み、言わば腐れ縁の仲の奴だ。


「おーい、いい加減起きろって。朝飯食べ損なうぞ」


「んぅ、んー……すぅ、すぅ……」


まったく起きる気配がない。


いや、むしろ起きる気がないと言った方が正しい。


さて、どうしたもんか?


よし、ここはベタに鼻を摘まんでみるか。


そう思い立った俺は優未の鼻をムギュッと軽く摘まんでみた。


「ふがっ……!」


「ぶっ! ぷっくくく……♪」


ふがっ! って言った。


ヤバイ、面白い。


一旦手を放し、再び摘まんでみる。


「ふごっ……!」


今度はふごっ! だって。


仮にも女の子がふごっ! はさすがに無いだろ。


「ヤ、ヤバ……笑い過ぎて腹痛っ」


さてさて、次はどんな感じで笑わせてくれるのやら。


次なるリアクションへの期待に胸躍らせ手を伸ばしたのだが――


「なーにをしてるのかな~、りゅ・う・とく~ん?」


「…………」


今度は別の意味でヤバイ。


あちらさんは完全にお目覚めになられている。


そしてかなり御立腹の様子。


どうする、どうする俺!


戦闘力では完全にあちらさんが勝っている。


ここで選択肢を誤れば即バッドエンド。


いや、デッドエンドやもしれない。


この危機的状況を回避するには……するには~!


「……やれやれ、ようやく起きたか。まったく、いつも起こす方の身にもなって欲しいものだね」


俺は多少大袈裟に呆れてみせ、優未に背を向け扉の方に向き直る。


「さ、俺は一足先に下に降りてるから、お前も早く支度して降りてこいよ」


計画通り!(ニヤリ


正論で畳み掛けて相手に有無を言わさず退室する。


そうすれば、なんやかんやのなんだかんだで有耶無耶になる筈。


優未、僕の勝ち……そう確信したのだが――


「待てい」


あと1歩で扉のドアノブに手が届くのに、その寸前でシャツ襟を掴まれた。


布団からここまでの距離を一気に詰めただと!?


や、奴は瞬間移動でも会得しているのか!?


「うら若き乙女が無防備に寝てるのを良い事に、散々好き放題やってくれたわね~。りゅうとー、この代償はかなりの物よ~♪」


「な、なーんの事かなぁ? 俺はお前が朝寝坊したらかわいそうだと思って、わざわざ起こしに来てあげただけだよー?」


「ふーん」


優未の雰囲気がやけに落ち着いたな。


あれ? 納得したのか?


「じゃあ、ナオちゃんに『琉人が寝てるあたしにアレコレしてきた』って言いふらす」


「お嬢様、女王様、優未様ごめんなさい! それだけはご勘弁を!」


これには敵う術など無い。


素直に頭を下げ、誠心誠意謝罪する俺。


それを見て得意げになった優未がすかさず畳み掛けてくる。


「あたしぃ、今日は学校帰りにワックのエクストラバリューセットが食べたいなー♪」


「お、お飲み物は……」


「トロピカルジュース♪」


「か、かしこまりました……」


「にゅふふ~♪ うーん、今日の放課後がたのしみ~♪」


今月は買いたい漫画が沢山発売する月なのに。


下手ないたずらはするもんじゃないな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る