最終話 思い出のあの場所で

4月1日入社日。

僕は、東京の出版社に就職した。


ついにこの場所で働くことができる。

東京へ来た理由は2つ。

出版社が多数あるからと、桜さんにもう一度会うため。


まだ彼女の場所は聞いてない。


楽しみだけど、浮かれて仕事に支障が出ては本末転倒だからだ。


思った以上に東京って広いな。

上京して思ったことは、ビルがたくさんあることと、お店が多いこと。


事前に会社までのルートを調べて、春休みの間に一度訪れておいた。


入社式では、僕以外にも3人いた。

僕含めて、男女それぞれ2人ずつだ。


自己紹介も終わり、それぞれ先輩の指示で席に案内された。


初日は、これまでどんな活動をしてきたのか、話すことが多かった。

新入社員とはいえ、どこまで任せられるのかを確認しているのだろう。


僕は、アルバイトでの経験と、新聞部の活動を話した。


先輩は、メモを取りながら静かに聞いていた。

些細なことでも、メモを取るのは癖になっているんだろう。

これは僕も見習うところだなと思った。


そして、話も終わり実際の作業を渡された。


先輩は作業内容と、期限を伝えてわからない所があったら、すぐに聞いてねと言い、自分の作業に戻った。


席が隣なので、困ったらすぐに頼ることができる。

でも、作業中に話しかけるの気まずいな。


とにかく、できることをやっていこう。


最初は取材したメモを見て、記事を作成することになった。


初日は、比較的簡単な作業で、タスクも少ないので落ち着いてできた。


定時になり、みんなが退勤するとき社長に声をかけられた。


光司くん久しぶりだね。


お疲れ様です。

お久しぶりです。


どう?会社の雰囲気は。


はい。

先輩もいい人で楽しいです。


それはよかった。

僕も、橋本さん(元アルバイト先社長)から君の話を聞いていて、会ってみたかったんだよね。

面接のとき見たけど、これからは会社での働きぶりを、見させてもらいます。

楽しみだよ。


ありがとうございます。

これからも、頑張っていきます。


急に呼び止めてごめんね。

お疲れ様。


いえいえ、大丈夫です。

お疲れ様です。


こうして、初日の業務は終わった。


好きなことを仕事に出来たことで、いつも楽しく仕事が出来ている。


学生の頃より忙しく、緊張することが増えたけど、この環境に慣れたとき一人前になれると思う。

最初は同じような業務でも、何度もやることで基礎が固められていき、先輩からの指示も頭に入ってきやすい。


休憩時間のとき、僕はいつも外食をしてるのだが、今日はお弁当を作ってきていた。


休憩スペースに行くと、同じ新入社員の人が先にいた。


お疲れ様ですと、そう声をかけた。


相手も、お疲れ様です、と返事をした。


この人は、真澄さん。


真澄さんは、どこに配属されましたか?


私は、ファッション系の部署です。

光司さんは?


僕は、旅行系の部署です。


ガイドブックや、お店の話をまとめてます。

と言っても、最初は書き写ししているばかりですけどね。


そうですね。

私も似たような感じです。

これから、取材とか入ってくるんでしょうね。


楽しみと、緊張が混じって不思議な感じですね。


僕も、同じこと思ってました。


新入社員同士、どの学校に行っていたのかと、会社での話をした。


昼休みも終わり、業務を再開した。


ようやく会社での基礎的なことは慣れてきた。


先輩も、要件などは全て紙に書いて、これよろしくとだけ伝えるようになった。

他の先輩達も、休憩時間などに話したりもしているので、全体的に人に慣れてきた。


だいぶ業務に慣れてきたこともあり、他の人の動きも目につくようになってきた。


タバコ休憩に行く人、リラックスのために軽く歩く人、いろんな人がいる。


そろそろ入社してから一年が経とうとしていたとき、先輩から一緒に取材行ってみるか、と話を持ちかけられた。


これは非常に大きなチャンスだと思い、すぐに返事をした。


移動中に、先輩と話をした。


光司くんの担当になってもう一年経つのか。

早いね。


はい。

あっという間でした。


もう会社には慣れた?


周りが見えるくらいには慣れてきたと思います。


それはよかった。

二年からは、先輩になると思うから、これまで以上に大変だぞ。


はい。

あぁ緊張してきた。


うそうそ。

まだちゃんと他の先輩もサポートするから、二年になっていきなり一人で、後輩を任せたりしないよ。

大丈夫落ち着いて。


よかった。


先輩は、僕の緊張をほぐすために、たくさん話してくれていた。


会社での先輩と、訪問先での先輩とでは、顔つきが全然違った。


僕も、同じ会社の人間なので粗相を働くわけないはいかない。

がっちがちに緊張しながらも、できる限りの仕事はした。

僕のできることは、メモを取ることだけなので、メモ取りに集中した。


取材も終えて帰社した。


自分の席について、作業をしていると先輩から声をかけられた。


お疲れ様。

緊張した?


お疲れ様です。

緊張しました。


でも、しっかりメモ取れてて偉い。


ありがとうございます。


まぁちょっとだけ、ゆっくりしててもいいよ。

5分休憩して、作業再開しよう。


わかりました。


この会社は、休憩することに対して怒られることは無い。

業務に差し支えがないなら、自由に小休憩することが可能だ。


休憩を終えて作業再開。

気づけばそろそろ定時だ。


キリが良いところまでやって退勤した。


こんな日が続き気がつけば、入社から三年が経過していた。


もうすっかり一人前になっている。


後輩に教えるなんてまだ緊張するけど、後輩も素直に僕の話を聞いてくれる。

これまで、先輩にしてもらったように、僕も後輩には積極的に話かけていこうと思う。


最近では、自分でも旅行へ行き記事を書く練習をしている。


先月は、新潟へ行って拓也が働くお寿司屋でご飯を食べた。

久しぶりに会う拓也は、立派に寿司職人をしていた。


プライベートでも、仕事のことを考えるくらいには仕事が楽しい。


今日も次の旅行先を考えるために、書店でガイドブックを眺めていた。


会計を済ませて出口へ向かう途中、漫画の新刊が積まれている場所で、足を止めた。

これは、桜さんが好きで読んでいた漫画だ。

懐かしいなと思っていると、後ろから声をかけられた。


光司くん?


え?

振り返るとそこには、桜さんが立っていた。


どうしてここに?

焦ってそんなことを聞いてしまった。


私は、休日はよく本屋に来てるの。

あと、今日は漫画の新刊発売日だったのもあって、資格勉強の本と一緒に買いに来たの。


そうだったんだ。

僕も、個人的にほしい本があったから来てたんだ。


あ、そうだ、この後時間ある?


うん。


買い物を済ませて、近くの喫茶店に入った。


桜さんはこの近くで働いてるの?


うん。

私、会計士になったから、会社の経理を担当してるんです。

だから、あんまり仕事の話は出来ないけど、頑張ってます。


光司くんは、いつからこっちに?


僕は、専門学校を出てすぐにこっち来たから、3年前くらいかな。


これまで、Rainでの連絡をお互いしてなかったから、偶然会えたのは本当に奇跡だ。


あのさ、これからはRainしてもいいかな?


はい。

約束でしたからね。


うん。

桜さん、約束覚えてる?


はい。

覚えてますよ。

忘れたりなんて絶対しませんよ。


それじゃあ、時間あるときにご飯でも行きませんか?


わかりました。

土日は基本お休みを貰ってるので、いつでも大丈夫ですよ。


偶然再会して、お互いに約束も覚えていた。

あとは、もう一度告白するだけ。


そして、土曜日少し高級なレストランでディナーをし、思いを伝えた。

今回は、しっかり指輪も用意している。


桜さん、長い間待たせてごめん。

これからは、ずっと一緒に居てください。

付き合ってください。


それと同時に指輪も差し出した。


はい。

よろしくお願いします。


嬉しくて涙が出てしまった。


レストランを後にして、近くの公園で休憩した。


まさか本当に、東京来たら出会えるなんてびっくりだったよ。


私も、光司くんが東京来ても、連絡なかったら会うこと出来ないと思ってた。


あんまり神様って信用してないけど、運命の赤い糸ってあるのかもねって、思っちゃった。


あるかもね。


こうして、桜さんと改めてお付き合いすることが決まった。

後日、両家への挨拶をすることになった。


桜さんの実家は、東京にあるのですぐに行くことができる。

そして、無事に了承を得られた。

お義父さんもお義母さんも、とてもいい人でこれまで話したことは無かったが、桜さんが僕の話をしていたみたいで、相手は僕のことを知っていた。


そのうえで、改めて僕を見て結婚を許してもらえた。


あとは、僕の実家か。


二人の休みが合うタイミングで、実家へと向かった。


僕の両親も特に言うことが無く、すんなりと結婚を了承してくれた。


挨拶も終えて、夜までに時間があるから久しぶりに、あの公園へ行こうと話した。


初めて会ったあの場所。

晴との思い出の場所であり、桜さんとの思い出の場所でもある。


きっと、晴のお陰でこうして桜さんと再会できたんだろう。

赤い糸なんて話をしたが、その赤い糸が切れないように、晴が繋ぎ止めていてくれたんだと信じてる。


ここもずいぶんと変わりましたね。

遊具は減り、少し雑草が生えている。


あれから6年ですか。


光司くんは、これまでどんなことがありましたか?


話せば長いけどいい?


はい。

ばっちこいです。


専門学校へ進学したこと、そこで学んだことと友達のこと、アルバイトのことなど、たくさん話した。

話していると、どんどん日が落ちていった。


そろそろ帰りますか。


そして、実家で一泊してから、東京へと帰った。


同棲生活を始めてからまだ日が浅いが、すでにお互いのことはある程度知っていたので、喧嘩することなんてなかった。


そして、結婚式の招待状を送り始めていた。


桜さん側と僕側で、招待したい人をリストアップして、招待状を出していた。

共通の友達と、専門学校の友達、会社の人、アルバイト先の人など、結構呼ぶ人は多かった。


みんな都合をつけてくれて、参加してくれると言ってくれた。


招待状を出し、ウェディングドレスも選び終わった。


あとは、結婚式当日を待つだけ。


二人共ワクワクで毎日ご飯を食べながら話していた。


結婚式当日。


式が始まり入場すると、たくさんの人が拍手をしてこちらを見ていた。

どきどきしながらも、ゆっくりと歩いた。


そして、新婦が入場する。


お義父さんと一緒に入場し、壇上まで上がってくる。


ここで、よく聞く「病めるときも健やかなるときも・・・」誓いの言葉を聞き、誓いあった。

誓いのキスも緊張しながらではあったが、無事に終わらせることが出来た。


みんなに祝福されて、いい結婚式になった。


披露宴が始まり、親への感謝の言葉、余興など全てが滞り無く終わった。


後日、出社したとき同僚や、先輩からおめでとうと言ってもらえた。


あれから、5年が経ち会社を辞めて、独立していた。

いまは、自分が社長をやっている。

学生の頃には考えもしなかったことが起こっている。


周りの人に支えられながら、会社も順調に成長している。


パパ!


子供にも恵まれて、一児の父をしてる。


どうしたの?


ママが呼んで来てって。


わかった。

ちょっと待っててね。


待ってる。


今日も、桜と娘と一緒に楽しく暮らしている。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

初めての作品で、書きたいことを書きたいように書いたので、飛び飛びで話が進んでいます。

至らない点もあったと思いますが、読んでいただけて感謝してます。

ありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が僕のもとを去った日 @TIAKI3939

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ