第13話 三人の思い出をありがとう
新しいアルバイト先で、先輩のサポート役でコーナーを1つ任された。
大枠は先輩が用意してくれるから、僕は記事の配置や文字入れをした。
新聞部の活動と違って、全国に出版される雑誌なので、1つの間違いで会社の信用を落としかねない。
文章は最新の注意を払いながら作成した。
先輩にも相談しながら、執筆を進めていた。
何度もリテイクを繰り返していく中で、自分が苦手な事がいくつかあることがわかった。
紹介文は問題ないが、相手が伝えたいことを簡潔に届けることが苦手だ。
相手が言いたかったことの、本質を理解しないと間違った認識になる。
それを正しいと思って記事にすると、相手の伝えたかった意図と違うものになり、最悪の場合相手側の信用を下げかねない。
言葉を放つのは簡単だが、その言葉の意味が捉え方によって、いい言葉にも悪い言葉にもなる。
僕も、中学時代に先生から言われたことを、他の人に伝えるときに、伝えたかった意味と変わってしまったことがある。
怒られたりはしなかったが、相手の怪訝そうな顔してるのはわかった。
それからは、相手が言ったことをそのまま伝えるのでは無く、なんでそれを言ったのか考える癖をつけるようにした。
その経験があったからこそ、前にパン屋のおっちゃんの取材でも、伝えたいことを理解できた。
そして、それをやーちゃんも同じ言葉で、記事にしていたので尊敬してる。
先輩に甘えて、手当たり次第に書いた記事を見せるのは、相手の負担にもなるので、そのまま記事にされてもいいように、考えて書いている。
そんなとき、先輩からご飯に誘われた。
今夜時間ある?
はい。
大丈夫です。
焼肉屋に来た。
たくさん食べていいよ。
ありがとうございます。
最近頑張って記事書いてるよね。
どう、なんとかなりそう?
現状、何が何でもやり遂げるつもりです。
でも、なかなかOKを貰えないから、このままじゃ間に合わないのかとも思ってます。
まぁ、最初だから甘めにやってもいいんだけど、社長から光司くんはやればできる人だから、限界まで頑張ってもらって、と話されてるんだよ。
僕も、あと数回リテイクしたら、光司くんがいいもの上げてくると思ってる。
だから、もうちょっと頑張ってみて。
そんな話をしてたんだ。
でも、社長や先輩が信頼してくれてるのなら、もっと頑張ろう。
はい。
ありがとうございます。
これからも頑張ります。
学校の勉強も忙しいと思うけど、こっちの仕事も頑張ってね。
そして、焼き肉をごちそうになって、家で作業を再開した。
あれから、幾度かのリテイクで先輩にOKをもらうことが出来た。
先輩もよく頑張ったねと言ってくれた。
一段落したのもつかの間、同じ形で他の先輩と仕事することになった。
それと同時に、三回生になった。
三回生までに必要単位は結構取っていたので、講義がほとんどない状態だ。
アルバイトを増やしてもいいかなと思った。
新吾くんと、ゆーちゃんも同じことを考えていたらしい。
今週は三人で久しぶりに遊ぶ予定だ。
一日休みや、午前休みが増えてきた。
会社に出なくてできる仕事を、空き時間にしてもいいと言ってもらえたので、時間がある限りは仕事をした。
週末になり、二人と遊びに来ていた。
二人は最近調子どう?
俺は大げさかもだけど、スランプも抜けて仕事も好調だ。
うちも、アルバイト先や先生からも、褒められているで。
あと、後輩から学校新聞のことで、声かけられることもあるし。
あのさ、新聞部なんだけど、いつ頃辞めるか考えてる?
いやぁそれなんだけど、三回生になって時間に余裕はあるけど、そろそろ辞めてもいいかなって思ってる。
うちも正直、そろそろしんどくなってきたから、終わってもええんちゃうかと思ってる。
僕もそろそろ終わってもいいかなって思ってたんだ。
みんなで話し合って、新聞部をたたむことにした。
先生にも話して、終わることが決定した。
自分たちで作った部活が、いろんな人に認知されて、自分達の力にもなったのが、とても嬉しかった。
終わらせることは悲しいけど、三人で切り盛りした経験はこれからも、残っていくだろう。
夏がやってきた。
今日は、前のアルバイト先でバーベキューをしていた。
僕も呼んでいただいて、ありがとうございます。
社長は、みんなと話していた。
僕も先輩や、新吾くん、ゆーちゃんと話ながら、ご飯を食べた。
社長が僕たちに声をかけてきた。
みんなは、就活は始めてるのかな?
三人ともまだですと答えた。
そろそろ周りも就活を始まる頃だろう、みんなならきっと良い企業に入れるよ。
あ、1つ言うと私の会社も求人は出してるからね。
もしよかったらうちくる?
ありがとうございます。
この会社で働かせてもらったから、先輩たちの優しさは知ってますが、僕は東京で就職したいんです。
ほう、理由があるのかね?
はい。
東京のほうが企業が多いからです。
頑張ってね!
僕は、この会社でこれからも働きたいです。
面接も受けますので、よかったら採用してください。
新吾くんも頑張ってくれてるのを知ってるから、この一年の頑張りで決めるよ。
これからも頑張ってね。
私は、まだ決めていません。
求人を見て、いいと思ったところを目指したいと思います。
優美さんも、ここでの頑張りは知ってるから、どこへ行っても大丈夫。
これからも頑張ってね。
そうして、たくさん話してバーベキューを楽しんだ。
いよいよ、三回生の最終学期に入った。
ここまで来たら、卒業課題しかやることが無いので、週一登校だ。
僕たちは、三人でグループを組んでいるので、この日だけ学校で会うことになっている。
東京への就職が確定した。
いまのアルバイト先の社長から、東京で募集してる会社を紹介していただいた。
面接をして、無事に内定を頂いた。
これで、残すところは課題と、仕事のみだ。
忙しい日々ではありますが、みんなでやる課題は楽しい。
この調子なら、卒業課題も問題なく終わりそうだ。
新吾くんと、ゆーちゃんも課題に真剣に取り組んでくれるからこそ、いいアイデアも出るし作品の品質も上がっていく。
この三人だから、この学校生活もいいものになったと思う。
そして、卒業課題も無事に合格し、これで卒業が確定した。
Rainで、ゆーちゃんから話があると連絡がきた。
話は明日学校終わりに、カラオケでもいいかということだった。
僕も、この日は特に用事がないので、いいよと返事しておいた。
当日、ゆーちゃんとカラオケに行って、歌ったり雑談したりしていた。
ある程度歌い終わった後、ゆーちゃんがゆっくりこちらを見て、声をかけてきた。
光くん。
なに?
急にこんなこと言ってごめんなんやけど。
うん?
光くん、うち光くんのことが、前から好きでした、付き合ってください。
突然のことでびっくりしてしまった。
これまで、ゆーちゃんのことを恋愛対象として、見てこなかったからだ。
でも、僕の答えは決まっていた。
ゆーちゃん。
ごめんなさい。
僕は、それを受けることは出来ない。
ゆーちゃんは泣いていた。
泣き止むまで僕は静かに隣にいた。
そして、部屋の時間が来たので外に出た。
ゆーちゃん。
ありがとう。
また明日学校で。
うん。
光くんまたね。
そう言って分かれた。
少しぎこちない感じになりながら、残りの学校生活を三人で過ごした。
時間が立つのは早いもので、卒業式の日が来た。
この日は何度体験しても悲しい気持ちになるな。
僕は、泣きそうになっていた。
新吾くんとゆーちゃんと話していた。
みんなありがとう。
卒業おめでとう。
二人も卒業おめでとうと言っていた。
三人で先生に挨拶へ向かった。
先生ありがとうございました。
卒業おめでとうございます。
君たちは優秀でしたね。
社長達の評価もみんな高いですよ。
新吾くんは、いまのところ受かってよかったですね。
先生の教えと、バイト先の方々のおかげですよ。
ありがとうございました。
優美さん、光司くんもみんな、就職と卒業おめでとう。
これからも頑張ってください。
こうして、専門学校生活は幕を閉じた。
次回最終話、大人になったみんなと再開。
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