第25話 紫音は覚醒した

「『病気のため髪の毛が銀色になりました。脱色や染色ではありません』だと?

お前のお爺さんがこういう手紙を学校に提出するのには、よほどのことがあったんだな。

どんな病気だ、斉木。先生にだけ教えてくれ」


担任は、俺が苦手な数学の先生だからちょっと話するにはハードルが高い。

龍神様に乗って地球を回っていたから銀髪になりましたなんて、正直に言ってもたぶん信じてもらえない。


「言いたくないです」


「そうか、わかった。無理しなくていいぞ。何か困ったことがあったら先生に言ってくれ」


「ありがとうございます」


学校側はモブ爺ちゃんの取りなしで、普通に学校生活を送ることに問題はなかった。

それでも、目立つので生徒からは奇異の目で見られた。

そんな中で狩野だけは、美琴さんから話を聞いたらしく事情を知ってくれて、普段通りに接してくれた。


「斉木、テスト勉強してるか」


「頭が銀色になってそれどころじゃねぇわ」


「ハッハッハ・・・だろな」


「やばいよ俺。狩野はテスト勉強、進んでいるんだろ。頼む、ノート貸してくれよ」


「俺は姉ちゃんから教わっているだけだよ」


「じゃあ、美琴さんを貸してくれ」


「姉ちゃんがいいと言えばな。

ってか、姉ちゃんはビオラと神楽の練習しにお前の家に通っているじゃん。

神楽の練習の後に勉強を見てもらえばいいんじゃね?」


言われてみるとそうだ。


「狩野、お前頭いいな」


「ついでに、俺もお前んち行けば、一緒に勉強できるし」


「それは何か下心あってだな」


「何でわかる。ビオラちゃんに会いたいからに決まっているじゃん」


「やっぱりな」


そんなことを狩野と話していると、教室の扉から悪名名高い三年生のヤンキーたちが入って来た。


「おうおう、おめぇか。銀髪にして調子こいてる二年生ってのは」


お兄様の一人は金髪でピアスをし、制服のズボンも校則違反のぼんたんにしている。


「いいよなぁ、病気のせいってうらやましいよ。俺もよぉ、病気のせいで金髪ってことにしよっかなぁ」


「アニキ、それ名案です」


「それで通るのなら、アニキの金髪どころか七色だってアリですぜ」


七色ってそんな奴いるかよ、道化師じゃあるまいし。

それはともかく、俺は狩野がトラブルに巻き込まされないように、後ろにさげた。


「やめてください・・・・・」


「なんだって、聞こえないなぁ。もっと大きな声で言ってくれないと」


「やめてください。先輩たちに迷惑はかけてないでしょう」


恐いお兄様たちは、どっと笑った。


「アハハハハハ…、聞いたか? 先輩たちに迷惑はかけてないでしょ、だってよ。教えてやるよ、お前がおれたちにどんな迷惑をかけているのか。だいたい雑魚の癖に目立ちすぎなんだよ」


「こいつ野球部員でもないのに、ピンチヒッターでベンチ入りすることもあるらしいですぜ、アニキ」


「何様のつもりだ? ちょっとお仕置きをしてやらないと俺の気が済まないんだよ。 こっちこいや!」


それは言いがかりってものだろう。

俺の中では沸々と怒りがこみあげてきて、大声で言い放った。


「やめろと言っているだろ!!」


俺の放った言霊が波動を巻き起こし、物体の持っている周波数と共振動を起こした。

蛍光灯がパーンと割れて、窓ガラスという窓ガラスも次々に割れて飛び散った。

ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン。

教室にいた女の子たちはキャーと叫び声をあげて逃げていく。

仲には机のしたに隠れて震えている子もいる。


「な、なんだ、なんだ、なんだ」

「こいつ指も触れていないのに、ガラスを割りやがった」

「声だけでこんな・・・・・こいつヤバいやつじゃね?」


ヤンキーたちは俺を気味悪がって、うわーと叫び声をあげ教室から逃げて行こうとする。

ヤンキーを追いかけようと俺は一歩一歩と歩み寄ると、そのたびに教室の備品が破壊されていった。


「ば、化け物だー!!!」


ヤンキーは教室を出て廊下を転がるように逃げて行った。


「もういい、やめろ斉木」


狩野に肩をつかまれて、俺は我に返った。

我に返って周りを見渡すと、教室は竜巻にでもあったような惨状に変わっていた。



学校から連絡を受けて、急いで謝罪しに来たのは蒼さんだった。


「申し訳ございません。うちの息子が」


「三年生が斉木君に因縁つけたか何かしたらしく、それをきっかけに斉木くんが怒ったらこうなったと同級生が証言しています。幸いなことに誰も怪我人はでていないのですが、手を使わずにどうやって窓ガラスが割ったのか不思議なんですがね」


「窓ガラスも壊れた備品も全てわたしが弁償します。相手の親御さんにも謝りに行きます」


「怪我はしてないしちょっと面倒な生徒なので、相手先には直接行かない方がいいですよ。話し合いなら学校を通してください」


「すみません!」


蒼さんは俺のために、バッタのごとく何度も何度も頭を下げて謝っていた。


「何の病気かわかりませんが、このような問題行動を起こすようなら困りますね。医師の診断書をつけてください。

そうすれば、校長も納得するでしょうし、三年生だってもう手を出さないと思いますよ」


「診断書ですか・・・・」


「そう、診断書です」



学校からの帰り道、俺は自転車を押しながら蒼さんと歩いた。


「なんで、蒼さんが来たの」


「なんでって、親だから来たんだが、まずかったかな」


「俺の保護者は爺ちゃんになっていると思うんだけど」


「書類ではそうかもしれないが・・・・すまん、出過ぎた真似をした」


蒼さんが俺に謝るのはおかしい。

逆だろ。俺のために必死に頭を下げてくれたのは蒼さんなのに。

蒼さんは歩きながら携帯電話を出して、誰かに連絡し始めた。


「あ、もしもし、岩佐? 蒼だけど」


氏子総代の岩佐さんに電話している。

って、岩佐さんとタメ口きける仲だったのか。


「そう、そうなんだ。診断書が必要になっちゃってさ。紫音の銀髪のことなんだが。

親父が病気のせいにしたから、学校側から診断書出せって言われて。なんとかならないか。

うん、うん、・・・・相手方の親御さんの方にも、岩佐からなんとか話してくれると助かるんだが・・・」


何だろう。岩佐さんって闇で偽造文書でも作成しているのか。

しかも、相手先まで話をつけるって闇の組織か何か?

うちの神社の氏子はヤバい影の集団なのかもしれない。

ここは謝っておかないと俺の命も危ない。


「俺のせいでごめんなさい」


「ま、やってしまったことはしょうがない。それよりも制御できる力を身につけることだな」


その後、学校側に謎の診断書を提出してことはおさまった。

期末試験は、俺だけ保健室で受けさせる形を学校側はとった。

謎の難病だという理由で。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る