第24話 龍神様のエネルギー
窓の外に見える楡の木、そこに絡みついて休んでいる龍と俺は目が合った。
「聞いているか、紫音」
モブ爺ちゃんに言われて、今日学校で先生に同じことを言われたのを思い出した。
「はい、龍神様は自然エネルギーということですよね。いるんですけど・・・」
「ん? 誰が、どこに」
「そこの楡の木に龍が」
俺が指さした楡の木の方向に視線を移すモブ爺ちゃん。
「何もないじゃないか。講義を受けたくないからって嘘をつくんじゃない」
「俺には見えます」
モブ爺ちゃんは不思議そうに首をかしげたが、それにはおかまいなしに講義を続けた。
「神道では、信仰の対象が自然神であることが多い。
一番わかりやすいのは、太陽はアマテラスオオミカミ、月はツクヨミノミコトだ。
では、この世界の風や雲や川などが「流れる」自然神は誰かというと、それが龍神様なのだ。
竜神様の流れる「気」を龍脈という。風脈や水脈も龍神様のエネルギーだし、地中を走るエネルギーも龍脈だ」
地中も走るのか、龍神様は。
「龍神様は、恵みの雨を地上に降らせて下さる。
しかし、地震や台風などの災害が起こるのも、龍神様の地中を走るエネルギーや風脈のエネルギーの作用なのだ」
「地震というと、この神社でだけで起きていた地震は龍神様のエネルギーが流れたという意味ですか」
「爺ちゃんはそう見ている」
でも、今までそんなことがなかったのに、なぜ最近になってここでけ地震が起きたのか理由がわからない。
「話を戻すぞ。災害である地震や台風は、地球の大流の中で起こっている。
地震や台風は、龍神様が自然の『気』をコントロールしている現象だ」
「自然の『気』ですか」
「そうだ。地球には大気や地殻などの大流がある。
動く流れが無い状態では、地球を保っていくことが出来ないし、地球上に生命は生まれないし、生命活動も維持できない。
地震はプレートが動いていないと、大地が保てないから起こる現象なのだ。
そして台風は、地球が気温をコントロールする現象で、台風が起こらなければ熱帯はますます熱く、寒帯はますます寒くなってしまうのだ」
災害は起こらないに越したことはないが、地殻や風や海などに流れがないと生命維持できないということか。
「地震や台風が起こらないと地球のエネルギーが循環しない。
そこで、龍神様による『流れ』のエネルギーで地上に大流を起こし、地球の『気』は保たれているのだよ」
「龍神様の『流れ』のエネルギーで、地球上のバランスが保たれているのはわかりました。
じゃ、なぜピンポイントでここだけ地震があったのですか」
「ここからは爺ちゃんの憶測になるが、異世界召喚の儀のあとから祠が動いた。
蒼か勇者の誰かが紫音と共鳴を起こし、封印されたお前の龍族の力が解放されたのだろう。」
そっと窓の外に視線を移してみた。龍がそうだと言うようにうなずいている。
「爺ちゃん、龍がうなずいてるよ」
「お前、また外を見たのか。爺ちゃんには何も見えないが・・・・お前には本当に見えるのか」
「見えている」
モブ爺ちゃんには見えなくても俺にははっきりと龍の姿が見えていた。
「いるのか」
「います」
「何色だ」
「うぅーん、白いかなぁ。今夕日に反射して、鱗がキラキラと虹色に光っている」
「白龍か」
そのとき、龍は楡の木からするすると上空に飛んだと思ったら、俺がいる部屋を目指して向かってきた。
「こっち来る。窓にぶつかる。危ない!」
ガシャーンと窓ガラスを突き破って、龍は部屋に飛び込み俺をくわえて部屋を一周した。
ぐるりと方向転換をしてから、おれを背中に乗せ窓から外に飛び出した。
風を巻き起こしながら、竜巻になってどんどん上昇していく。
振り落とされないようにおれは必死で龍の体にしがみついた。
龍の体からは物凄い大きなエネルギーみたいな熱いものが感じられる。
「紫音!」
モブ爺ちゃんが叫ぶ声がずっと下の方から聞こえてくる。
龍の背中に乗ってどんどん上空に登っていくと、下には街が見え、山々が見え、次に雲の中に入って辺りは真っ白になった。
乗ったことがないけれど、飛行機に乗るってこんな感じなのかな。
雲を抜けると日本列島が見えてきて、このまま大気圏を突破しそうで怖くなってきた。
怖くて龍の体にぴったりと自分の体を押し付けてみた。
体を押し付けて目をつむると、龍から鼓動が伝わって来た。
温かい。
なんだかとても安心する。
まるで母親に抱かれているような、それとも母親の胎内にいるような大きな安らぎがその鼓動にはあった。
俺自身の心臓の鼓動と龍からの振動がやがて共振しはじめ、振動はどんどん大きくなり物凄い力になって俺の体の中を流れる感覚を覚えた。
(これであなたの周波数と共振できました。いつ何が起きても良いように、いつでも目を覚まして準備しておきなさい)
*
あれからどれくらい時間がたったのだろう。
気が付いたら、誰かが俺を揺り動かす。
「起きろ紫音、おい、起きろ」
誰かが俺の頬をピタピタと叩く。
「親父、紫音に何をしたんだ」
「龍神様の講義をしていたら、急に突風が吹いてきて紫音が飛ばされたんだ」
蒼さんとモブ爺ちゃんの声がする。
「あ、気が付いたか紫音。大丈夫か」
蒼さんは俺を抱きかかえながら、真剣に俺のことを心配しているようだ。
「蒼さん、すみません。モブ爺ちゃんを怒らないで・・・」
「あ、悪かった。急に突風が吹いて窓ガラスが割れたと思ったら、お前が楡の木にひっかっていたもんだから、つい・・・」
「そうだったんですか」
「そうだったんですかじゃない。まるで他人事みたいに」
よく見ると、俺は蒼さんに抱きかかえられ、周りにはモブ爺ちゃんと美琴さんと踊りの先生、そしてビオラが心配そうにのぞき込んでいた。
「やあ、みなさんお疲れさまですぅ」
「何のんきなこと言ってるのよ、紫音君ったら」
美琴さんの厳しい声が聞こえた。
「あんた、感電でもしたの? 髪の毛が銀色になっているわよ」
「へ?」
美琴さんがポケットからお化粧のコンパクトミラーを差し出した。
そこには、銀髪になった俺が映っていて、それを見たとたん俺はまた気絶してしまった。
そんな、バカな・・・・・
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