第21話 回想録・異世界にいた最後の日―②

「しまった!」


その瞬間、クロードは急いで登っていた階段からひらりと空中を舞い、ルイの方へ腕を差し出した。


「ルイ、つかまれ!」


ルイも必死で腕を伸ばした。

やっとクロードとルイの手がつながったそのとき、ビオラが叫ぶ。


「次、真ん中ですわ!」


「え? 無理」


「無理じゃないわ! わたくしを信じて! 最悪そのまま落ちてもよくってよ。落ちた所がちょうど真ん中になるはず」


弱気のルイに自分を信じろと言うビオラ。

ルイは目を瞑って、クロードの手を強く握った。

落ちた場所は、ビオラの言った通り真ん中の階段だった。


ホッとする間もなくビオラから指示がかかる。


「次! このまま、上まで一気に登りつめますわよ!」


三人の勇者は、果てしないと思えるほど長い階段を一気に駆け登った。

まるで心臓破りの長い階段を、死に物狂いで三人は駆けて行く。

これさえ登り切れば魔王のいる場所に行けるはずだと信じ、最後の力を振り縛るようにして足を動かした。

やっとの思いで階段を登り切ると、そこに広がった風景を見て三人はがっくりと膝を落とした。

なんとそこには、更にまたずーっと奥まで長い廊下が続いていたのだ。

あの長い階段を全速力で登ったばかりだ。

体力には自信があるクロードでさえ、息があがっている。


「はぁ、はぁ、はぁ、ご冗談でしょ。ここからまだ続くなんて、冗談はよし子さんだ。山越えだって茶屋くらいあるだろが。

ここからまた続くのかよ。休みてえ!」


「はぁ、はぁ、・・・・・ちょっと待って。考えようによっては、廊下を進む間に息を整えられるんじゃないかしら。これはかえって好都合じゃありません? やっぱり運が味方してくれていますわ」


「お嬢様はこんな時でもポジティブでいられてうらやましい限りです。わたしはここで待っています。お嬢様とクロード、お先にどうぞ」


ルイの発言にクロードはあきれた顔で言った。


「お前ってやつは、そうやってなんでいつも楽をしようとばかりするんだよ」


「失礼だな。わたしが楽をしようとしてるだと?」


そこへビオラが二人の間に入った。


「まぁまぁまぁ、お二人ともおよしになって。せっかくここまで戦ってきた仲じゃありませんか。ラストバトルで仲間割れしてどうするの」


しかし、ルイは譲らない。


「そりゃあね、わたしは君たちみたいな最強なスキルを持っていません。だからこそ、君たちの足手まといにならないように背後を見張っているのです。そういう意味ですよ」


「わかっているのなら、売られた喧嘩を買うなんてばかばかしくありませんこと?」


と、ビオラはルイをなだめてくれたが、その親切に気が付かないのかルイは火に油を注ぐ。


「わたしが君たちに勝る点はとは何か、王様が勇者を選ぶときに言ってくれた。

『お前は魔力もない、技も知恵もない。しかし、顔だけはいい』と」


ビオラとクロードは最後のセリフを聞いて口をあんぐりと開けたまま戻らない。


「はぁ? 何をおっしゃいますの? このパーティでは自分一は番顔がいいとおっしゃりたいわけ?」


「おやおや、今度は顔自慢がはじまりましたってか。どうなってんだかこの勇者パーティは」


「わたしが言ったのではありません。王様がそうおっしゃったのです」


「お前さぁ、それを否定もせずに・・・この戦いの場で言うってぇのは賢くないね。

だいたい、戦いの主人公は俺様だ。主人公は男前だという設定に普通は決まっているからな」


「はぁ? クロードったらいつの間に主人公になったのよ。わたくしが女主人公よ。主人公は美少女と設定は決まっていますわ」


三人とも熱くなると誰も止める者がいない。

この戦いの主人公は皆自分だと言いあってきりがない。

「誰か止めてくれ」と、陰で魔王が言ったとか言わなかったとか。

しばらく喧嘩を繰り広げた後に、一番先に冷静になったのはビオラだった。


「ふん! バカバカしいわ、やめませんこと? 頭を冷やしましょう。

こんなところで喧嘩していても無意味ですわ」


「こんなところ? 魔王の宮殿ですぜ? こんなところと言われたら魔王さまもさぞお怒りだろうよ」


「そうだそうだ」と陰で魔王が言ったとか・・・・


「しかも、無意味と言うけどな、俺はお嬢様のようにクールな頭は持ち合わせてないので、頭冷やせはルイに言ってやってください」


「わたしはいつでもクールさ。クールだから女の子が放って置かなくて困ってるんだけど」


ルイはキラリとポーズを決めた。

ビオラとクロードが口をあわせて言った。


「こ・い・つ・・・・」


だがその時、ルイはあることに気が付いた。


「ちょっと待て! ほら、喧嘩のおかげで息が整ってきてないか?」


「あれ、本当だな。知らぬ間に」


「あらやだ、息が整っているじゃないの。よかったですわ」


あはははははは・・・・

一体何がそんなにおかしいのか、三人の勇者はのんきに笑いあった。

そして上座のドアが少し開き、そっと顔を出す者がいた。

それは、いつまでたっても攻撃してこない勇者どもに、しびれを切らし自らすすんで顔を出した魔王だった。


「コントはもう終わったか?」

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