第13話 自転車の二人乗り

信号待ちしていると、狩野の声がした。


「おーい、斉木! ビオラちゃんと一緒に二人乗りして、どこに行ってたんだよー!」


部活が終わった狩野が、交差点の向こうで叫んでいる。

ヤバい。今度は狩野に見つかってしまった。

あいつはビオラファン1号だし、こんなところ見られたら面倒くさいことになりそうだ。

こっちの信号が青になったタイミングで、おれは急いで自転車で逃げた。逃げ切れるか俺。

しばらくすると、狩野が猛スピードで自転車で追い上げてきた。

いつもは狩野を振り切れるのに、今はビオラを乗せている分だけ俺に負荷がかかって不利な状態。


「なんだよー、斉木。俺に内緒でビオラちゃんとデートしてたのかよー。お前ってそういうやつだったのかよ」


「デートじゃない」


「じゃあ、なんだよ」


「・・・・家出だ」


「何? ビオラちゃんと駆け落ちしたのかぁ!!!! この野郎」


こわっ!狩野が猪突猛進で追いかけてきた。

俺は必死に狩野を引き離した。

橋を渡って右に曲がり中学校の角まできたら、上り坂になる。

ビオラを乗せてる分、そこからは逃げ切る自信がない。

その前になんとかしないと俺は狩野にボコられる。


「ビオラ、狩野の自転車に乗ってくれ」


「なぜですの?」


「そのほうが狩野は喜ぶからだ。頼む、そうしてくれ」


「紫音のお願いなら、そうするわ」


中学校の前で俺はビオラを下して、俺が逃げ切れるようにビオラに演技をしてくれるように頼んだ。

そして、狩野が追い付くまで俺も一緒に待っていた。


「へへ! 追いついたぜ斉木。さあビオラちゃんとどこで何をしていたのか、説明してもらおうか」


「狩野さん、駆け落ちなんてしてませんわ。こんな陰キャで冴えない男とわたくしが駆け落ちするわけないじゃないの」


想像していたよりも辛辣なセリフに、俺はビオラにけなされた気分になった。


「狩野さんの方がマッチョだし、わたしを乗せても余裕で自転車をこげるんじゃないかしら」


「ああ、そう・・・かも。いいえ、そうです、そうなんです。こんな陰キャで冴えない斉木よりも俺の方が断然強いっす」


「やっぱりー! そうじゃないかしらっていつも思っていましたのよ。じゃ、わたくしを乗せてくださる?」


「え、いいんですか? こんな俺の自転車で。汚れますよ、いいんですか? ビオラちゃんが乗るならきれいに拭かなきゃ・・・」


狩野は自転車の荷台をハンカチでゴシゴシ磨き始めた。


「乗ってもいい? お・ね・が・い」


「どうぞ、是非是非! お乗りください。ってか、ビオラちゃん、割烹着姿も可愛いっすね」


俺は、ビオラが狩野の自転車に乗るのを確認してから、上り坂を登りはじめた。もちろん、立ちこぎで。


「狩野、ビオラから異世界の話とか聞いたらいいじゃん。ビオラがどんな敵と戦っていたかとか。」


狩野はビオラを後ろに乗せた緊張と、いきなり自転車が重くなったのと、上り坂のせいで顔が真っ赤になっていた。


「ビオラちゃん、異世界で、ど、どんな敵と戦ってたんですか?」


「ゴブリンとかオーガとか・・・いろいろよ。最終的には魔王と戦っていましたの」


「す、すごいですね。魔王まで行くってレベル高くないですか?」


「そんなことありませんの。なんだかんだ運の良さだけで勝ち進んでいたら、魔王の宮殿まで行けちゃったってかんじで」


魔王ってどんなやつなんですか? やっぱり角とか生えて恐ろしい姿をしているんですか?」


「いやだわ、狩野さんお会いになったじゃありませんか。

魔王って、蒼さんのことよ。蒼さんはあっちの世界で魔王でしたの。なかなか強い魔王で」


「へ? すごいネタっすね。どんなマンガですかそれ」


「だから、紫音のお父さんは魔王だったのよ。あ、いけない! これは言ってはいけない秘密だったわ」


「マジで?」


「マジよ」


狩野の足が止まりそうになり自転車がふらついた。


「狩野さん、蒼さんが魔王だったって話。誰にも言わないでくださる? ばれたらわたくし叱られますわ。お願い。

これは、あなたと私のひ・み・つ」


「だ、だ、大丈夫っす。俺は秘密を守る男っす!」


狩野の自転車はかなりふらついていた。あの感じでは、もう俺に追いつけないだろう。


「狩野、ゆっくりでいいぞー。二人で楽しくおしゃべりでもして登ってこい。俺は先に行ってる」


俺はこれで狩野に秘密を知ってもらう形になったし、狩野には思いがけずのデートコースになったのだから、お互いウィンウィンだ。

それにしても、思っていたよりビオラってバカじゃないかもしれない。

今はこの世界に来たばかりだから慣れるだけで精一杯かもしれないが、一回覚えるとなんでもこなせちゃうんじゃないかな。

クロード達が言っていた聖なる力とやらはまだわからないが、ビオラに交渉する才能は確実にあるとみた。

狩野とビオラを坂道に残して、俺はモブ爺ちゃんと元魔王がいる神社へと自転車を急がせた。

ビオラに偉そうなこと言える身分じゃないよな。

勇者たちに負けないように俺もなんとかしなくちゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る