第2話 上杉景虎奮戦記(仮題)

 上杉うえすぎ三郎さぶろう景虎かげとら(1554~1579)という戦国武将をご存じでしょうか。

越後えちごの虎」こと長尾ながお景虎かげとら、後の上杉うえすぎ謙信けんしん(1530~1578)のことではありません。

 関東の雄、北条ほうじょう氏康うじやす(1515~1571)の七男として生まれ、謙信の養子となり、謙信の姉の子である上杉うえすぎ景勝かげかつ(1556~1623)との家督争いに敗れて命を落とした人物です。

 戦国時代への逆行転生もので、この人物に転生してしまった、というのは中々面白いのではないでしょうか。


 なら自分で書けよ、って? いやあ、戦国時代はめちゃくちゃ詳しい人が(作者にも読者にも)いっぱいいらっしゃいますからね。そう簡単には手が出せないっす。


 この景虎くん、上に書いただけでもおわかりの通り、実に波乱万丈な生涯を送っています。

 彼に転生したとしたら、まずは「御館おだての乱」で上杉うえすぎ景勝かげかつ直江なおえ兼続かねつぐ(1560~1620)コンビ相手に勝利を収めなくてはなりません。

 いきなりハードモードにも程がある。


 いや、史実でも序盤は優勢だったようなのですけどね。義兄弟だった(北条ほうじょう氏の娘をめとっています)武田たけだ勝頼かつより(1546~1582)に裏切られたり、兄の北条ほうじょう氏政うじまさ(1538~1590)が支援に消極的だったりして、次第に劣勢になっていきます。

 そして、軍事面での頼みの綱だった北条きたじょう景広かげひろ(1548~1579)――「ほうじょう」ではありません――という武将が暗殺されたことが致命打となり、敗死に追い込まれるのです。


 やはり鍵になるのは、いかに勝頼を繋ぎとめておけるかという点になるでしょうか。

 それと景広の暗殺阻止ですね。


 ちなみに、景広の父の北条きたじょう高広たかひろ(1517?~1587?)という人は、上杉うえすぎ北条ほうじょうとの間で裏切り寝返りを繰り返してきた呂布りょふみたいな人物なのですが、親子そろって景虎支持に回り、最後まで忠節を尽くします。

 中々美味しいキャラになりそうですね。


 で、まあ何とか勝利を収めたとして、次は織田おだ信長のぶなが(1534~1582)との対決が待っています。

 とその前に、メタ的には、敗北した景勝・兼続コンビをどう扱うかという問題がありますね。

 とてもじゃないですが、素直に家臣として仕えてくれたりはしないでしょう。かといって、首をねてしまうのも、ねぇ。景虎の妻は景勝の姉妹(史実では、景勝の誘いをはねつけて景虎に殉じます)という縁もあるため、なおさら扱いが難しいですね。

 いや、景虎の立場的には斬首一択なのですが。


 まあ、景勝はともかく兼続は……「愛と義の人」みたいなイメージになってますが、実際には結構な畜生だし、やったことはといえば結局上杉家の領土を減らし続けただけだしね。こいつは斬首でいいかな(笑)。


 と、冗談はさておいて、やっぱり惜しくも取り逃がしてしまうという方向に持っていくのが妥当そうです。


 しかし、西へ逃がして織田家に保護され、越後えちご攻略の先兵として送り込まれて来たりしたらたまったものではありません。

 逃がすとしたら(もちろん、景虎的には逃がすつもりはないんですよ)、やはり東の方。会津あいづ蘆名あしな家を家督相続の混乱に乗じて乗っ取り、最上もがみ伊達だてと組んで景虎に対抗するといったところでしょうか。


 そうなると中々手強そうですが……。でも最上といえば梟雄きゅうゆう最上もがみ義光よしあき(1546~1614)ですし、伊達だて輝宗てるむね政宗まさむねの父:1544~1585)だって一筋縄では行きません。

 お互いに美味しいところだけ持っていこうとするものだから疑心暗鬼の足の引っ張り合いになりそうです。


 まあ呉越ごえつ同舟どうしゅうという点では、越後えちご相模さがみ甲斐かいの新三国同盟も五十歩百歩なんですけどね。

 しかし、信長に対抗するにはこれしかありません。


 戦国ifものを書く場合、おそらく皆さん頭を悩まされるのは、信長をどう扱うか、という問題でしょう。

 主人公が信長本人や織田陣営の場合はともかく、敵対勢力だと、信長を打倒して服従させたり処刑したりというのは書きにくい。


 なので、「史実通り本能寺ほんのうじの変が起きました」というパターンも多いようですが……。いやいや、主人公が引っ掻き回して大幅に史実と状況が変わってしまっているのに、都合よく本能寺の変が起きるのはおかしいだろ、と思ってしまうんですよね。


 本作の場合、上杉・北条と同盟して後顧の憂いを無くした武田家はそう簡単に滅ぼせませんので、信長が西に目を向けられる状況ではなく、史実通りの本能寺の変は期待できません。

 むしろ、この状況でなら、上杉・北条・武田の連合軍対織田軍団の天下分け目の一大決戦が起こることにも説得力があるでしょう。


 関東や東北の弱小大名からスタートして、仮に東国を統一したとしても、それで信長と決戦を行って倒しました、というのは書きにくい(もしかしたらそういう作品もあるかもしれませんが)。

 しかし、景虎が御館おだての乱に勝利して新三国同盟が成立したことにすれば、天下分け目の決戦が書けるのです。――相当な構想力、描写力が要求はされますけどね(笑)。



 もしかしたら、蛮勇を奮って自分で挑戦する可能性もあるのですが……。どなたか、挑戦なさいませんか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る