表現とはなにか
本エッセイの更新もキリ良く五回目となりました。
皆様のお陰で日々なんとか生きております。ありがとうございます。
人間という短絡的な生物にとって、暇なことと無為なことが一番の苦痛ですからね、こうしてなにかしらのやりがいを持てるということは、生きるということに他なりません。
さて、今回のテーマは「初心者へ向けた表現方法の解説」となります。
私もあなたも、誰も彼も、必ず、間違いなく、大方ぶつかったことはある「表現方法」。まずは日本語に於ける表現の技法を羅列していきましょう。
隠喩
直喩
換喩
提喩
転喩
擬人法
黙説法
疑惑法
くびき法
体言止め
対句法
倒置法
反復法
誇張法
緩叙法
漸層法
対照法
パッと思いつく限りの技法は上記の十七種類の技法です。
どのジャンルの小説でも、必ずひとつは遣っているものでしょう。でなければ、日本語としてそもそも成り立っていないということになりかねません。
全ての技法を用いて例文や本質の話をしても良いのですが、初心者向けのお話というよりは、中級者以上、上級者未満の方にとっての内容となってしまいますので、割愛します。
いずれ解説しますので、待てないというひとは、独自で調べ、例文などを作成することを勧めます。
思いつく限りの技法に基づいたものですが、今回は名前の紹介だけに留まります。
初心者にはもっと基礎的な処を、煮詰めていくほうが有意義かと。
文章能力を上げる。
そもそもこの言葉自体が私にとって、よくわからない言葉ですね。
文章能力は「上げる」ものではなく「上がる」ものであり、それは作者の意欲次第でどこまででも上を目指せるイージーなことです。
難しい、上がらない、と考えている作者の方々には、大変不躾な物言いとなりますが「小説を執筆する前に、書籍化されているものを読んでいますか」と訊かざるを得ません。
そして大体の作者が上記の質問に対し、返答されることが「読了したけれど、能力が上がらない」という言葉。
そもそも「その程度」の読解力で小説家になりたいと思うから、苦痛を伴うことになるんです。
趣味として書く分には、誰に見せるまでもなくひとりで余韻に浸って、自己満足していればいいんです。
「誰かに見てもらいたい」「評価してほしい」という感情は素晴らしい向上心に長けた潔白な言葉ですが、見てもらう相手はCPUでも機械でもなく「ひとりの人間」です。
貴重な時間を労して、読んでほしいのならば、まずは「小説が書けるまで読みましょう」。
読まずに小説を書くということの何たる甘えか。
担当した作家のなかには一日の半分以上を読書に費やし、執筆時間に追われていた方がいらっしゃいました。この方は大変素晴らしい表現法の持ち主で、私が今まで見た作品のなかでも上位に入るほどの表現者でした。
読書量=表現能力に長ける、ということでは決してありません。
問題なのは「読了後、作者の意図を汲み取れる」かという一点。
大半のひとは様々な小説を読んだあと、「面白かった」「面白くなかった」、「キャラクター造形が凝っていた」「展開が良かった」etc.などというありがちで思考すらしていない結果を産み落とします。
小説家を目指す、亦は誰かに読まれたい人間が、陳腐で空虚な内容だけで終わらせて成長できますか? できませんよね。
何度も云うように、世界とは一定の共通点を持っています。
業界、人種、法、地域、自然、etc.
どこかでもお話したかと存じ上げますが、警察官と犯罪者は同じ、加害者と被害者は同じ、スーパーと通販サイトは同じものです。
一見関係のない、対局に位置する出来事も、類似性のある出来事も、全て等しく同じ原理で動いて、結果としてあります。
小説「だから」こうしなければならない、芸術「だから」こうなる、といった考えを持っていると、周囲の人間から置いて行かれることになります。
視野を広く、そして物事の本質を見極めることを続けて行けば、自ずと文章能力は上がります。
WEBなどで「小説 表現 向上」などと調べると、本当に意味のないやり方を提示して、読みに来た作者を無意味に惑溺させ零落させようとするページがたくさんありました。
近道をしようとするから、結果として足を引っ張られます。自業自得です。
世の中には「近道」なんて道はありません。
時間を消費しない近道を、私は「邪道」と云います。
邪道には邪道のメリットデメリットが存在しますが、これも最低限の基礎ができたあと、自身の小説家としての技法を確立させたあとに発生する選択肢です。
「なんとなく」で書いていても意味はありません。人間の脳というものは、一度取り組んだ情報を「忘れる」ことができますが、「忘却」することはできません。零にはできないんです、無駄な時間を遣う暇があったら、本を読みましょう。
それでも尚、自分は近道をして、小説家になりたい、亦は色んなひとに評価されたいと願う作者がいるのならば、余程の恥知らずか、才能の原石か。
愚昧な手段とは思いますが、それでも私は尊重します。
最短で小説家になりたいと考えているひとがいるのならば、一応目指せる邪道もありますが、それを云ってしまうと本当に苦痛を伴うので省きます。
初心者の皆さん、亦は自称中級者の皆さん。
本を読んで、感想文を書いて、本質を見極めてください。
皆さんには素晴らしい才能があると思います。当然ながら私のような編集者にしかなれなかった人間とは違い、小説家としての一歩を踏み出した皆さんであれば、本を読むことくらいなんでもないはずです。
あとは学校の勉強と同じやり方で知識や技法は身に付きます。
こんなエッセイを読む前に、一文字でも多く、少しの時間でも構いませんから、書籍化されている小説を読んでください。
一週間に二冊を目標に読んでみれば、必ずあなたの力になります。
さて。前置きはここまでにしておきますね。
上記の内容では「初心者向け」というより「私の一方的な説教」となってしまいますので、やりたいことと云いたいことは別にしなければなりません。
本題に移りましょう。
長ったらしく説教染みた言葉を厭というほど羅列しました。
読むのが厭になったひとも、頭に血が上ったひとも多少はいるはずです。
特に初心者の方にはそういった傾向が起こりやすいように、文章を書きました。
表現とは、「感情を動かす」ということです。
感情を動かすとは、人間の心理的行動を理解することです。
即ち人間観察や精神分析が必須になる技法です。
小説に於いての主人公は、必ず「行動」をします。
行動に含まれる、心理的要因はいったいなんでしょうか。
そして作者が同じ立場になった際、同じ行動をするでしょうか。亦は読者が同じ立場になった際、も同様です。
答えは「絶対に取らない」です。
小説の登場人物が「行動」を起こした際、読者の「感情」が引っ張られ、心情を重ねます。
引っ張られるということは「読者と登場人物との間に絶対的な壁」が発生しているのです。この絶対的な壁とは、空想の産物に対する羨望であり、読者視点の冷ややかな解答でもあります。
表現に関することで重要なものは「ギャップ」です。
そして「小説を書く」ことは「世界観、主題、登場人物、物語」といった必要最低限の情報は揃っているのでしょう。
ひと通り揃えた材料を、「作者目線」ではなく「客観的」に並べてください。
「都合の良い展開」はないか「無理やりな理屈」はないか「登場人物は人間」かなど、様々な問題が抽出されるでしょう。
そして文章能力を上げる最もポピュラーな方法としては「真似」をすることです。
三島由紀夫、谷崎潤一郎、芥川龍之介、安部公房、大江健三郎、etc.(このあたりの作者選別は私の完全な趣味です)
私の場合は三島由紀夫「金閣寺」、谷崎潤一郎「細雪」「痴人の愛」を写経のように文頭から文末まで、紙の上に手書きで書きました。
意味はたくさんありますが、ふたつ紹介します。
ひとつは「実際に書いたであろう作品の完成時間を計算できる」こと。
これは執筆時間の大幅な逆算が可能であり、それをイメージして執筆時間を決めることが目的でした。かの文豪も一作品を終えるのに「約三箇月」かかる、であれば自分はもっと時間をかけなければいけない、という心理的な余裕を生み出すことで、飽きることなく取り組めます。
ひとつは「表現を真似、暗記する」ことが目的でした。就中「金閣寺」では少年の心情を。「痴人の愛」では人物的背景を学ぶために写経しました。
大変有意義な時間だったと今なら思います。
そして真似をすること自体は悪いことではありません。パクりは無論、いけないことですが。
敬愛する人物の小説を、真似て落とし込みましょう。そうすればきっと見えてくる表現方法や「単語の持つ意味」を理解できます。
漢字の魔力、日本語の魔性、行間の意味。全てを理解するつもりで写経することをおすすめします。
ですがいきなり長編中編を写経するのではなく、短編で良いと思います。
ご自身のために、写経のために短編をたくさん読んでみては如何でしょうか。
読了後「もう一度読みたい」と思える作品をいくつかピックアップし、頭に叩き込むつもりで書きましょう。
そして書きながら「作者の意図」を読み解いてください。
上手になりたければ、相応の対価を支払うべきです。
なにも失わず、知り得た知識は身になることはありません。
そして、小説家を目指すひとにとって、最も大きい対価こそ「時間」です。
読書に執筆にアイデア出し、これらを一日のなかでどれだけ消化できるか、こういったことを考えながら挑むと、すごく楽しいですよ。
以上が初心者へ向けた「表現」に関するエッセイでした。
内容が一見薄いと感じるひとは多数いらっしゃるでしょうが、よく言葉を紐解いてください。
ヒントはたくさん書いています。ひとつでも読み解くことができれば、きっと大きな進歩です。
それでは、この場を借りていつも応援してくださっている皆さんにご挨拶を。
いつも本当にありがとうございます。
コメントを読むだけで日夜破顔して過ごしています。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
まだまだ初心者向きの記事が続きますが、自称中級者の方にとっても、一考を興じる内容だとは思っておりますので、何度も読んで考えて、理解しましょう。
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